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夢日記①

こんにちは、よこしま ゆかりです。

私はあまり夢を見ることがないのですが、稀に不思議な夢を見ます。今回は私が見た夢のなかから、いくつかを書き起こしました。

※夢中夢はホラーテイストなのでご注意ください。


立てこもり

某日。
何故か中学の制服を着ていて、高校の体育館にいた。何かの学年集会の最中だった。何を話していたかはもう記憶にない。高校の時の学年主任の先生が話していた。突如として、「ワックスがけを行います」というアナウンスが入った。不審者侵入の合図だった。全員が息をひそめ、学年主任の先生が指示を出そうとしたところに、ナイフと銃をもった黒づくめの不審者があらわれた。壁際に立っていた私の担任の先生は殺された。腕に大きな力が加わり、それが小学生の時の大親友Sちゃんだとわかるのに、さほど時間を要さなかった。Sちゃんは東京に引っ越したはずなのに。前には同じく親友だったCちゃんがいた。黒づくめの男は私達に壁際に並ぶように言った。とっさにCちゃんとSちゃんの手を取り、男から少しでも離れようとキャットウォークに登るずる賢い人たちの群れに加わった。誰もが後方に行こうとする中、下から銃声と悲鳴が聞こえた。「さっさと並べ」といわれているような気がした。二階の渡り廊下に出られる出入り口の近くに並んだ私達に、カンカンと近づく足音が聞こえた。男はキャットウォークに登ると生徒たちの前を通り過ぎていく。Cちゃんの前で止まったところで、「ここまでの生徒は下に降りろ」と指示した。じりじりと抵抗するように降りていく先頭。男が怒鳴り声をあげて速度を速めていく。Cちゃんは後ろを振り返っていたが、男におびえてそのまま下に降りていった。男がキャットウォークに行き来するためのはしごを降り始め、頭が見えなくなったところで私はSちゃんの手を引っ張って一目散に渡り廊下に出て、そのまま玄関に向かった。玄関には先生たちや保護者、パトカーが所せましと並んでおり、上履きのまま玄関に出た私達は速やかに保護された。パトランプがちらつく中、体育館からは銃声が聞こえ、目が覚めた。

先生

某日。
私は白い砂浜の海に来ていた。周りには水着の男女がアリのように忙しなく動き、笑い声や足が砂浜を踏みしめる音がそこら中に転がっていた。カラフルな水着と肌の色がひしめく中、暗い藍色の和服をまとった人を見つけた。日傘をさしていて顔は良く見えなかったが、身長から彼が私の慕う先生であることはすぐに分かった。先生のもとに歩を進めると、日傘からちらりとよく通った鼻筋が覗き、グレーの中に青い琥珀糖が溶け込んだような、先生独特の美しい瞳が見えた。ふと口元を緩めた先生は、優雅な所作で私の方を向いた。和服の中にはスタンドカラーのインナーが見えており、書生のような恰好をしていた。
「お一人ですか。」
私はなぜ先生が、そのような格好で、騒々しい海にいるのかを聞くよりも前に尋ねた。
先生はさしていた日傘を少し傾け、私の下にも影を作ってくれた。
「えぇ、そうです。一人できました。こんなところで遭うなんて奇遇ですね。なぜここに?」
問われた私は答えに詰まった。自分でもわからないからだ。しかし、わからないものは仕方がないため、少し考えてから素直に白状した。

「私にもわかりません。気付いたらここに。」
先生は、人形のような顔には少し似合わない、豪快な「ははは」という笑い声の後、「私もね、わからないのですよ。」と続けた。
「どうして海に来たんでしょう、私達。」
「あぁ、君。悪い癖ですよ。全てに理由を求めては、世界が狭くなってしまいますからね。」
お茶が良かったのに、ずいぶん日が照るからと冷えたポカリスエットを奢ってもらった。
「理由なんてものは、必要な時もありますが、必要じゃないときの方が多いものですよ。自分が納得する答えを得たらそれで満足してしまうでしょう。」
「そういうものですか。」
先生はおもむろに持っていた日傘を私に差し出した。私が傘を受け取ると、先生は黙って歩き出した。
「君がここにいる理由を知らない間だけ、ここにいられるなら。君はどうしますか。」
不意の質問に先生を見上げる。こんなに暑いのに、汗一つかいていない先生に違和感を覚えた。涼しそうな顔でうっすらと笑う先生は、実は投影されているだけで本当はこの海にいないのではないかと思うほどだった。しかし、足元にまとわりつく砂が、それを否定する。
「先生は本当はここにいる理由をご存知なんですか。」
「質問の答えになっていませんよ。答えたら教えて差し上げます。」
「理由を知ったら脱出できるなら、探し求めます。」
「……そうですか。えぇ、私は我々がなぜここにいるかをよく理解しています。なぜ私なのかはわかりませんが。それで、脱出だなんて。君は閉じ込められていると感じるのですか。」
「でも、いつの間にか理由もわからずここにいたら、何かに閉じ込められていると感じてもおかしくないでしょう。」
「では君は、誰かが何かの目的で、箱庭の海に私達を閉じ込めたと。」
先生にゆっくりと紡がれる言葉にひやりとした。相変わらず体温を感じさせない先生だったが、スタンドカラーのボタンをゆるめ、適当なベンチに腰をかけた。
「先ほども言いましたが、ここにいる理由を理解しています。ここでは私以外君の言うことなんて誰も聞いていませんよ。」
「教えてください。なぜここにいるのか。」
先生はこちらを見ることさえしなかった。あまりの暑さに、私は先ほどもらったポカリスエットを開けた。思えば先生は日傘以外何も持っていない。
「教えて差し上げますよ。でももう少し後にしませんか。多分君は、私に言いたいことでもあるのでしょう。話してごらんなさい。君と二人で話す機会なんて、最近はありませんでしたから。」
ここのところ、仕事の忙しさ・友人の死・今後の身の振り方などで悩んでいた。そこまで言うならと、少しずついろんな話題を話した。先生は時折相槌を打っていた。何か答えとなるものを示すわけでもなく、かといって否定するでもなく、静かに私の言葉に耳を傾けていた。先生と話せた安堵感と嬉しさに、ここ最近の悲しさが混ざって何が何だか分からなくなっていた。名状しがたい感情のせいで、いつの間にか涙がこぼれていた。泣きじゃくって言葉が出なくなった時、視界にぬっと色白い手とグレーのハンカチが入った。しばらくしてようやく落ち着いた後、頭の上から声が降りかかった。
「そうそう。どうしてこんなところにいるのか、についてですが。直にわかりますよ。」
えっ、と思った瞬間に目が覚めた。


夢中夢

某日。
映像が流れていた。黄色い背景に、映画のフィルムのようなフレーム。中・小・大の順に並んだ四角い穴の開いた黒い四角……マンションか何かの影絵が描かれていた。まもなくすると、上から大きくかっぴろげられた目が特徴的な、全く同じ顔をした赤ん坊二人が中と小のマンションの上、随分と丸っこいうさぎが一番大きなマンションの上に降り立った。二人と一匹が降り立つと、すぐさまマンションから古い映写機が生えてくる。赤ん坊二人とうさぎは、正面を向いたまま両手で映写機を回し始めた。しばらく回していると、マンションがぐらぐらと揺れ始める。揺れは次第に激しくなっていったのに、赤ん坊もうさぎも表情を変えることは無かった。とうとうマンションが崩れ始め、まずはうさぎ、次に中くらいのマンションに乗っていた赤ん坊が下へ落ちていった。一番小さいマンションの上に乗っていた赤ん坊は、体勢を崩した際にこちら側に手を伸ばした。フレームに手をかけ、ずるりと下に落ちたところで目を覚ました。すると、布団の中にある足の方に、生ぬるい温度を感じた。むくりとした何かがずんずんと進んで来る。とっさに布団をどけて逃げようとしても、腕が鉛のように重くなっていて一切の自由がなかった。そうこうしているうちに、私の頭の下から、直径80cmくらいの巨大な顔の赤ん坊が出てきた。赤ん坊の頭が出る頃には腕も軽くなっており、逃げようとした瞬間に目が覚めた。

巨大な友達

某日。

突如東京に、600mある少女が出現した。どう見てもヒトではない、バーチャルの3Dモデルの女の子だ。その子は配信をしているようで、配信中の声がうるさくて近隣住民から苦情が出ているというニュースだった。その少女のアバターにとても見覚えがあった。配信アプリで知り合って、仲良くさせてもらっているTちゃんだった。投影されているというわけでもなく、アバターが実体をもっているようだった。実体があるということは、たぶん心臓があって、血管があって、肺呼吸をしている。それが有機か無機かはさておき。実体があり、クレームが来ているなら、処分されるのも時間の問題だと思い、私は彼氏を連れて急いで東京に向かった。飛行機に乗っている間、Tちゃんの青い髪が少しだけ見えた。お昼ご飯にうどんを食べて、スカイツリーに登るとTちゃんが見えた。巨大なスマートフォンを持っていて、配信準備をしているようだった。
「あれがお友達?大きいねぇ。」
彼氏が隣で呑気なことを言ったそばから、Tちゃんが何か操作ミスをしたのか「やばいやばいやばいやばい。」と言っていた。とんでもない大声で、スカイツリーにいる私達にも筒抜けだった。独り言が全部東京に漏れているのは、少し気の毒に思った。
「せっかくならもう少し近くで見たいけど、スカートはいてるみたいだし、そうもいかないねぇ。」
「あのアバター、スカートの中真っ暗だから大丈夫だよ。」
「そういう問題じゃなくて~……」
話し合って、もう少しだけ近づいてみようかと展望台に背を向けたら、私のスマートフォンに通知が来た。Tちゃんの配信が始まった。通知をタップして、アバターを読み込んでいたら、Tちゃんはいつもどおり入室者の名前とコメントを読み始めた。こんな小さな端末で聞くより、大きなTちゃんから直接聞く方が早かった。ほどなくして読み込みが終わると、それはもうびっくりするぐらいの大音量だった。音量を下げても音が割れている。Tちゃんが笑うと、展望台の床がぶるぶると震えた。
『今彼氏と東京のスカイツリーにいるよ』とコメントすると、「マジで?そこから私見えるんじゃない?」と返してくれた。『見えるよ、今からもう少しTちゃんに近づく!』と打つと、外からも端末からも「えー、待ってる待ってる。」と聞こえた。
タクシーに乗り込み、行先を伝えた。車に乗っている間、運転手は「どこから来たんですか?」とか「今日は暑いですね」などたわいもない話をふってきた。ところどころTちゃんの声で聞こえなかった。
「あの女の子、なんなんでしょうね。急に現れて。静かにしてるならまだしも、毎日毎日大声で何か喋ってるんですよ。朝はラジオ体操、夜はなんだかよくわからない話ばかりぶつぶつと。気味悪いったらない。」
「あれ、私の友達なんですよ。」
そういうと、運転手は言葉を発さなくなった。彼氏は、Tちゃんみたら次は上野動物園に行きたいな、なんて話している。
タクシーを降りて少し歩くと、ほどなくしてTちゃんの足元に到着した。
「なんでそんなに大きくなっちゃったの?」
私は張れるだけの声を張ったが、当然Tちゃんには聞こえない。Tちゃんが喋る度に、地面も大気も大きく震えた。高いヒールを履いていたからか、彼氏が肩を抱いて支えてくれた。端末を開き、『今足元にいるから踏まないでね』とコメントしたら、Tちゃんの大きな顔が下を向いた。
「あ、もしかしてこれ詠みちゃん?詠みちゃんだ~!」
Tちゃんはこちらに向かって手を振ってくれた。高い声を発したせいか、どこかのガラスが割れていた。
「え、隣にいるの彼氏さん?めっちゃかっこいいんだけど」
彼氏に気付いて、今度は低めの声で彼氏のことを褒めてくれた。彼氏はどんなに声を張っても意味ないとわかってるからか、いつも通りの声で
「はじめまして」と言った。
『彼氏も初めましてって言ってるよ』
「はじめまして!まいどっ!おおきに!……」
Tちゃんがいつもの挨拶をしていると、リスナーが星を投げたようだった。すると、大気圏に突入してきたと思われるカラフルな光が一斉にこちらめがけて走ってきた。爆音とともに放たれた星スタンプたちを食べようと、屈伸するTちゃん。屈伸運動で起きた風で星スタンプはさらに加速し、私達を含めた近くの人たちは地面にたたきつけられた。倒れる際、彼氏が私をかばってくれたため、服の損傷はなかった。屈伸運動が終わると、怒号と舌打ちが散見された。でもTちゃんには届かなかった。
彼氏は服に着いた砂を払いながら、「次動物園行こうか」と何事もなかったように言ってきた。
払いきれていないところを私が払ってやってから、「ごめんね。痛かったよね。かばってくれてありがとう。」と言ったら、「パンダ見たいなぁ」なんて気の抜けた返事をしてきた。
「次のスタンプが来る前に離れようか。」
「うん。」
面白いやつだな、と思うかたわら、災難な目に遭っても私の友達を悪く思わない彼氏にほっとした。しばらく歩いたところで再びタクシーを拾い、上野動物園でパンダを見た。Tちゃんが配信中だからか、動物園内は人があまりいなかった。最前列でパンダを見た。可愛かった。

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