見出し画像

小説「知らない人がすぐそこに」

 こんなことになるとは、予想すらしていなかった。

 暖かい部屋の中で、彼は私に向かって活き活きと語りかけている。奇妙なほどに活き活きと。目を輝かせながら彼はこう言った。

「お久しぶりです。最後にお会いしたのは何年前でしたっけ。」

 まず、その第一声が衝撃的だった。彼はまるで何年も会っていなかった人に再会したかのように、「久しぶり」と言ってきたのだ。私がそのショックを思わず顔に出してしまったからだろう、彼は穏やかな笑顔をこちらに向けてみせた。

「いえいえ、ご心配なさらず。おかしくなったわけじゃありません。ただあなたに久しぶりと言いたかったんです。あなたと会う時はいつも新鮮な気分でいたいのです。別に愛の告白をしているわけでもありませんよ。こういうことを言ってみたい年頃なんです。お許し下さい。」

 彼は照れたように首をすくめ、次の瞬間、また顔つきがみるみる変わる。眉は吊り上がって、カッと目を見開いた。鼻の付け根のあたりに皺が集まっている、さっきとはまた別人のように、凶暴な顔になったのだ。そしてその人は叫んだ。

ここから先は

4,291字

¥ 500

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?