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建築の業務プロセスを変えてみた

建築を作る過程では様々な問題が起こりますが、その一つとして業務プロセスの不適合があります。
作業時間がかかるわりに生産性があまり期待できないタスクや、当初は重要なものだと考えられていたフローが、プロジェクトを進めていく過程でむしろ遅延やリスクを伴うことが分かった場合などです。
例えば、複数の担当が絡む部分であるために誰に確認を取れば進む問題点なのかが共有されず時間を消費してしまうケースや、本来ならAの作業を優先的に進めていないとBの内容が確定できないはずなのに、安全をみてクリアランス確保だけで済ませていたら、それでは解決できなかったケースなどが挙げられます。

そのような場合、私たちはプロジェクトのモニタリングを通して、この検討フローが効率的に行われているのかどうかを地道なヒアリングや、一部の業務を実際にやることで、課題となる箇所を見つけ出し、どうしたら現状の業務プロセスがより効率よく、またリスクを抑えることが出来るかを依頼主に提案し一緒に協議します。
今回は実際に業務プロセスの組み換えを行った事例をご紹介します。

業務プロセス(事例)

いきなりこの図を見てもわかりづらいと思いますので、細かい部分は省き要点のみ説明します。
まずこのプロセスの特徴は、2D図面と3Dモデルが並列して進むことで、管理が複雑になり、効率が悪く、品質に関してもリスクの高くなる典型的な事例と言えます。この状態が続くと2D図面と3Dモデルのそれぞれで正しい箇所と間違っている箇所が混在することとなり、ヒューマンエラーの多発、コミュニケーションの非効率化が起こり、プロジェクト全体で生産性が下がる要因となります。
このプロセスの1つ目の課題は【設計検討2】を経て作成された2D図面をもとに3Dモデルを作成していることにあります。
3Dモデルによって建築の整合性(法規や干渉など)をチェックしますが、この2D図面はどちらにせよ後の工程で修正するにも関わらず、清書並みにCADオペレーションに時間をかけてしまう場合があります。クライアントに見せるための資料であれば、誤解が少ないように綺麗にまとめる必要がありますが、協力関係者の間であれば押さえるべき寸法や仕様などの必要な情報だけをまとめた手描きのドローイングでも構わないはずです。

次に【設計検討3】以降は、齟齬のある部分の協議が終わり、それらを反映させた修正版を作成する業務になりますが、2D図面と3Dモデルを別々で修正しています。こうなると3Dモデルはただ整合性をチェックしただけで終わってしまい、それ以降に出来上がるデータも、ヒューマンエラーの積み重ねで次第に乖離が大きくなってきます。さらに、2Dと3D両方の保守管理が必要となることも、関係者全員にかかる負担が大きくなると言えます。

まとめると、このプロセスには以下のような課題があります。
・清書した2D図面を待たないと3Dモデルでの確認が行えない。
・2D図面と
3Dモデルを別々に修正しているため、結果的に3Dモデルでは法規・干渉チェックまでしか行えず、3Dから2Dに直接データを反映させる意義があまりなくなってしまう。
・3Dモデルで確認していても、2Dの修正に反映されてないヒューマンエラーについては問題が見過ごされてしまう。

そこで、上記の課題の解決策として以下を提案しました。

業務プロセス(3次元設計提案)

2D図面はドローイングとし、3Dモデルを正として検討を進めることで、2Dを清書する時間を削減。
・修正した3Dから詳細図の下絵を作成することで、齟齬やヒューマンエラーを防止。

フローにより検討効率は37.5%ほど良くなりました。これを積み重ねていくことにより設計期間を短くするのもいいですし、より検討に時間をかけるということでもよいと思います。

提案前フローに要した時間=2D修正指示の資料作成(2日)+2D図面修正(3日)+3Dモデル作成(4日)+検討後2D修正(1日)+検討後3Dの修正(1日)+平面詳細図作成(5日)⇒【検討終了まで16日】
※提案後フローに要した時間=2D修正指示の資料作成(2日)+3Dモデル作成(4日)+検討後3Dの修正(1日)+平面詳細図作成(3日)⇒【検討終了まで10日】

設計時の2D図面の修正指示や、監理者による施工図の修正指示であれば、図面の赤書きで必要な箇所にコメントすることで済んでいる場合が大半だと思います。しかし2D図面と3Dモデルが平行するプロセスの場合には赤書きでコメントするような運用には何故かなりません。

私たちはこれらが3次元設計プロセスを適切に運用させるためのポイントだと考えています。ここで大切なことを上げるとすれば、1つ目は図面の量を減らすことです。これまでの2D設計の慣習もあり、本来必要ではない場面で図面を描いたり、結局あとで大幅な修正があったりと、図面が多くなればその分管理コスト・リスクが上がります。そのため如何に清書の図面を描かないかが肝になります。
もう1つは、3Dモデルの作成に必要な入力情報と、そこから何を出力すればプロジェクトがより円滑になるのか、その目的を明らかにすることです。3D検討を行う時点で、干渉や立体的な不整合が目で見て分かりやすくなるという利点はありますが、かけた作業時間に対して直接的に得るものが少なく、せっかく作ったデータそのものは宙に浮いてしまいます。BIMソフトの運用でも、完璧な図面の出力に力を入れる余りに、その調整作業に時間が多く割かれてしまうケースもあります。建築物はパーツ同士が複雑な関係性を持っているため、全てを3Dで完全にコントロールするのは時間的制約があるため実質的に不可能です。そこで、ここまでは3Dで管理し、細かな調整は2Dに引き継いで検討するなど、役割を明確に切り分けることが重要になります。結果的にヒューマンエラーによる大きな不整合や手戻りの削減なども図れるため、小さな改善の積み重ねがプロジェクトの効率や最終的な品質を高め、良い建築を作れるのではないかと思います。


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