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暗黒日記Z #28 「花」

「能を演ずるに当って、演者は、たとえ賤が女を演ずる場合にも、まず『花』(美しいという観念)を観客に与えることを第一としなければならぬ。まず『花』を与えてのち、はじめて次に、賤が女としての実体を表現するように──」

いきなりどうしたとお思いの諸氏、その反応は至極正しい。何を突然難しいことを言っているのかという感じだろう。もっともだ。これは私の文章ではない。世阿弥の文章である。正確には世阿弥の『花伝書』という本に関して、坂口安吾が『FARCEに就て』なる文章の中で「大体次のような意味の件りを読んだように記憶している。」とことわったのちに引用として取り上げた一節なのだ。だから私の文章ではない。こんなかっくいー文章いっぺん書いてみてぇもんではあるが。

急に世阿弥の引用の引用なんかをしたのには理由があって、それはある漫画を読み始めたからである。三原和人の『ワールド イズ ダンシング』だ。

これである。「イズ」の前後が中黒ではなく半角スペースになってるの超好き。何故か分からないけど、いますぐに例を挙げようとしても浮かばないけど、半角スペースで単語を区切っているタイトルっていいなと思う。あれか、一般的なルールに反してる感じがするからかな。半角って。タイトルなんて正式で神聖な場所にあろうことか半角という半端な存在が鎮座ましましているのが奇妙で快いのかもしれぬ。わからぬ。げに奇異なりきは人の性。これは室町時代が舞台の漫画を紹介してるからって無理矢理古語を使おうと試みる愚か者の図。

公式に「室町ダンスレボリューション!!」とかいう宣伝文句を使っているし、そもそもタイトルに「ダンシング」と入っているのでお分かりかと思うが、この漫画はダンスを主軸にしている。しかし当然のごとく現代のものとは何もかもが違う。室町時代でダンスといえば「舞」である。そして今作の主人公はそんな舞に日々取り組む少年、いやさ美少年、うんにゃ激カワショタ、鬼夜叉くんだ。名前超かっこいいよね。もうその時点でずるいじゃんね。でもこの名前はやがて違うものに変わることが確定している。そういう史実がある。史実? はて? 実在の人物なんすか? と思うよな。思って。できれば。話の進行上思ってもらえると助かる。そうなのだ、鬼夜叉くんは実在の人物なのだ。第一話の扉絵のところに、よく見ればコミックDAYSの作品解説の部分にも書かれているが、鬼夜叉くん、現代まで続く「能」の基礎を作り上げた「世阿弥」なのである。鬼夜叉は幼名というやつなのだ。な、なんだってー。

それで今回は冒頭から世阿弥の引用の引用なんぞをしたわけなのだった。そういや坂口安吾が世阿弥についてちょろっと記述してんのあったよな、と思って本棚からこんなの引っ張ってきて確認したりして。

こんなの。

ティクォモァヌィハォンバォンゲァカザェァンサュワ。普通に言え。ちくま日本文学全集。そのうちの一つ。装丁が気に入ってる。の割には古本で買ったが。

うひょ〜。

ちなみに他のラインナップはこんなん。「日本文学全集」なんて思い切った名前を名乗っているだけはある。とりあえず読んどきゃ日本文学のなんたるかが大体分かりそうだ。たぶんほとんどの人のやつ青空文庫で読めそうではあるけど。ってか、うわ、写真撮ってみて今更気付いたけど一人一人名前の下に出生年と没年書いてあんのね、すごぉ……こだわり……。

せっかくだからこの中で特に好きな作家は誰かって話でもするか。んとね〜自分はね〜まずソーセキセンセーは文章が究極に洗練されてて好きでしょー? ほんでね〜鏡花先生は今まで一度として作品の内容を完璧に把握できたことはないけど異次元の美しさがあって好きでしょー? あとね〜、あっ! 朔! 萩原朔太郎! 朔は『月に吠えらんねえ』とかの影響もあって大好きやし〜? 他は〜、あ〜夢野久作ね、文学かぶれ中二病罹患者が必ず通る道であるところの『ドグラ・マグラ』はもちろん私も読みましたよ、そのあと『少女地獄』も読んだし、ええ、ええ、大好きですとも。キリがないからあとはもう羅列でいこう。岡本かの子芥川龍之介内田百閒江戸川乱歩宮沢賢治石川淳稲垣足穂坂口安吾太宰治澁澤龍彦寺山修司。うわなんかこれ検索用のあれみたいだな。きんもー☆  ちょっとでも多く検索で引っ掛かるようにしてるのー? 雛菜そういう小賢しいのきらい〜!

雛菜はそんなこと言わない!

「んとね〜」辺りからちょっとこれ雛菜っぽいなと思ってたのでつい辛辣さを誇張した雛菜を生み出して最後に持ってきてしまった。安らかに眠れ、存在しない雛菜概念。

毎度おなじみ流浪の文章が今回も主題から大きく逸れて近隣の住居の窓ガラスにシュゥゥゥー! 超! エキサイティン! してしまったが、ツクダオリジナる(動詞)のはこのくらいにして、正道に復そう。え? そんな言葉ある? 正道に復する? なに? 難しい難しい、何? いやなんかどっかで「元の道に戻る」ことをそう書いてるの見たことある気がしてつい使った……今は反省している……。おーん。反省しとんのならまあええか……。

分裂するのをやめろ。

それな……。

へい! なんだっけ。あ、世阿弥。鬼夜叉きゅん。『ワールド イズ ダンシング』だ。あの漫画超おもしろいよ〜! うわ〜ん! 最高最高最高〜! 鬼夜叉きゅんめっかわ〜! 「めっかわ」って多分とっくに死語だな。調べたら2017年に解説記事作られてた。安らかに眠れ。

いやね、あのね、ホントさ、言いたいのはさ、マジで鬼夜叉くんが可愛いんだって。登場時から一貫してすごく落ち着いていて、色んなことに純粋な疑問を持つ姿がとても可愛い。動物達はそれぞれ生きるために最適な形をしている、では人の形はなんのため? 舞などせずとも人は生きられる、だのになぜ舞う? みたいな疑問に思わず「そういうもの」として受け入れることも簡単なことにいちいち疑問を持つ様が、見ていて楽しい。しかもなんかぽや〜っとしてる。天然キャラのぽやぽや感じゃなくて、なんとなく歳の割には悟った感じで、でも冷めてはいなくて、明るい悟り。好感しかない悟り方をしてる。賢そうな。知的好奇心を中心として性格が形成されているような。そこがめちゃくちゃ好きなんすよ、マジで……。さすがは『はじめアルゴリズム』の作者ってところよ。あれちょっとしか読んでないから今度全巻買ってこよう。

鬼夜叉くんが世阿弥として『花伝書』を書くに至るまでの波瀾の日々をこれからどんな風に見せてもらえるのだろうかと、私は『ワールド イズ ダンシング』に対して今とてつもなく大きな期待をしている。生きる希望をありがとう三原和人先生。という感じなのだった。

ではよみがえった今週のオススメソングのコーナー。特に紹介したいの無かったら無しで、あったらやることにしていこうと決めた。

鬼のように良い曲。鬼リピ必至。

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