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童話【さよなら、こんにちは】(幼年)


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 すきとおった川のなかを、二匹のアユがおよいでいます。
 こがね色の体は、わずかに黒ずんでいます。
 オスのなまえはタク、メスはサヤといいます。

 アユは春に川で生まれて海へでます。
 しばらくのあいだ海でくらして、夏ごろに川をのぼります。そして、川でなわばりをもち、ぐんぐん育っておとなになります。

 秋には、卵をうむために、今度は川をくだるのです。
 川の中流で卵をうむためです。
 タクとサヤは川をくだっているとちゅうに出あいました。

 とつぜん、
「スイカだわ!」
 サヤがさけびました。

 川のなかで、アミにはいったスイカが冷やされています。
 キュウリと、トマトもはいっています。
 タクはわらいだしました。

「人間たちは、ぼくらをキュウリうおってよぶんだぜ」
「どうして?」
「キュウリみたいなにおいがするから」
「まぁ、しつれいしちゃうわ」
 サヤは口をとがらせました。


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「あっ、まって……」
 サヤはさきをいくタクを追いかけます。
 タクの作った道をいくと、あたたかくて、こころがおちつきます。
 でも、今日はちがっていました。
 まってったら……。
 さきをいくタクが消えてしまいそう。

 サヤは体をくねらせました。
 いつものようにうまくおよげません。
 サヤのおなかには、たくさんの卵がいるのです。

 タクがまってくれるはずない。
 タクはいじわるです。
 おいしそうなコケをみんな食べちゃったり、わざとぶつかったり、水しぶきをかけたり。
 それなのに、
「サヤ、ここにいるよ」
 タクはサヤをまっていてくれました。
 やさしい声に、サヤは泣きだしそうになりました。


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 この旅のおわりに、さよならがまっていることに、なんとなくきづいていました。
 
 アユは卵をうむと死んでしまいます。
 一年間しか生きられないのです。

 サヤはおなかをヒレでさすりました。
「こんにちは」
 タクはうやうやしくあいさつしました。
「まだちょっと早いわよ」
 サヤは前をむきました。
 それから、ならんでおよぎだしました。

#童話 #幼年向け #言霊さん #言霊屋

〜創作日記〜
テーマ「アユ」だったので、いろいろと生態を調べました。
なにせ食べたことしかなかったので。
こういうテーマ作品の依頼は楽しいですね。
広く浅く知識がつきます(笑

イラスト:hoho8888

新人さんからベテランさんまで年齢問わず、また、イラストから写真、動画、ジャンルを問わずいろいろと「コラボ」して作品を創ってみたいです。私は主に「言葉」でしか対価を頂いたことしかありませんが、私のスキルとあなたのスキルをかけ合わせて生まれた作品が、誰かの生きる力になりますように。