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山と仕事と事業の話|プロの何にお金を払っているか

はじめに

こんにちは。えりりんこと白井恵里です。株式会社メンバーズ(東証プライム)執行役員 兼 メンバーズデータアドベンチャーカンパニー(以下DA) カンパニー社長をしています。DAは企業のデータ活用を支援する事業をやっています。事業立ち上げ時から社長を務めています。

「山と仕事と事業の話」シリーズは白井が仕事や事業の話にかこつけて山の話をしたいだけの軽い雑文です。社内向けコラムとして書いていたものですが、特に社内向けだけに閉じる理由がないのでnoteに掲載します。
山はいいぞ。

※山は素人です。大体適当なことを言ってます。事業も一回目の素人です。個人の感想を言っています。あしからずどうぞ。

登山当日

前回に続き、今回は富士山バックカントリー本番編。プロの何にお金を払っているかという話をします。

前回までのあらすじ。富士山にスキーを担いで登ることになった白井さん、快適かつ安全に山を楽しむためには能力不足とみてトレーニングに勤しみ、いよいよ本番を迎えました。さあ結果やいかに。

登山予定日当日です。ガイドとともに登山口にいます。さあ登るぞっていう時間の朝5時。空が白み、あたりが明るくなり、見事な雲海です。標高の高いところは晴れています。晴れています、晴れてはいますが、登山口となる駐車場時点で、乗用車の車体を揺らし、ゴーゴーと唸り声をあげるほどの強風です。予報的にも、吹きさらしの富士山の地形的にも、そこから先に登ったところで風は強くなりこそすれ弱まる要素はありません。

ということで出発取りやめ。
日程的にも予備日はないので、今シーズンは富士山バックカントリーは断念する、ということに相成りました。あれだけ準備したのにね。まあ自然を相手にする遊びである以上仕方がないです。
時間に余裕ができたので、ガイドと「残念でしたね」「登らないという判断をしてもらうために来てもらっていますからね」などと会話をしつつ、のんびりお湯を沸かしてコーヒーを飲みました。

ここでふと思ったのが、人はその道のプロを雇う時に何にお金を払っているのだろう、ということです。自分のことを題材に考えてみます。

プロの何にお金を払っているか

私から見える範囲になりますが、これまでの顧客としての経験からガイドおよびガイドが付随する旅行商品の提供価値を列挙するとこんな感じです。

  • (発注前の提案段階ですが)この時期にこういう山をこういうコースで登るとこんな感じで楽しいよ!っていう情報提供

  • 何時にどこに集合してどういう交通機関で移動してどういうコースで行動するかの計画作成

  • 交通手段、レンタル品、宿など各種手配

  • 現地の情報・状況の事前確認

  • 行動中の安全確保(状況に応じた行動計画の変更や助言や補助など)

  • 参加者を楽しませること(自然や景物の情報提供、会話を振る、緊張を解くなど)

提案、手間の削減、安全管理、楽しませる、みたいに分類されるのかな。
今回、私の主観のなかで、そのなかで何にお金を払うかというと「安全管理」、もっというと「リスクマネジメント」なんですね。厳密にはどこに行って何をするという提案があってそれに相応しい安全管理があり、それが独力では対応不可能と思った時にお金を出しているので、提案ありきですが。

リスクマネジメントってなんじゃらほいって向きには、このpdfがわかりやすいです(URLから、国立青少年教育振興機構が出してるもののようですが、残念ながらこの大元の文献名はわからず。わかる方教えてください)。 http://www.niye.go.jp/kanri/upload/editor/60/File/09honbu0409.pdf

これによれば、

  • リスクとは「損失が発生するかもしれない不確実な要素」

  • リスクマネジメントとは(中略)リスクを察知し,起こったときの損失を許容範囲にとどめるように対処策を取ること

  • (リスクマネジメントにおいては)自分たちの許容範囲,コントロール可能な範囲にとどめておくことが最も重要な基本の考え

とのことです。 なんでこれが私にとって大事かっていうと、まず、安全を確保するもっとも確実な方法は、リスクや危険に身を晒さないことです。山に行かなきゃ山で死ぬことはありません。行くにしてもちょっと転んだら死ぬ危険があるようなとこには行かず比較的安全な道があるとこに行くとか、方法はあります。でもそれじゃ面白くない。なんならリスクがあるところに行くことそのものや、それをマネジメントしていくことが、私にとって山に行くことの面白みの中核をなしていたりします。
なのでリスクを回避するのではなく、リスクをマネジメントすることは、私が山を楽しむにあたって不可避のことです。

リスクマネジメントの成否は、上述の定義から、「想定されるリスクの大きさ、多様さ、想定や察知の難易度」と、「自分たちの許容範囲,コントロール可能な範囲」の大きさに左右されるということになります。私も自分の力で対処可能なリスクであれば自分で対処します。しかし、想定されるリスクが大きくなる、多様になる、あるいはリスク全体の想定が難しくなるフィールドでは、自分の力ではそこで起きるリスクを自分の許容範囲内、コントロール範囲に納めることができなくなります(あるいはできるという判断ができなくなる)。だからプロに頼むわけです。

今回、強風のため出発を取りやめるという判断は、状況が「自分たちの許容範囲,コントロール可能な範囲」を超えているという判断であり、私がガイドに期待しているところのリスクマネジメント業務の一つの発露なわけです。
「このくらいならいけるんじゃね? いや無理かな?」とか「これは明らかに無理だろ」とかは全て程度問題で、リスクとは不確実性である以上、「あの状況ならプロがいなくても自分も同じ判断ができた」という結果論は無意味なわけです。リスクを察知する能力がなければその場でマネジメントすべきものとしてどういったリスクがどの程度存在しているかはわからないですし、判断を迫られる時点では、そのリスクがどういう影響を及ぼすかはわからないのですから。顕在化しなかったリスクは認知も評価も難しい。

しかも、対象となるのは、リスクが潜在しているフィールドに身を晒すことで楽しみを感じられるような特殊な行動であり、リスクと楽しみという相反する要素を常に天秤にかけながら「どのようにリスクを回避するか」ではなく「どのくらいのリスクなら許容できるか、そのためにどうするか」という微妙な判断を常時し続ける必要がある行動であるわけです。
これは判断者の情報収集能力や判断能力はもちろん、経験もなければできない類のことだなと思います。経験は一朝一夕では身につけることはできず、他の手段で代替が難しい。だからお金を払うのです。

仮に他の提供価値の質がどれだけ高くても、リスクマネジメント能力を信用できなければ、私はそのガイドに仕事をお願いすることはないだろうと思います。ただ、リスクマネジメント能力を信用できる複数の候補がある場合は、他の提供価値の質や、もろもろの手間や不確実性の少なさ(知ってる人なら話が早いとか、一回お願いしたことがあれば取引の流れが分かってて楽とか、この人なら間違いないだろうとか、そういうこと)によって選ぶかなと思います。

(余談ですが、今回は、富士山断念したあと、そのガイドは近くの別の山に行くのを提案してくれて、山登って温泉いって1日楽しかったので、リスクマネジメント以外にも十分楽しませるという仕事してくれました。ありがたい)

正解のなさ、割り切れなさのなかに、プロの判断の真価がある

さて、長々書いたのでそろそろ仕事の話っぽい締めに持っていきます。

人がプロにお金を払うときにキーとなる可能性がある要素としては、一朝一夕に身につかない能力の発露であり、経験に裏打ちされた何かはその一例となるようです(n=1)。

じゃあ翻って自分たちの事業が提供してるものってなんなのって考えると、共通した要素がありそうです。個人個人の経験もそうですし、事例と呼ばれるものの蓄積もそうです。
たとえば、デジタルマーケ界隈ではホットトピックスのGA4移行ですが、メンバーズグループやDAで支援している他社案件ではどのように実行したのか、それにはどんなリソースが必要だったのか、どのようなトラブルが起きて、どう対応したのかという情報は、これからGA4移行をしようとしている別の顧客にとってはお金を払う価値が十分にあるものです。

なので、我々は、顧客に選ばれるプロであるために、個人の経験を積むこと、経験を積むために能力を伸ばすことはもとより、何かあったときに自社内の別の事例にあたれることがあるとよさそうです。個人の行動としては何かあったら人に聞く、会社の仕組みとしては人に聞きやすい環境をつくる、事例を整理し、アクセスしやすい環境をつくる、よくおきる課題に関しては対応能力を養うための研修などを用意する(つまり、事例の抽象化と統合です)、などですね。あれ、すでにそこに向かった取り組みがちらほらありますね? われわれのやってること、間違ってないようですよ! よかったよかった。

しかも、我々が向き合っている「データを事業成果につなげる」という課題に対するには、常に教科書通りにはいかないデータやデータ以外の様々な制約のなかで、現実に事業を前に進めていく必要があります。データを収集したり、分析するだけではなく、事業などというデータからはアンコントローラブルなものを相手にするのですから。理想や理論と違う割り切れない現実のなかでバランスを取りながら、取りうるあらゆる手段を使って、何かと何かをトレードオフしながら進んでいくわけです。状況や目指すものは企業やチームによって様々で、しかも常に変化します。つまり望ましい判断は常時変わります。この正解のなさ、割り切れなさのなかに、プロの判断の代替不可能性があり、真価があります。

我々はデータ専業のプロとして、自身の研鑽と経験を積み、自社に存在する事例を自らの経験として吸収し、引き出しを増やし対応可能幅を広げ、自らの判断をベターからベストに近づける努力を続ける必要があるのです。ベストの判断、絶対の正解など存在しない、しても誰にも評価できないとしても。

以上です。
つまり、まとめると、来シーズンの富士山リベンジに向けて体つくります!ってことです。首洗って待ってろ富士山。

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