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[小説]X-AIDER-クロスエイダー- (15)

 午後四時。昼下がりの図書室で、アスミは目を覚ました。ああ、またあの夢だ――そう思いながら額に手をやると、手に脂汗がべっとりとついた。周りには、開きっぱなしの教科書とノートが置いてある。どうやら彼女は、ここで明日の予習をしているうちに眠り込んでしまっていたようだ。
 夢の中で、わたしは何をしていたんだっけ?
 アスミは汗を拭いながら思い返す。夢の中では、自分は確か桜の木になっていて、またあの時のヒーローと戦っていたんだった。最初は自分が優勢だったのだが、相手は落ちていた桜の枝を鉄の棒に変え、カンフー映画よろしく自分を一網打尽にした。そしてとどめのビームを受けて、今に至るわけだ。ぼんやりする頭の中、アスミは先程の夢について思いを巡らせているうちに、こう考えた。
「そう言えば、あのヒーローの声、どっかで……」
 彼女がそこまで言いかけた時、チャイムが鳴った。これはまだ学校に残っている児童たちに家に帰るよう促すチャイムだ。
「やばっ……」
 アスミは大急ぎで荷物をまとめた。
 数分後。アスミは家についた。家に帰るということは、アスミにとっていやなことだった。彼女は、震える手で玄関の引き戸の取手に手をかける。ゆっくり横に引くと、がらっ、という鈍い金属音がした。その向こうに待っていたのは、アスミにとって一番恐ろしい存在だった。
「ずいぶんと遅いお帰りだねえ」
 白髪が混じった後ろで引っ詰めた髪。茶色のシンプルな着物。いつもシワが寄ってる眉間。なまりがきつい冷たい声。アスミのばあちゃんだ。
「すみません、勉強してたんです」
 勉強。その言葉を聞いた彼女の表情が険しくなった。
「かばんそこに置け」
「……っ」
 アスミは動きを止める。
「いいから」
 アスミは渋々置いた。祖母は、そこからアスミのノートを取り出し、それを粉々に破いた。白い紙が粉雪のように舞った。
「お前は、家事してりゃいいんだ」
 祖母はそう言うと奥へ行った。アスミは土間に落ちた紙を拾いながら涙を流した。
 
(続く)

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