[小説]X-AIDER-クロスエイダー- (16)
引っ越ししてから約一ヶ月。新しい生活にもずいぶん馴れた。ヒロキくんたちやマイカちゃん、そしてアスミちゃんといった友達もでき、ぼくは賑やかな毎日を過ごしていた。そんな中、転校して初めての大きな行事がやってこようとしていた。
その日の朝は、枕元にある一年生の頃から使っている猫のキャラクターの目覚まし時計が鳴り出すよりも五分早く起きた。ぼくは、起き上がってすぐ、部屋の窓を開ける。天気は快晴、日本晴れ。
「よかった」
ぼくがそう呟いていると、足元にチャコがやってきた。
「ずいぶんと朝から楽しそうだな。一体どうしたんだ? 」
「へへっ、なんだと思う?」
ぼくは、チャコに対してわざとはぐらかえす。
「まさか、どこかに行くのか? 」
「どこに行くと思う? 」
チャコは、顔をしかめる。
「質問を質問で返すんじゃない」
「ごめんごめん」
ぼくはニコニコ笑顔のまま、正解を発表した。
「遠足だよ」
「ほう」
チャコは窓のほうに目をやる。
「あの窓の向こうに、上が少しとんがった山があるだろ? あそこに今日行くんだよ」
「そうか。それって楽しいのか? 」
チャコの目は輝いていた。これは興味が沸いてる証拠だ。
「うん」
「それは、楽しみだな」
チャコがわくわくした様子でそう言った瞬間、どこかから「おはよう、朝だよ」という甲高い声が聞こえてきた。
「あれは、なんだ?」
「目覚まし時計」
ぼくはあわてて止めに行く。ぼくは、ベッドの上に転がってる目覚まし時計の上部のボタンを押す。すると、甲高い声はすぐに止んだ。
「人間というのは物凄いものを作るのだな」
チャコは、興味深げに目覚まし時計を見つめた。
「でしょ」
ぼくがそう言いかけた時、部屋の向こうからサヤが不機嫌そうにやってきた。ぼくは慌ててチャコをリュックの中に隠す。
「お兄ちゃん、朝からうるさい」
「ごめん、うるさかった? 」
彼女は眠そうに目を擦った。
「っていうか……誰と話してたの? 」
ぼくは、ヒヤリとした。まさか先程までのチャコとの会話を聞いていたのかと感じたからだ。父さんと母さんはおろか、サヤにも話していないのだ。
「えーっと……それは……」
ぼくは、とっておきの言い訳を使うことにした。
「マンガの朗読をしてたんだよ」
「え? 」
サヤはポカンとぼくの顔を見た。
「マンガのセリフが面白かったんだ」
「お兄ちゃん……変なの」
サヤはそう言うと、自分のスペースに戻っていった。
「チャコ、出ていいよ」
ぼくが小声で言うと、チャコはリュックの中から顔を出した。
「危ない所だったな」
「うん、そうだね」
ぼくはため息をついた。
着替えが終わり、台所に行くと、母さんが何かを作っていた。ダイニングテーブルには、いつもの朝ご飯の他に、四角い弁当箱に入った美味しそうなおかずが置いてある。てりてりとした卵焼き。きちんとタコさんになっているウィンナー。そしておにぎり。どれもおいしそうだ。
「お兄ちゃんだけいいなあ」
サヤは、朝ご飯のトーストをぱくつきながら鼻を鳴らした。
「仕方ないでしょ」
母さんは、お弁当に入れるオレンジを切りながら言った。
「遠足って五年生だけらしいから。あと三年くらいの辛抱よ」
ぼくたちが通う星森小では、自然ふれあいハイキングと称して五年生が遠足へ行く。ちなみに、ヒロキくんが言うには、これでも理科の授業の延長らしい。木や草などの美しい自然に触れる事で、豊かな心を養ってほしい、という事が主な目的だそうだ。
「あーあ、早く五年生になりたいなあ」
サヤは、夢見るような表情でそう言った。
(続く)
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