見出し画像

[小説]X-AIDER-クロスエイダー- (17)

 学校に到着すると、すぐに簡単な集会が開かれた。内容は、このイベントの趣旨と、注意事項。ぼくを含め、誰もが真剣に耳を傾ける中、まともに話を聞いてない奴らがいた。
「なあなあ、昨日のポテチファイター見た? 」
「見た見た! すごい面白かったよな」
「ポテチンパーンチ! 」
 列の一角で、休み時間のようにおしゃべりしている連中は、マイカちゃんと同じクラスで、学年問わず恐れられるガキ大将である岩清水くんとその腰巾着だ。彼らは、昨日見たテレビ番組について話していたのだ。周りの子たちは、注意しようとせず、不満そうに横目で彼を見ていた。ヒロキくんいわく、ただ怖いのではなく、岩清水のお父さんが星森小のPTA会長で、彼はそれを鼻にかけて自分に逆らったら言いつけるぞと脅しているかららしい。ちなみに、今は社会科を担当している河野先生が、のんびりと間延びした口調で注意事項を話している。ぼくは、なんとかならないかなと眉をひそめた。すると、河野先生が小さくコホン、と咳払いをした。いきなり話を止めて何をする気だと思えば、先生は静かにこう言った。
「岩清水くん、倉田くん、森本くん、ちょっと立って」
 名前を呼ばれた三人は、渋々立った。その顔は、優しいからどうせおれたちを叱れないだろと言いたげな、余裕しゃくしゃくの顔をしていた。いわゆる反省していない顔だ。一、二秒ほどの沈黙の後、河野先生はこう切り出した。
「君たちは、学校へ何しに来ているのかな」
 その声は、低くて平らだった。
「え……え……」
 その声に込もっている感情に、いち早く気づいたのは一番小柄で、リスのような顔をした森本くんだった。彼は、小さな体を震わせながら、こう言った。
「べ……勉強です」
「そう、わかるなら結構」
 河野先生はほほ笑んだ。だけど、目が笑っていない。その姿に、森本くんは涙目になって縮こまった。威張っているけど根は弱虫なのだ。その横では、岩清水くんが森本くんを睨みつけ、倉田くんがヘラヘラしている。それを見つけた河野先生はこう言う。
「倉田くんは、反省してるかね? 」
「はーい、反省してまーす」
 もちろん反省していない。河野先生は次に岩清水くんに目を向ける。
「岩清水くんは、もちろん反省してるね? 」
「……」
 岩清水くんは、先生をにらみつけていた。
「そんな態度を取っていれば、お父さんが悲しむぞ」
 お父さんの話題を出された岩清水くんは、赤面しながら小声で言った。
「はい」
「よし、なら座って結構」
 先生は、そう言うと、元の話に戻った。
 数分後。ぼくたちはようやく星森山へ向かった。学校から星森山までは約十五分。
「いやあ、ようやく出発できたね」
 ぼくは、歩きながらヒロキくんに言う。
「そうだね」
 彼はため息混じりに言った。
「誰かさんたちのせいでな」
 ヒロキくんはそう言うと、数メートル前を歩く岩清水くんたちを見た。

(続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?