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[小説]X-AIDER-クロスエイダー- (13)

 ぼくは改めてインベーダーを見る。相手は、うねうねと動く枝を動かしていた。咲き誇る桜の花はそのままだったが、枝の先には牙のついた口がぱっくりと口を開けている。見れば見るほどグロい見た目だ。見つめていると、気づいたのかインベーダーが、枝を使ってぼくを攻撃する。ぼくは、むちのようにしなるそれを避ける。
(どうする、チャコ)
(うむ、今のままじゃ、攻撃を避け続けるしかない)
(そうか……)
 ぼくは、眉をひそめた。しかし、次の瞬間、何かが目に入った。
「ん?」
 ぼくは下へ向かう。
(どうした、ナオトくん)
 ぼくが見つけたもの、それは木の枝だった。おそらく、桜の木の古い小枝だろう。それを手にしたぼくの頭の中に、ピカン、と何かがひらめいた。
「そうだ」
 いい案を思いついた。
 ぼくは小枝を指でなぞる。すると、瞬く間に銀色の棒に姿を変えた。
(まさか……君は)
 チャコはぼくの中で声をあげた。
「そう……そのまさかだよ」
 ぼくが棒を両手で握ると、グイーンとぼくの身長を越す位の長さに変わった。
「目には目を、歯に歯を……地球での有名な言葉だよ」
 ぼくに向かって枝がやってくる。ぼくは棒を振るう。すると先っちょが枝と同じようにしゅるり、と伸び、そのまま同じように追い払った。枝は見事木の幹にヒットした。
(なるほど、そう言うことか)
 チャコはなんの感情もこもってない声色で言った。しかし声が震えている。インベーダーは、あきらめずに何度も攻撃してくる。
「ほらっ、こいよ!」
 それもぼくは華麗に跳ね除け、そのたびに、伸ばした枝は幹に当たった。
 ぎゃーす!
 よし、混乱している。
 インベーダーが混乱している。
「ナオトくん、今だ!」
 ぼくは光の矢を放つ。光の矢は弧を描いて木の幹に当たった。インベーダーは、ゴオオオオという音をあげて、元の桜の木に戻っていった。
「ふぅ……」ぼくは変身を解く。
 変身を解くと、体中の力が抜けた。全身の力が抜けて、そのまま……
「ナオトくん!」
 チャコの声を遠くに聞きながら、ぼくの目の前は真っ暗になっていった。

「……と、ナオト」
 暗闇の中、小さく声が聞こえる。ゆっくり目を開けると、ヒロキくんがぼくの顔をのぞき込んでいた。ゆっくりと周りを見回すと、白い天井と白い壁が見えた。
「あ、ヒロキくん」
「おまえさ、いきなり倒れてびっくりしたよ」
「そっか……っていうかここどこ?」
「保健室だよ……っていうかさ」
 ヒロキくんはものすごい勢いでぼくに詰め寄る。
「さっきのあれはなんだったんだ? すっげえかっこよかったんだけど!」
 ぼくは慌てて起き上がる。
「え?」
 一気に眠気が覚めると同時に背筋にゾワっと寒気を感じた。
 まさか、見られていた?
 ぼくは背中いっぱいにじっとりと冷や汗が広がるのを感じる。
「本当にびっくりしたよ」
 そんなぼくの気持ちにお構いなしと、ヒロキくんは目を輝かせながら続けた。
「あのヒーローが光ったと思ったら、まさかナオトが出てくるとは思わなかったよ」
 どうやら、変身を解くところを見られてしまったようだ。
「あ、あの……これは」 
 ぼくがまごついていると、チャコが服のポケットから顔を出した。
「ナオトくん、そろそろ出てもいいか?」
「だめだよチャコ」
 そこまで言った時、ぼくはしまった、と思った。横を見ると、ヒロキくんがこちらをじっと見ている。彼は少し居心地が悪そうな顔でこう言った。
「なあ、本当のことを話した方がいいよ」
 ぼくは、ここで観念することにした。ぼくは、チャコに出ていいよと言うと、ポケットから出るなり元の大きさに戻った。
「え、猫?」
 目を丸くしているヒロキくんを前に、ぼくは口を開いた。
「実は……」
 ぼくは、チャコのこと、そしてぼくがチャコと組んでインベーダーから地球を守るために戦っていることを話した。
「へえ、ヒーローやってんの?かっこいいんじゃん」
 ヒロキくんは、驚くどころか、ものすごく喜んだ。
「普段は小学生、裏ではヒーロー……すげえマンガみたいでかっこいいよ」
 ヒロキくんは、チャコをなでながら言った。
「そう、ありがとう」
 ぼくは照れ臭くなった。それを聞いていたチャコはこう言う。
「ヒロキくん、このことを他の地球人に口外しないでもらえるだろうか」
「こ……口外?」
 言葉の意味がわからないのか、ヒロキくんはポカンとしていた。
「他人に言いふらすことだよ」
 ぼくがそうフォローすると、ヒロキくんは、そっかと言った。
「わかったよ。おれの口は日本一、いや、世界一固いからな」
 彼は、自分の左胸をどんとたたいた。
「ありがとう」
 ぼくがそう言った瞬間、どこかからクスクス笑う声が聞こえてきた。
「ふふふ、見ーちゃった」
 鼻歌まじりに入ってきたのは、なんとマイカちゃんだった。その顔は、意地悪そうにゆがんでいる。
「ま、マイカ……?」
 ヒロキくんの顔はたちまちゆでダコのように真っ赤になった。そんな彼を横目に見ながら、マイカちゃんは、口を開いた。
「全部聞いたよ、あんたの話。まさかしゃべる猫も引き連れてるとはねえ」
 マイカちゃんは再びくすくすと笑った。
「まさか、言いふらしたりしないよねえ」
 ぼくは、恐る恐る彼女に聞いた。すると、意外な答えが返ってきた。
「言っちゃおうかな、学校中に」
 ぼくは先程より血の気が引くのを感じた。「やめてよ、ばらされたら困るよ」
「われわれも同感だ」
 ぼくとチャコは口々にそう言った。
「ふーん、どうしようかな」
 マイカちゃんは、指を形の良いあごに当てる。どうやら、彼女は人が困っているのを見て楽しむタイプなようだ。
「おれからも頼むよお」
 ヒロキくんも加勢する。ぼくたち二人と一匹の顔を見たマイカちゃんは、ふーっと肩を落とすとこう言った。
「いいよ、黙っといてあげる」
「本当?」
「ただし……」
 安心するにはまだ早かった。
「あたしとかけっこで勝ったらね」
「え」
「あたしにかけっこで勝ったら、何も言わないであげる」
「わ、わかった」
 ぼくは、マイカちゃんの言うことを聞くことにした。

( 続く)

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