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[小説]X-AIDER-クロスエイダー- (11)

 数時間後。放課後、ぼくとヒロキくんは学校の裏手にいた。
「で、どうしてぼくたちはここに隠れてるの」
 ぼくたちがいるのは、校舎の壁側に設えられた花壇の植え込みの陰だ。
「誰かに見られたら恥ずかしいだろ」
 変なところでプライドが高いんだな。ぼくはため息をついた。
(そんなに見られて恥ずかしいものなのか?)
 チャコがテレパシーでたずねてくる。
(わかんない)
 ぼくは答える。もちろんテレパシーで。
(人間の心は、いつもわからぬものだな)
 だろうな、とぼくは心の中でつぶやいた。
「よーし、誰もいないな」
 そんなぼくたちの横で、ヒロキくんは、植え込みから少し顔を出す形で周りの様子を伺っていた。
「さあ、いくか」
 意気揚々と踏み出したヒロキくんの足は、二歩くらい進んだところで、止まってしまった。
「……」
 彼はまるで石像のように固まっていた。
「どうしたの?」
 ヒロキくんは、慌てて隠れ直した後、震える手で向こうを指さした。
「あー……」
 指さした先を見て、ぼくは納得した。そこにいたのは、ヒロキくんの想い人であるマイカちゃんだった。マイカちゃんは、慎重そうに、周りを見回していた。その数メートル先には、例の桜の木があった。
「ちくしょう……なんで」
 ヒロキくんの顔は真っ赤だった。
「もしかして、ヒロキくんがお願いしたいことって……」
 ぼくがそう言うと、彼は体を震わせた。
「悪いかよ、神様に頼って」
 そんなこともつゆも知らず、マイカちゃんは、それに近づくとスカートのポケットから折り畳まれた白い紙を取り出した。どうやら、彼女もあの桜の木のおまじないをためそうとしているようだ。マイカちゃんが、ゆっくりと願い事を枝に結ぼうとしたその瞬間、突然しなやかな枝がニュッと伸びてその手首をぎゅっとつかんだ。
 マイカちゃんは、なんとか枝を引きちぎろうとした。しかし、木の枝は、強くなかなか引きちぎることはできなかった。力負けした彼女は、そのまま上へと持ってかれた。桜の木はまるで待ちかねたぞと言いたげにその巨体を震わせると、木のてっぺんからぱっくりと割れるように、真の姿を現した。その姿は、桜の木と食虫植物を掛け合わせたような見た目をしていた。
「うわあ、なんだよこれ」
 ヒロキくんは植え込みから少し顔を出したまま、うめいた。
(チャコ、あれは)
 ぼくは悟られないよう、テレパシーを送る。
(インベーダーだな)
 ぼくはランドセルの中に潜むチャコと目を合わせた。
(ナオトくん)
「うん」と、ぼくはやおら立ち上がる。
「おい、どうしたんだよ」
 その様子を見たヒロキくんは不安そうにぼくを見た。
「えーと……」
 どういったらいいかわからず、ぼくは、ぽりぽりと頬をかいた。
「と……トイレ」
 ようやく絞り出した答えはそれだった。本当に便利な言い訳だ。
「え?」と、ポカンとした様子のヒロキくんをよそに、ぼくたちは、インベーダーに見つからないような近くの物陰に隠れた。

(続く)

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