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なぜOlympus Pen EE?これは禅カメラか?

数あるハーフカメラの中でどれを選ぶか。
これもなかなか楽しい難問です。

ハーフカメラは小さくて可愛いものが多く、しかも遊び心が満載で、名機、迷機、珍機も多いのです。
キャノンダイアル、ヤシカラピード、リコーオートハーフ、フジカミニ、キョーセラサムライ...
それを紹介するだけで一冊の本になりそうなので、ここではやめておきますが、ハーフの世界も奥深いのです。

ユニークなダイアル35

ハーフの元祖といえば、オリンパスPEN。
初代オリンパスPENが最初に思い浮かびます。これは以前コンパクトなカメラを探す中で候補に上がっていて、詳細を知っていました。
これは露出計は入ってないので別に持つ必要がありますが、完全マニュアルで使えるので、こだわった使い方ができます。色々なところで名機として取り上げられています。

元祖オリンパス pen

この発売年を見ると、1959年。
おや?
そうか、ハーフカメラはこの年代かと気づきました。
実は私は61年生まれ。以前から同じ歳のカメラが欲しいと思ってました。
ところが1961年発売のカメラを見ると、なんとなくパッとせず食指が動かなかったのです。そのことが不思議だったのですが、その理由が分かった気がしました。
当時はハーフカメラの一大ブームで、どのメーカーもそこに注力していたのではないかと想像します。

61年発売のハーフカメラを見ると、眼についたのがリコーキャディ。初代オリンパス pen に似ていて露出計内蔵、デザインも地味ですが、正統的でなかなか良い。
PENのシリーズはと見てみるとPEN EE。あーあのセレンメーターの露出計が入ったオートのやつね〜とちょっと落胆。
なぜかというと、露出自動で、固定焦点、シャッター速度1/60固定、しかもセレンメーターは劣化で使えなくなることも多く、そうするとカメラ自体が使えなくなってしまいます。中古カメラ店でよく安く売ってるけれど、なんとなくスルーしていたのはそんな理由からでした。

端正なリコーキャディ 真面目なサラリーマンぽい


リコーキャディに気持ちが傾く中、他のカメラも調べてみました。
ハーフで有名なリコーオートハーフ。これもデザインやゼンマイ式自動巻き上げなどのユニークな逸品です。これも固定焦点、固定シャッター速度。残念ながら65年発売。
そうか、ペンのライバルのように思っていたけど、かなり後発だったんですね。


一世を風靡したリコーオートハーフ 可愛らしい


ゼンマイ式ならばというので思い出したドイツのロボットというメーカー。
こちらは正方形のフォーマットでゼンマイ式自動巻、小型でデザインもかなりそそられる魅力的なカメラですが、パトローネが専用だったり、現代のパトローネが使えるものは結構値が張ったり。ちょっとマニアックすぎる。

ならば、本格的な一眼レフのPEN Fか....!


凝縮感半端ないロボット 正方形の画面に惹かれるが

ここまで来て、いや待てよ。
なぜハーフが欲しかったのかと省みました。
以前の記事でも書いたように、撮りたいという衝動を反映させるもの、小さな幸福を写すもの。
撮影の操作にこだわるとか、機構にこだわるとか、スペックにこだわるとかその辺にこだわりすぎるのは、マニアックすぎて何か違うと感じ始めました。
スマホで撮るように、気になったらシャッターを押す、それだけという方がいいのでは?


そう思い始めたら急にオリンパスPEN EEが気になり出しました。
61年発売のこのカメラでいいんじゃないか?
私の人生と同じ寿命を生きているカメラで写す。
必然性は何もないけれど、気持ちが入る。

可愛らしさの中にもズッシリ存在感がある


小さな幸せを撮るカメラとして、天才的な開発者の米谷さんの潔さが凝縮しています。

フィルム面が小さいのでレンズの焦点距離も短くピントの合う範囲が広い。故にピント調整は省き、固定焦点でも実用的。

自動露出(フィルムに届く光の量を自動で調整する)があるならば、シャッター速度も固定で良い。

これによってシャッターを押すだけで写るカメラができます。
気がついた方がいるかもしれませんが、これは使い捨てカメラの「写るんです」に近い考え方です。究極の潔さともいえます。
このカメラを買おうと決めてから、
このカメラにした理由を後付けで考えてみました。

縦位置の画面について考えてみます。
縦位置は横位置に比べて対象への求心性が高まります。
横画面は広がりが出て複数の対象や背景との関係性がうつりこみます。
そして、愛する人やものを写す構図がぼんやりと浮かびます。

エグルストンの縦位置作品


固定焦点について考えてみました。
最短焦点距離は2mくらいのようです。
撮りたいシーンやものがあっても、おいおい、そんなに寄るもんじゃない。
失礼だろ。大きく写そうなんてそんなガツガツしたことはやめておけ
ということかもしれません。

また遠景をパンフォーカスで撮るというのにも向いてはいません。
無限遠までシャープに写すという風景写真的なカメラでもない。
そもそもハーフサイズでその志向は無理があります。

シャッター速度は1/60固定。
これは手ブレをしないと言われる最も遅い速度です。
日中や曇天くらいの日、明るい室内でしか撮影できません。
逆光時にも撮れません。
穏やかな光に包まれる時間に撮れということか。

36枚撮りフィルムを入れると72枚撮れます。
枚数を気にせず、心が揺れたら撮ればいい。

このカメラは写真が好きになって、
カメラや技術に凝りたくなる欲望を、
バッサリと切り捨てます。

寄りすぎるんじゃない、でも離れすぎるな
平凡な日常のシーンでいいんだ
夜や夕暮れは諦めろ

撮影に付随してくる邪な欲望や虚飾を廃して、
お前が撮りたいものはなんだ?
と問い返してくる。

Olympus PEN EEは、
まるで禅の思想のような、
そんなカメラのように感じています。

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