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【小話】はろうぃーんの来訪者

はろうぃーん、という行事がある。元は日本のお盆のようなものであり、この世ならざる何かしらが子どもを攫ってしまうから、子どもがあえて同族に仮装して難を逃れる、というものから始まったものらしい。木を隠すなら森の中、に近いものだろう。

現在は大人も子どもも構わず仮装をして、トリックオアトリートとお決まりの言葉でお菓子をねだりに行くイベントと化している。

……つまりは来客者のためにお菓子を用意していれば良い、と認識して準備していたのだが、何故か襟が立った黒の夜会服を着ることになった生き物がひとり。
「まさか自分が仮装をする側になるとはねぇ……」

いわゆる吸血鬼の格好に仮装した、しらさやツミハである。完全な洋装は珍しく、正装として着ることなど今まで無かったため少し息苦しい。ネクタイを緩めてしまおうかと、首元に手を伸ばした。

「ツミハさん!トリックオアトリートです!」
草庵の玄関で、この世ならざる何かしらにしては、随分と明るい声が響く。
「いらっしゃい、今行くからちょっと待ってね」

一人分をラッピングしたクッキーを手に取り、玄関に向かう。玄関にちょこんと立っていたのは、白いシーツをすっぽりと被った子どもさん。黒のマーカーで描かれた、どこか気の抜けた顔がこちらを向く。特徴的な帽子をシーツの上から乗せており、黄朽葉色の髪の毛が透けて見えていた。

「メ……」
「違いますよ!おばけさんですよ!トリックオアトリートをしにきました!」
慌てて両手をぶんぶんと振りながら言葉を遮るおばけさんに、こちらはふわりと笑ってしまう。
「そかそか、おばけさんだね。イタズラされたら大変だから、どうかこのお菓子で許していただけませんか」

そう言って、クッキーを渡す。チョコチップ入りの不揃いなクッキーをおばけさんは嬉しそうに、シーツ越しから頑張って受け取った。
「ありがとうございます!ツミハさんも、ドラキュラさんかっこいいですね!」
「そう?ありがとねぇ」


「おばけさん、次の予定は決まってる?」
「はい!もうひとり、トリックオアトリートをしに行きたい人のお家に行ってきます!」
「楽しみだねぇ」

帰ろうとするおばけさんに、少し距離を詰めて。ドアにまで影を落とすと、見上げるおばけさんはおそるおそる、首を傾げた。

「さて」

「Trick or treat. おばけさん」

「あ……えっ……」
「そうだねぇ……おばけさんの血はどれくらい美味しいんだろうね?」

ここでようやく、おばけさんは『吸血鬼』にお菓子をねだったことを思い出したようだ。手ぶらだったおばけさんは、今こちらが渡したクッキーを両手で持っているだけであって。

「ふふ、冗談だよ」
ぷるぷるとクッキーを返そうとするおばけさんが可愛らしくて、つい笑ってしまった。

「さてさて、気を取り直して行ってらっしゃい。貴方にとって素敵な一夜になりますように」

(2022/10/31)
【小話】はろうぃーんの来訪者 了

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【あとがき】
ここまで読んで下さり、ありがとうございました。今回は少し短め。ハロウィンでしたので、どこかの誰かさんに来ていただきました。とても可愛らしいおばけさんでしたね。

ヘッダー挿絵は「イラストお絵描きばりぐっどくん」で知人に作っていただきました。すてきな作品をありがとうございます。

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しらさやツミハ(@shira_tsumiha)
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