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雪の予報が出ていたから

雪が雨に変わった夜、
私は件の優しい彼と向かい合わせでとんかつ定食を食べ、
その後、SUPERBEAVERが出演している音楽番組を、
彼の新車の中で一緒に見ていた。

なぜこういう事態になったかというと。
私が住む地域は滅多に雪が降らない。
下手をしたら都心よりも降らないかもしれない。
雪が降るのは年に一、二回の事であるから、
車が生活必需品のわりに、冬タイヤをきちんと装備する人は
割合として大して高くない。
私もそのクチで、冬タイヤはここ二十年くらい持っていない。
一番最初に乗っていた車の時は、
通勤に山越えコースがあったので必要としていたが、
その後は歩いても通える職場だったし、
雪が降れば基本的に家から出ない生活をしていたので必要が無かった。
今の職場も自宅から歩けなくはない距離であるので、
億劫がって冬タイヤの準備はしていない。
というよりも、例え、冬タイヤを履いたとて、
ロードスターで雪道の運転は恐ろしくて私には出来ない。

先週の金曜日。
我が地域にも降雪の予報が出た。
天気予報の画面には、朝から夕方まで雪だるまが並ぶ。
朝は車で行けても帰りは駐車場にそのまま置いてくるしかない。
次の日は幸いにも土曜日だから、歩いて会社まで取りに行こう。
半ば、あきらめとやけくそのような気持ちでいた木曜日の夜。
件の優しい彼からLINEが来ていた。
件の優しい彼、とは、個人的に催された忘年会で、
SUPERBEAVERがきっかけでよく話をするようになった職場の方だ。
(もっと言えば、「前よりもよく」だ。)
その彼と、金曜日の音楽番組にSUPERBEAVERが出るね、という話題で
少し前から話をしていたのだった。
思わず、
「明日、雪の予報ですね」
と投げたところ、
「帰りも雪だったら送りますよ」
とのお返事が。
男の人だったら当然の回答なのだろうか。
今までの人生において、こういう経験に乏しいので脳が混乱する。
お願いしますと言いたくなる気持ちと、固辞する回答とに心が葛藤する。
とりあえず、お天気次第、ということで、
その夜は解答を保留してしまった。

最近の天気予報は当たる。
出勤時は雨だったものの、お昼頃には隣の建物の屋根が白くなるくらいにしっかりと雪が降り始めた。
冬タイヤではない同じ部署の人間が、私の席の後ろにある窓へ、入れ代わり立ち代わり外の様子を眺めにやってくる。
私はと言えば、帰りの心配よりも何よりも、いろいろな意味で落ち着かない一日を過ごしてしまった。

夕方近くになり、雪は雨に変わってきた。
気温も道路が凍結するほどは下がらなかったようだ。
こういう時に限って、用事があって件の彼がいるところに行かなくてはならないものだ。
要件を話し終わった後、
「どうしますか?」
という話になるのは自然の流れであり、とりあえず、定時の時のお天気次第、ということになった。

定時を迎え、外のお天気は雨だった・・・

定時になり、連絡を取り合っているうちに
当初の予定通り、送っていただくことになった。
断り続ける理由もなく、可愛げがないように思えたからだ。
部署が違うため、待ち合わせ場所は彼の車。
外は雪ではなくて雨で、何となく照れくさいような空気が流れ、
じゃア、ご飯でも・・・
となるのは致し方ない流れ。
そして、もともと立ち話などはしていた仲でもあり、まったく気が合わないわけでもないので、冒頭の場面に戻る、な展開となったのだ。

今後、どんな展開が待ち受けているのかは私にもわからない。
変な期待もしない。
ズルい女にもなりたくない。
ただ、以前は何日も顔を見なくても何とも思わなかったのに、
ここ最近は姿を見かけないと何となく心寂しく思っている私がいる。



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