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研究者日記 Day36 水中遺跡は楽!

収蔵庫問題の続きです

日記としていますが、全然「日記」ではないですね。
そうそう、今、ちょうどは出張調査中ですので、日記らしいことを次の機会に書きます。
 
陸の遺跡では収蔵庫問題が大きな話題となることがあるが、水中遺跡はそれほど問題視する必要がない!ということ。その解説をしています。

収蔵庫問題…水中遺跡をマネージメントする上で実はそれほど問題になりません…。何を言っているのか?まあ、読んでもらえばわかるかな…

陸の遺跡の考え方をそのまま水中遺跡に押し付けているだけ

なぜ水中遺跡では収蔵庫問題が陸よりも考える必要がないのか、2回に分けて解説していこうと思う。それに、+1回の番外編(おまけ)で日本の現状・問題点を指摘したいと思います。なので、計3回で水中遺跡の収蔵庫問題を考えます。

その1~そもそも発掘・引き揚げはしない(今日の話題)
その2~Think outside the Box =収蔵庫のイメージを変えて解決(次回)
おまけ~日本の問題点、考えるべきこと(その次)


Think outside the Box

収蔵庫のイメージを変えて解決



引き揚げたモノを保管する必要があるから、大変じゃないか…と思うかもしれませんが、そこんところは発想の転換が必要です。水中遺跡の場合、そもそも「発掘をしない」というのが第1回目でした。第2回目のポイントは、引き揚げた遺物は、そもそも「陸で保管しない」です。
 
読んで字のごとくです。陸では遺物を保管しません。水中で保管します。まあ、水中保管とでも言いましょうか。カナダ、北欧、デンマークなどでは盛んにおこなわれています。水中は比較安定した環境にあり、50cm以上の堆積物があれば真空パック状態。一度引き揚げた遺物を別の場所に埋め戻すことになります。遺跡の現地保存とは異なります。遺跡を掘るとなった場合、その場所から動かして、例えば遺物の種類ごとにまとめて埋め戻しをします。
 
人によっては、突拍子もないことのように思うかもしれませんが、「海底保管施設」という名称がイメージしやすいかもしれません。遺物を一度陸にあげ記録などをしっかりと残し、もちろんラベルなどもしっかりと取り付けて、安全な海底に埋め戻します。時には囲いを作ったりちょっとした構造物を作ることもあります。温湿度管理はいりませんし、何より土地が広い…。長期保存には適した環境にあります。また、保存処理を行う必要もない。これは一つの大きなメリットではないでしょうか?

簡易的な海底保管庫。オーストラリアの例。

こちら、200ページ以上のレポートをダウンロードできます。
保存に

https://www.vastarvet.se/testsidor/vastarvet/SysSiteAssets/vastarvet/tjanster-o-projekt/konservering/raar_phase_ii_webb_liten.pdf


ラベルなども海底で劣化しないか長期的な実験を実施


まあ、あとは実際に遺跡をその場で埋め戻している例も多くありますので、一度引き揚げた遺物を埋め戻すことも、それほど抵抗のないことなのではないでしょうか?結局、陸の遺跡も空気中で発掘後に別の場所で空気中に保存してあるわけです。水中の遺跡も水の中で発掘後に別の場所で水中で保存することにそれほどの違いはありません。むしろ、環境の変化が少なく手住むのですから保存方法としては陸にあげて空気中で保存するよりも利にかなっています。
 

https://sitereports.nabunken.go.jp/ja/130183


ちょっと批判的な意見を見てみましょう!

 

遺物が見れなくなる!

私も最初はそう思いました。ところが、どうでしょう。今現在、発掘後、保管庫に入った後、一度も日の目を見ていない遺物がいかに多いことか。陸で保管している間に遺物が劣化してしまうこともあるでしょう。もしくは、収蔵庫の中で迷子になり、結局出土地不明の遺物になってしまうこともあるかもしれません。
 
まあ、完全に見れなくなるわけではありません。見たいと思えば取り出すことも可能です。ただし、陸の収蔵庫に比べると取り出すのにはコストがかかるのと、他の遺物にちょっと影響が出る可能性もあるので、できれば海底収蔵庫へのアクセスは少し控えたいところです。水中保管庫のデメリットであることは間違いないですが、陸の収蔵庫を維持するコストや遺物に悪影響を与える可能性があることを考えると、それほど大きなマイナスにはならないかと思います。
 
ここで沈没船遺跡の特徴ですが、基本、沈船は商船が多いです。大量の積み荷を積んでいます。そして、それらの多くは同一製品が多いこと。全く同じ商品を数十点から時には数百点積んでいます。例えば、状態の良い遺物を一点引き揚げて保存し、残りりは海底で保管するというパターンが考えられます。遺物に優越をつけるわけではないですが…。まあ、最近はデジタル記録もしっかりと残しておくことができるので、本物1点で勝負することになります。ただし、陶磁器類などは場所はとりますが、それほど保存処理にお金を必要としない。埋め戻して水中保管するのは、船体や金属製品などがおおいようです。船体は引き揚げずに、その場で埋め戻して保存が一番パターンとしては多いです(というか、それがほとんど)。

海底保管庫の最大のメリットは、安く保管できることにあります。というか、保存処理にお金を使う必要がないこと。遺物の記録を取ったら、そのまますぐ海へ。楽です。時々、モニタリングは必要になります。海底がどのような状況にあるのかの記録を残すことも重要です。

(いくつか細かな点は、第3回目のおまけで語ります…)
 
海外の事例を見ると、基本はもともとの遺跡の近くに埋め戻すことが多いようです。どこか一つの海底保管センターではなく、遺跡それぞれ小規模で保管ボックスを作る感じでしょう。海の底は安定していると言っても、やはりそこは海の底。大きな災害などがあったことを考えると、一度にすべての遺跡が失われるよりも、リスクを分散させるということ。また、遺物を見に行きたい!となったときにすぐ見れますから。また、大きなセンターを海底につくるとお金が余計にかかりそうですね。遺物を見るために毎回砂を払うのも小規模であれば可能です。

海底保管庫のデメリットは、災害などが発生しても、すぐには対応できないこと。地震や地滑りなどが発生しても、見に行くまでは被害状況が分からない…。そのためにも定期的なモニタリングは必要ですね。
 

海底保管庫はデメリットがないわけではない。ただし、陸の保管庫のマイナス要素を数えていくのに比べると、その差は歴然とします。


海底であれば、収蔵スペースは日本の場合は無限大に近い。土地の代金なし。保存処理の必要なし。温湿度管理の必要なし。残念ながら、陸から発見された遺物を水中保管庫で管理するのは、お勧めできません。低湿地遺跡から出た木材は、まあ、湖の底など行けそうです。ですが、低湿地遺跡の良いところはその保存状況の良さから他では見られない木製品が出土すること。ユニークな遺物が多いんですよね。だから、それれらは保存して陸で管理の方がよさそうです。もちろん、沈船遺跡でない水中遺跡(水没遺跡)などは、海底保管庫はあまり向いてないかもしれません。石器や土器などは保存処理にそれほど費用を必要とすることはないので。

困ったら、水中保管庫。
おススメです。


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