気になるニュース 海洋開発と文化遺産
海洋開発…海底油田やガス、そして最近は風力発電。
今日は書きすぎてしまう可能性大。
海洋開発に際して、「水中文化遺産も守る必要があるよね」という合意は世界で形成されつつあります。国連組織(ユネスコなど)も、それに向けて動いています。多くの国では、風力発電など施設を建設する際には、事前に調査で影響を受ける水中遺跡の有無を確認します。掘るところだけではなく、建設により「影響を受ける範囲を事前に調べる」ことをします。
その結果、世界各地で水中遺跡の発見ブームが起きており、先進国であれば各国数千~数万件の水中遺跡が確認されています。水中遺跡の事前調査は、海洋開発会社にとっても大きな収益となり調査は経済波及効果が高いです。
アメリカの取り組みを紹介したいと思います。海底油田やパイプラインの建設に際しての遺跡調査は、すでに前世紀から実施されています。いわゆるエネルギー庁(BOEM)の中に水中遺跡を取り扱う部門があり、そこが調査を実施し、成果を公表しています。
BOEMのウェブサイトの中に「文化遺産」のページがあるのは少し違和感があるかもしれません。日本なら文化に関しては文化庁、エネルギーに関してはまた別、と区分けが明確な考え方ですからね。
このたび、BOEMが、これまでに調査してきた水中遺跡をHistorical Placesに登録して保護の枠組みを強めると発表しました。それに関連し、これまでの調査の資料やドキュメンタリー映像などを公開しました。簡単に日本風にいうと、深海の遺跡を一括で国指定の史跡に登録しようってことですね。
BOEMのページはコチラですね…
海洋開発の事前調査で発見されたたくさんの遺跡が紹介されています。
ちなみに、日本の組織の中でBOEMに一番近いのは、NEDOかもしれませんね。ちなみに、NEDOのホームページですが、「文化」や「遺産」の文字で検索してもほぼ何も出てきません。
概要説明動画。ふむふむ、むなるほど…
ちょっと、いくつか面白い遺跡を紹介したいと思います。私が文字をつらつら書くよりも、動画をクリックしてみてほしいです。これらはメキシコ湾で発見された沈船たちになります。
MARDI GRAS SHIPWRECK
マルディグラ沈没船。名前がおめでたい。この沈船ですが、私が大学の保存処理ラボにいたころに、調査に関わっていました。遺物の保存処理・写真撮影を担当していました。
この動画に出てくる遺物の写真(動画は撮ってません)は、8割ほど私が撮影したものだと思います。なつかしー。
ちなみに、これ、私の👉ゆび…。
詳しく知りたい方、報告書こちらからダウンロードできます!
MICA SHIPWRECK
マイカ沈没船。動画でご確認を。
この船、発見の経緯がいろいろありまして。下の写真、MICA沈船のソナー画像の一部ですが、よく見ると何か長いものに切断されていますね。これ、工事でトレンチを掘ってしまった跡なんですよ。長細い筋状の亀裂が見えますね… 掘削した後で沈没船がある!と気が付いて、慌てて調査しています。
ん? 事前調査をしているはずでは…
どういうことか… サイドスキャンソナー(音波探査)は、機械から左右方向に音波を発信し、その跳ね返りのスピードの違いから海底地形を読み取ります。左右の音波の間には、構造上どうしても見えない部分ができてしまいます。下の画像の黒い部分ですね。
図式化するとこんな感じ
Mica沈船は、この見えない部分にあったのです。調査範囲を調べる際には、サイドスキャンで決まったルートを行ったり来たりして海図を埋めていくイメージです。この発見の前までは、探査方法については詳しく規定はなかったようです。ところが、この発見から海域を100%カバーすることが義務となりました。往復の回数が増えた!
サイドスキャン、小型のものはこんな感じ。あ、また私の指…
MICA沈船のレポートもダウンロード可能
https://espis.boem.gov/final%20reports/4216.pdf
参考に…
WINDY NETWORKさんでは、様々な海の探査技術を持っています。ぜひ、覗いてみてください!
BOEMですが、動画だけでなくブラウザー上で3Dモデル動かせます。結構楽しいです。
他国はどうなのか?
海洋開発に対して遺跡調査を実施しているのはアメリカだけではもちろんありません。アメリカは、世界の感覚とちょっとずれてる・遅れているほうです。優秀な研究者や行政の人はいるんですが国民全体・政府でみると文化に対して関心が薄い…
イギリスのドッガーバンク海域の洋上風力に関わる考古学調査報告書をご覧ください。PDFダウンロード可能。
レポートはコチラ
その一部ですが・・・・粒粒が」何らかの異常反応があった場所になります。遺跡かも?というポイントですね。ケーブルを通すところを調べています。洋上風力発電でたくさんの遺跡・遺物が毎日のように発見されています。
イギリスだけではありません。台湾・韓国・中国も海上開発に際して調査を実施します。参考にまで2年ほど前に改正された中国の水中文化遺産に関わる法律を。
コチラの論文、日本と中国の違いがよくわかります。違いというか、日本政府は何もしていない、中国は積極的に進めていることがわかります。(日本政府が何もしていないのであって、研究者やいくつかの自治体はきちんと進めています)
まあ、あとバミューダなんかも例として挙げておきますか。排他的経済水域も水中文化遺産保護が及んでいます。
日本は、排他的経済水域に文化財保護法は適応されていませんので、何かあった場合、政府は何もできません。そもそも文化財として認識する法的根拠すらない。
一応、領海内であれば日本も文化財保護法が適応されるため、工事中に何か発見すれば報告する義務になっています。
ところが…世界の例を見ても、水中遺跡が開発中に発見される例って少ない。ぼろぼろに壊された大きな遺跡が見つかることはあっても、掘ってるときに遺跡が出てきた!ということはない。
海の開発って、遠隔操作やオート操作が基本です。そもそも掘削中に誰かがしっかり観察をしているわけではないし、遺跡が出てくるという概念すらない人が現場にいます。何か遺跡っぽいものが見えても、工事を止める必要があると考える人が現場にはいないと思います。(排他的経済水域の場合は、止める法的根拠がない) まあ、オート操作といいましたが、巨大な船が動きながら捜査していることもあります。
つまり、曜変天目が10枚ゴロゴロ転がっているのがモニターに見えても、船は急には止められません。「なにかあったね~」で終わってしまう。草薙の剣も同じ運命。
海の工事で使う道具を見ると…でかい…遠隔操作専用っぽいですね
陸の工事現場で使うのは、ちょっぴりかわいいです。
そう、海の開発中に、おじさんが「あ、なんか出てきちゃったよ…」と工事ストップをかけることは、ほぼないでしょう。
Mica沈没船を思い出してください。探査で見逃して、掘削後に発見されています。工事中に発見されたのではなく、工事後の目視確認で発見されました。その目視確認がなければ、もっと劣化が進んでいたことでしょうし、おそらく、未だ発見されていない可能性もあります。
ところで…
そんな探査するのにお金がかかって大変じゃないか!というかもしれませんが、
それは逆。
考古学者は、いかに遺跡を発掘せずに済むかを考えています。埋蔵文化財保護法によれば、工事中に発見があれば、それを発掘する費用は事業者です。発掘を未然に防ぐために探査して見つけておくことは、国が企業にできる最善の方法です。
海の開発は、計画段階での変更は難しくありません。個人の土地のように、ぜったいここ!というのは、それほど多くありません。工事前に遺跡を調べて遺跡を避けておくことがベストです。また、海の開発に関わる工事は、開発費用全体に比べれば大したことありません。事業費数100億円の中から海の発掘費用(数千万)が出てくるわけですから。陸の個人住宅の建設にかかる数千万の中から発掘費用数百万出すほうがよっぽど大変です。海の発掘が事業者に負担がかかるというのであれば、先に陸の発掘をやめるべきです。そのほうが喜ばれるでしょう。
さて、最後に…
こちら、私がよく使う図。オランダ周辺の水中文化遺産ポイント。粒粒がすべて水中遺跡の可能性があるポイントです。そこに西日本の地図を重ねてみました。まあ、日本の周りにもこれだけ水中遺跡があったのかもしれないが、どれだけ破壊が進んでいるのでしょうね…
なんか、以前も長ったらしくかいていますが、こちらもよろしく。
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