愛すべき毛玉、キウイ
私は一般的なゲームオタクである。長年、ゲームキャラクターを中心に架空のキャラクターを愛でて過ごしてきた。だがしかし、ここへきて実在の動物に心を奪われてしまった。
そう、キウイ(キーウィ)である。
どうしてここまでキウイに惹かれたのかの経緯、そして実際に会いに行ったエピソードを語ってみようと思う。
なぜキウイ?
はじまりは、家具店で見つけたキウイの置物だった。
キウイのことは一度、動物園で見たことがある。かわいいとは思っていたが、特別強い感情を抱いているわけではなかった。しかしなぜかその置物に強く心を掴まれたのだ。
その場ではいったん見送ったが、日を重ねるごとにキウイへの思いが高まり、購入に至った。
キウイの置物を自宅に迎え入れてからというもの、事あるごとにキウイを撫でては可愛がった。キウイの置物を気に入った家族がサイズ違いで同じキウイをもう一体買ってきて、自宅はますます賑やかになった。
自分の中でキウイの存在感が日に日に増していった。
そんなある日、インターネット上でキウイのぬいぐるみに言及している人を見かけた。最初は特に欲しいと思わなかったが、なんとなく心に引っかかるものがあり、「キウイ ぬいぐるみ」で検索してみた。
すると、出るわ出るわ、かわいいキウイのぬいぐるみ達が。小さいキウイ、大きいキウイ。特に、抱きしめられるぐらい大きなキウイのぬいぐるみに心惹かれた。
ここまできたら、ぬいぐるみではなく実際のキウイも気になってくるのが人の性である(?)。「キウイ」で画像検索してみる。かわいい。キウイは日本では天王寺動物園にしかいないらしい。なるほど。検索をする手が止まらなくなった。
そして、決定打となったのは、キウイの絵を描いたことである。
第三者による供給ではなく、自分の手によって自分を沼に突き落としたのだ。そんなことがあるかと自分でも信じがたいが、自分で描いたことによりますます愛着が湧いてしまった。
キウイのグッズが欲しい。キウイのファンアートを見たい。キウイに会いに行きたい。
キウイのことしか考えられなくなってしまった。
天王寺動物園に行こう!
なんと幸運なことに、私は関西に住んでいる。天王寺動物園に行こうと思えば、比較的簡単に行くことができる。
思い立ったが吉日、行くしかない。すぐさま予定を確認し、空いている休日に天王寺動物園のチケットを取った。
なお、9月に「キーウィ特別展」というイベントが開催されていたらしいが、惜しくも決行日の2週間前に終了しており涙を飲んだ。
キウイに会える日を指折り数えながら、前回見たキウイを思い出す。
初めて天王寺動物園に行ったのは1年前。キウイは夜行性なので、夜行性動物舎という昼夜逆転した建物にいる。暗闇の中でよく見えず、キウイらしき毛玉を確認して「あれがキウイかあ」と思ってさっと通り過ぎてしまった。
もったいないことをしたようにも思うが、無関心だった過去と魅力に気付いた現在でどう見え方が違うか、楽しみだった。
そして迎えた当日は、あいにくの雨だった。しかしキウイがいるのは室内なので、雨を気にせずじっくりキウイを眺められるのはありがたかった。
その日、天王寺動物園では「ナイトZOO」というイベントが開催されていた。普段は閉園してしまう夜の時間帯に、一部の動物を見られるというものだ。
最初はスルーしていたが、当日にTwitterで「ナイトズーでキウイを見た」という人々のツイートを観測し、慌てて1日のスケジュールを変更した。
スケジュールは以下の通り。
15:00 天王寺動物園に入場し、昼のキウイを見る
時間と余力があれば他の動物も見る
16:30 ショップでキウイグッズを買う
17:00 新世界で串カツを食べる
19:00 天王寺動物園に再入場し、夜のキウイを見る
実在動物の推し方がわからない
少し話は逸れるが、キウイとの面会を目前にして、私はあるひとつの悩みを抱えていた。
それは「個体である動物園のキウイと、どういうスタンスで接すればいいのか」である。
動物園で展示されているキウイは「ジュン」という名前がついている1羽の個体である。そのジュンくんに対して「キャー!キウイー!」と持て囃すのは、キウイなら誰でもいいということになってジュンくんに失礼なのではないだろうか。
ジュンくんと接するのであれば、個としてのジュンくんを尊重すべきではないのか。だが、私はジュンくんという個体を推せるほど、ジュンくんについて何か知っているわけではない。
これまで実在する生物(人間含め)を推したことがないので、どう推すのが適切なのか分からなかった。
これまでの推しを思い出してみると、特定のポケモンを推していた状態に最も近いと思った。私が推していたのは「特定の種族」であり、「特定の個体」ではない。
わかりやすい例としてピカチュウを挙げる。一口にピカチュウと言っても「サトシのピカチュウ」「自分の手持ちのピカチュウ」「野生のピカチュウ」などがいる。その中で自分が推しているのはどのピカチュウなのか、そんなことは今まで考えたことがなかった。どこの誰のピカチュウかは特に気にせず、ピカチュウのグッズを買うし、ピカチュウがメディアに出れば喜ぶ。
これは、「実在するピカチュウ」がいないからこそ、ピカチュウのパーソナリティについて考える機会がなかったといえよう。もしピカチュウが実在していたら、そこには必ず「(特定人物・特定場所)のピカチュウ」といった肩書がついてくるからだ。
では、もし実際にピカチュウが存在していたら、自分はどういう推し方をしていただろうか……?
悩みながらTwitterを眺めていると、全く無関係なツイートの中に「箱推し」という言葉を見つけた。
なるほど、私はキウイという種族を箱推ししているのではないか。どこの誰のキウイであろうと可愛いし、キウイのグッズももれなく可愛い。もちろんジュンくんも例外ではない。
そう考えると、ジュンくんのパーソナリティを意識しすぎず、純粋にキウイのひとりとして愛そうと思えた。
これが適切な推し方なのかどうかは今でも分からないが、自分の中ではかなりしっくりきた。
グッズ売り場の不意打ち
動物園に入場すると、目の前にグッズ売り場があった。
買い物をするのは帰りと決めていたが、どんなグッズがあるのが偵察がてら覗いてみることにした。
すると、最初に私を出迎えてくれたのは、極限までデフォルメされた小さなキウイのマスコットだった。
これは、かわいすぎる。
事前のリサーチである程度どんなぬいぐるみがあるのかは分かっていたつもりだったが、このマスコットは全くの不意打ちだった。
「グッズは帰りにちゃんと買うけど、とりあえず、とりあえず1体……」と言いながら小さなキウイをお迎えした。
伝わるだろうか、この小ささ、握りしめれば潰れてしまいそうな生命(いのち)……
いざ、キウイとご対面
軽く他の動物を眺めながら、キウイのいる夜行性動物舎に到着した。
入り口の注意書きに泣いているキウイがいて、味わい深さとともに、長年キウイが大切にされていることを伺い知れた。
傘を畳み、早足でキウイコーナーへ向かう。
い、いた……!
赤いランプに照らされた展示コーナーの隅っこに、丸まっている毛玉がいた。今の私なら断言できる。間違いなくこの毛玉がキウイであると。
直径20センチほどの毛玉が、丸まったままもぞもぞと動いている。
そこから出るのか出ないのか、動くのか動かないのか。どっちでも構わない。いずれにせよ、今日はじっくり待つつもりでやってきたのだから。なんなら毛玉を生で見られただけでも十分嬉しい。
そうして毛玉を数分間眺めていると、毛玉は向きを変え、のそのそ歩き始めたのだ!
初めてしっかりと顔を認識できた。つぶらな瞳に長いクチバシ。暗闇の中で目が見えるわけではないらしく、クチバシで地面や部屋の隅をつつきながら歩き回っていた。
飼育員用のドアの隙間をつつき始め、外が気になるのかな?と思って見ていたら、飼育員さんが入ってきた。飼育員さんが入ってくる時間帯が分かっているのだろうか。
飼育員さんは地面に刺さった謎の筒を回収していった。後から分かったことだが、動物が餌を少しずつ食べてくれるように小分けにして筒に入れているらしい。
……いや、それにしても丸い、思っていたよりも丸い。私が描いたデフォルメイラストよりも丸い。丸い体に小さな頭が控えめについている。ドッジボールともラグビーボールともいえない楕円形のフォルムは、まさにキウイフルーツそのものであった。
その後、ジュンくんは水を飲んだり筒状のオブジェをくぐったりのファンサービスをしてくれた後、また定位置について丸くなった。
他の客が丸まっているジュンくんを指して「えー?これキウイ?ちゃうやんなー」と気付いていない様子だったので、思わず「あ、それですよ」と言ってしまったがスルーされてしまった。そりゃそうじゃ。知らない人にいきなり話しかけるのはびっくりされるのでやめましょう。
かれこれ30分ぐらい眺めたところで疲れてきたので、立ちっぱなしの足を休めるべくその場を離れた。
その後はグッズショップでキウイグッズをしこたま購入したわけだが、グッズのひとつひとつについて語り始めると長くなるので詳細は割愛する。
夜の夜行性動物舎
前述の通り、夜行性動物舎は昼夜逆転空間である。すなわち、外が昼であれば中は暗く、外が夜であれば中は明るくなる。日中に夜行性動物が行動しているところを見せるためにこのような作りになっている。
ナイトZOOは、この夜行性動物舎が明るくなったところを見られる貴重な機会である。
いったん動物園の外に出て、新世界で串カツを食べてウロウロした後、19時に再入場した(ナイトZOO開催中は閉門が19:30になっているらしく、それまでであれば再入場が可能とのこと)。
再び夜行性動物舎へ。「夜行性動物舎は19:30頃にお昼になります」という看板がある。到着したのは19:15頃で、中はまだ暗かった。
そしてジュンくんと再会。
ジュンくんは少し歩き回った後、19:25には最初と同じ定位置について丸くなった。飼育員さんが入ってくる時間帯と同様に、点灯する時間帯が分かっているのだろうか。
そうして丸くなったまま、点灯の時間を迎えた。点灯は日の出のように徐々に明るくなるのかと思いきや、一気に点灯して明るくなったので少し驚いた。
丸くなったジュンくんは寝息を立てているのか小さく動いていた。明るいので毛並みがよく見える。毛のように見えるが、近くでよく見るとちゃんと鳥の羽の形をしていた。キウイの解像度が上がった気がして、嬉しくなった。
しばらく眺めて、これ以上の動きはなさそうだと判断して引き上げた。
ありがとうジュンくん、いつまでも元気でいてほしい。
キウイのために何ができるか
実際にキウイと対面してみて、新たな感情が湧き上がってきた。
キウイのことをもっと知りたい。そして、可能なら何かキウイのためになることがしたい。
キウイは絶滅危惧種であり、世界でも飼育している動物園は稀なのだとか。なんと、アジアでは唯一天王寺動物園だけらしい。きわめて貴重な場に気軽に行ける環境の幸運さを改めて感じる。
また、キウイの数が減った理由として、住環境の変化や外来種の増加による影響があるそうだ。特に印象的だったのは外来種のオコジョのエピソードで、ウサギを駆除するために野に放たれたのにウサギより捕まえやすいキウイのヒナを襲うようになってしまったという。
キウイにはかつて空を飛べる羽があったらしいが、住みやすい環境に適応した結果、羽が退化したらしい。それが災いして外来種に襲われやすくなってしまった。住みやすいからと飛べなくなったのに、そのせいで住みにくくなっているのは気の毒である。
そんな生態も含めて、守りたくなる存在だと思ってしまう。
キウイのためにできることは何だろう。
身近なところで言えば、やはり天王寺動物園への支援だろうか。
天王寺動物園では過去にほしいものリストを公開していたらしいが、現在は受付終了している。次回のチャンスを逃さないよう、天王寺動物園のTwitterやブログをウォッチしていきたい。
(12月9日追記)
天王寺動物園はほしいものリストの他にも、さまざまな方法での支援を受け付けている。
このたび、少額ながら寄附させていただいた。天王寺動物園のますますの発展と、動物たちの健康を願ってやまない。
おわりに
天王寺動物園の感想をきちんと書きたいと思っていたが、Twitterに書くにはあまりにも長いので、しっかり文字を書ける場としてnoteを利用することにした。
この記事をご覧になった方がキウイに興味を持っていただければ幸いである。
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