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マスコミツイートに付いたコミュニティノート分析

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時間がない人向けまとめ

マスコミのツイートに付いたコミュニティノートをまとめた。そのコミュニティノートをもとにマスコミ報道にどのようなミスリーディングな記述が多いかを確認した。
シンプルに誤報と言えるものから、重大なミスと軽微なミスを混ぜて件数を報道する、別の重い罪状を書かずに見出しを書くなど多様なミスリーディングを誘う記述があることが分かった。
マスコミ報道はSNS上の書き込みと違い政治家や企業幹部など国民に大きな影響を与える意思決定者の決定の素材になる。そのマスコミ報道がミスリーディングを誘うものであれば国益を損なう。
ファクトチェック団体はマスコミ報道を対象にしないが現実に与える影響で言えばSNS上のフェイクニュースよりマスコミ報道の方が影響は大きい。
誤解を産むマスコミ報道はいままで一覧などでまとめられていない。過去のマスコミ報道を一括で検索できるような第三者アーカイバーや一括検索システムが必要ではないか。再度書くがマスコミのミスリードを誘う報道のほうがSNS上の書き込みより国民生活に与える影響は大きい。
まずそのようなミスリードを誘う報道をまとめる第三者アーカイブ組織が必要なのではないか?

イントロダクション

X(旧Twitter)での投稿にコミュニティノート(投稿に対する注釈)をつける機能がリリースされて1年ほどが経った。Xのポストに対して、赤い枠のような補足説明が付けられる機能だ。

コミュニティーノートサンプル

マスコミのニュース投稿にもしばしばコミュニティノートが付く。それは必ずしもファクトチェックそのものではないが、投稿に対する補足説明になっており大元の投稿の情報に誤解があったり、誤解を誘発する要素があることを示している。
今回、コミュニティノートを分析して、マスコミツイートにどのようなコミュニティノートが付いたかを調査した。


SNS上のフェイクニュースとマスコミのマルインフォメーションどちらが害が大きいのか?

フェイクニュースには意図的な嘘や勘違いによるデマ以外に「内容は真実だが切り取りや誤った解釈・勘違いを誘引する表現」もマルインフォメーションという名称でフェイクニュースに分類される。マスコミの記事にも少数フェイクニュースがあり、明確な嘘のフェイクニュースよりはマルインフォメーションという形のフェイクニュースが多いように見える。

良くメディアの切り取りとして参照される下記マスコミ風刺画がある。これは、本来ナイフを刺そうとしているのは右の人物なのにマスコミの切り取りによりあたかも左の人物が刺そうとしている様に見える表現だ。

https://note.com/fujimiisshou/n/n6dc9640b2531 より引用

マスコミ報道ではこの種の切り取り表現が見られる。下記で紹介するコミュニティノートが付いたマスコミツイートでも散見される。

SNS上のフェイクニュースと違いマスコミ報道は意思決定者に利用される。

SNS上にはフェイクニュースが流れている。これは間違いのない事実である。それが医療上の問題や被災地のデマを引き起こす。つまり、それは一般大衆に悪影響を与える。
一方マスコミによる報道は大企業の幹部や政治家などの意思決定層に影響を与える。
「メディアと自民党」(角川新書)第五章 自民党のネット戦略によると、自民党の参議院議員世耕氏はNTTに勤務している時広報として毎朝「新聞11紙をチェックして」NTTに関する記事を集め論調の分析をしたと書いている。これはNTTの上層部に届けるためのファイリングであり、NTTのような大企業がマスコミ報道を気にしている様子がうかがえる。
また国会は議事録をネット検索できる。「新聞によると」をキーワード検索すると1380件ヒットする。国会議員という最高意思決定者が新聞に載った情報を元に国会質疑を行っている。それは意思決定に影響を及ぼす。

国会議事録検索システムより

ソーシャルメディア上のフェイクニュースは問題であるが、それを国会議員や大企業の幹部が情報の参照元として使うことは稀であろう。一方新聞記事は国会議員や大企業の幹部と言った国民に大きな影響を与える最高意思決定者が意思決定のための情報として利用する。
ネット上のフェイクニュースは問題であるが報道にフェイクニュースが混ざるとそれは国会や大企業の経営判断など最高意思決定の段階で誤りが生じるのでそちらのほうがより悪影響が大きいのではないか?
紛らわしい情報でもそれを野党議員が国会で何度も引用し質問することで国会運営を空転できる。
意思決定層なのだから新聞記事を鵜呑みにするのは良くないといった反論も可能であろうが、当の報道機関がその様に反論すれば自分たちの報道(プロダクト)が低品質であると自ら宣言しているようなものだ。自分たちの報道を見ればきちんと理解できるというべきだし、それを目指すべきだろう。

マスコミが投稿したツイートにどのくらいコミュニティーノートが付いているか?

後述するが、X社はコミュニティノートに関わるデータを公開している。それには、各ノートのIDの他に、Tweet(Post)のIDも含まれる。そのため、マスコミが投稿したTweetのIDと突合すれば、どの投稿に対してノートが付いたか判別できる。
マスコミのツイートに対してどのくらいコミュニティノートが付いているだろうか?コミュニティノートが日本で開始された2023年7月8日から2024年7月1日までで調査した。各ニュースは2024/07/01までのニュース。コミュニティノートは2024/08/01時点のデータを利用した。

調査対象マスコミアカウント

テレビ NHKニュース
新聞社 産経ニュース,日本経済新聞 電子版(日経電子版),朝日新聞,毎日新聞,毎日新聞ニュース,読売新聞オンライン,朝日新聞デジタル
通信社 共同通信公式,時事ドットコム(時事通信ニュース)
ニュース・アグリゲーター ライブドアニュース,Yahoo!ニュース,

マスコミツイートに付いたコミュニティーノート数

マスコミ総ツイート(投稿)数 400318 公開ノート数 135件 割合 0.03372%

同時期の米英のマスコミに付いたコミュニティーノート数と比較する。

英 総ツイート(投稿)数 358764 公開ノート数 67件 割合 0.01867 %
米 総ツイート(投稿)数 279021 公開ノート数 43 件 割合 0.01541 %

英調査アカウント Sky News,The Telegraph, BBC News, The Guardian, Reuters, The Independent, The Times, Financial Times
米調査アカウント Fox News,The Wall Street JournalABC News,NBC News,The New York Times,The Washington Post,USA TODAY,CBS News,HuffPost,CNN

「日本のマスコミツイートには欧米の2倍コミュニティノートが付く」とマスコミだったら書くだろう

興味深いことに、米英のマスコミと比べると日本のコミュニティノートが付く割合は 0.033% と米英の 0.018%,0.015%と比べると2倍程度高い。まあ、それでもマスコミのツイート総数から比べるとあまりコミュニティノートは付いていない。日本のマスコミだったら例えばこれがもし政府機関へのコミュニティノートなどであったら、欧米に比べて2倍多いと書くだろう(笑)。
ちなみにコミュニティノートはニュースアグリゲーターに付くことが多いのでニュースアグリゲータを除外すると、
マスコミ総ツイート(アグリゲーター除く(投稿)数 330375 公開ノート数 80 件 割合 0.0242 % となり、アグリゲーターを除いても米英より割合は高い。

各マスコミに付いたコミュニティノート一覧

各マスコミツイートにどのようなコミュニティノートが付くだろうか?下記に示すようにコミュニティノート自体のデータは公開されており、それとマスコミのツイートを突合すればどのようなツイートに対してどのようなコミュニティノートが付いたか確認できる。
コミュニティノートが付いたマスコミのツイート(多くの場合それはニュースの見出し)は読者にとって分かりづらい、ミスリーディングを誘う可能性が高いことを示している。誤解を招くために補足説明としてコミュニティノートが付くはずだからだ。

報道各社のツイートに対してどのようなコミュニティノートが付いているか一覧で見ていこう。各テーブルにはコミュニティノートが付いたツイートへのリンクを貼っている。利便性のためツイートは最大100字までコミュニティノートを最大200字まで引用する。noteにはテーブルを表現する機能がないので、https://github.com/ の表システムを利用する。

NHK

マイナンバーに関する投稿2件にコミュニティノートが付いている。両方とも量の概念に関するものだ。「4割が自主返納」とあるがなにの4割か分からない。台帳不一致139万件の殆どは氏名年齢の記載ミスで他人と誤って紐づいたものは450件程度であった。
マイナンバーに関しては、
- 割合の情報は記載するが、そもそも何に対する割合か分からない。
- 本来報道すべき重大なミスに軽微なミスの件数を混ぜて報道する
手法が取られている。

日経

日経の他社にない特徴は、
- グラフに関するコミュニティノート(人口と外国人人口、金利)が付けられる。
- シンプルに誤報とコミュニティノート(任天堂、テスラ)が付けられる
点にある。

産経

LGBT,安全保障などにコミュニティノートが付いている。

朝日、@asahi,@asahicom を合算

内心を想像して述べた内容をあたかも言ったようにツイートする。
推定値と実測値の2つを報告したものを「北陸電がまた訂正」と書くなど誤解を招きやすい表現をやりがちに見える。
また中国大使の表現を忖度してコミュニティノートが付いたのは朝日だけのようだ。
中国大使の発言に関して全体の文脈から真意を読み取りのが大事なら政治家の失言に対しても同じ様にやるべきで人によって使い分けるのはダブスタだろう。

毎日新聞 @mainichijpnews @mainichi 合算

  • ある特定の人だけ対象なのに全対象だと誤認させるもの(国民保険料上限)

  • 特定の団体に属する人へのアンケート調査なのに全ひとり親世帯の調査のような誤解を招く表現

  • 産経記事でもそうだが吉野家の紅ショウガ、じか箸でかき込んだ35歳に実刑判決は実際には大麻栽培などの刑なのにその重要な背景情報を書いていない。

などが見られる。

読売新聞

2024/08/01のコミュニティノート情報によれば読売新聞は能登半島地震の際の自販機に付いてのコミュニティノートしか付いていないようだ。

時事通信

時事通信は一件のみであった。ニュアンスが異なるようだ。

共同通信

共同通信、上川氏、選挙演説うまずして報道は、次の記事に詳しい。マルインフォメーションだと指摘されている。
上川外相の「生まず」発言でマスコミによる「マルインフォメーション」フェイクが、危険ラインを飛び超えた

ニュースアグリゲーター

コミュニティノートが付く割合は各新聞社や通信社よりニュース・アグリゲーターのほうが多い。今回は二大ニュースアグリゲーターの Yahoo!ニュース(@YahooNewsTopics) とライブドアニュース( @livedoornews) を取り上げる。
Yahoo!ニュースは19件、livedoornewsは29件コミュニティノートが付いていた。新聞社・通信社よりだいぶ多い。ニュース・アグリゲーターのほうがView数もRT数も多く、多数の読者の目に触れるということもあるのかもしれない。多すぎるのでそれぞれ10件ずつ取り上げる。

Yahoo!ニュース

【首相らの給与増法案、衆院で可決】は、本当は、国家公務員(裁判官や自衛隊員や国会議員)の給与を上げる法案 でミスリーディングであると言える。わざと首相を持ってくることで政治家(特に与党議員)があたかも私腹を肥やしている印象を与えられる。これも技法の一つである。

ライブドアニュース

コミュニティノートが付いた投稿の類型化

上記で各報道機関やニュースアグリゲーターにどのようなコミュニティノートが付いたか見てきた。いくつか類型化できると思うので、類型化してみる(試みにやっている。きちんとした類型化ではない)。

  • シンプルに誤報

  • 分かりづらいグラフ

  • 見出しに割合に対して量の記述がない。

  • 軽微なミスと重大なミスの件数を混ぜる。

  • 一団体や一企業のアンケート結果を全体の割合のように表現する。

  • 何年も前のニュースを今のニュースのように表現する。

  • 国家公務員・自衛隊・国会議員の給与増法案を首相の給与増法案と言った特定の悪役にし易いターゲットのみメリットが有るような記述をする。

  • 紅生姜じか箸より大麻取締法の方が重いのにその情報は記述せず、紅生姜じか箸で重い刑が課せられたように表現する。重要な背景情報を書かない。

  • 論文に書いていないことを付け加える

  • 他社報道は報道していないと報じる

などが挙げられる。もっとコミュニティノートが付けば、もう少しきちんとした類型化ができるのではないかと思う。

ファクトチェック団体はマスコミを対象にしない。

ファクトチェック団体の日本ファクチェックセンターは、次のように書く。

>Q3-1.ファクトチェックの対象から既存のメディアを原則として除外するのはなぜですか?
> 1. 報道機関は、報道倫理に基づく訂正の仕組みを有しており、その報道倫理と仕組みに基づき自主的に訂正を行うべきであることから、まずはその仕組みに委ねること。

https://www.factcheckcenter.jp/faq/

それでは、上記のようなコミュニティノートが付く事態はどの様に考えたらよいのだろうか?実際に訂正の仕組みは機能しているのだろうか?報道機関のニュースは、SNS上の個人の投稿と異なり意思決定層が意思決定のために使う。その意思決定の素材に誤りがあれば多くの国民に害が及ぶことになる。ファクトチェック団体は意思決定者が誤った判断を行う害を理解していないのではないか?

報道内容の第三者アーカイバーとマスコミ報道検索システムが必要(それは記事検証の助けになるはず)

マスコミは公文書が保存されない公文書の危機は叫ぶのにマスコミ報道の保存がされないことに危機を表明しない。マスコミはマスコミ報道のアーカイブ化を進めろとは言わない。私たちに必要なのは報道内容の第三者アーカイバと検索システムではないか?

森友、加計、桜で露呈した公文書クライシス、民主主義は崩壊するのか というダイヤモンド社の記事では毎日新聞社の公文書危機という書籍を引いている。

公文書管理法は第1条で「公文書は健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者である国民が主体的に利用しうるもの」と定めている。つまり、公文書は民主主義制度にとって欠かせないもので、国民のためにあるということだ。しかし、政府で働く人々にこうした意識があるようにはみえない。  ~本書「あとがき」より”

https://diamond.jp/articles/-/243719

この内容は以下にように変えられる。
「マスコミ報道は健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として、主権者である国民が主体的に利用しうるもの」と定めている。つまり、マスコミ報道は民主主義制度にとって欠かせないもので、国民のためにあるということだ。しかしマスコミで働く人々にこのような意識があるようには見えない。

言うまでもなくマスコミ報道は民主主義にとって大切なものだ。最初に書いたが、マスコミ報道がSNS上のフェイクニュースと大きく違うのは、それらが最高意思決定者が利用するということだ。その内容に誤りがあることは、民主主義にとって危機になり得る。
公文書が民主主義にとって大事なもので主権者である国民が主体的に利用すべきようにマスコミ報道も主権者である国民が主体的に利用すべきである。

そのためには公文書と同じ様にマスコミ報道が第三者によって保存されること。そして過去に何を書いたか?どの様にミスリードしたかという検索が安価で容易なことが大事だ(図書館にある新聞社の縮刷版では検索性に劣る)。
毎日新聞は、<放送アーカイブ構想>「文化的資産」に政治色が見え隠れで放送アーカイブに難色を示している。しかしコミュニティノートが示すように報道も完璧ではない。そのため後世に彼らが何を言ったか?どのような誤解を招く表現があったかを市民が手軽に安価に知るすべが必要である。

ここまでのまとめ

マスコミのツイートに付いたコミュニティノートをまとめた。そのコミュニティノートをもとにマスコミ報道にどのようなミスリーディングな記述が多いかを確認した。
上記でまとめたように、シンプルに誤報と言えるものから、重大なミスと軽微なミスを混ぜて件数を報道する、別の重い罪状を書かずに見出しを書くなど多様なミスリーディングがあることが分かった。
マスコミ報道はSNS上の書き込みと違い政治家や企業幹部など国民に大きな影響を与える意思決定者の意思決定の素材になる。そのマスコミ報道がミスリーディングを誘うものであれば国益を損なう。
ファクトチェック団体はマスコミ報道を対象にしないが、現実に与える影響で言えば、SNS上のフェイクニュースよりマスコミ報道の方が影響は大きい。
誤解を産むマスコミ報道をまとめた一覧サイトなどはない。過去のマスコミ報道を一括で検索できるような第三者アーカイバーや一括検索システムが必要ではないか。再度書くがマスコミのミスリードを誘う報道のほうがSNS上の書き込みより国民生活に対する影響は大きい。
まずそのようなミスリードを誘う報道をまとめる第三者アーカイブ組織が必要なのではないか?

データ参照元

コミュニティノートのデータは、コミュニティノートの透明性を高めるため、すべての情報が公開されている。紹介サイトは https://communitynotes.x.com/guide/en/under-the-hood/download-data になる。
こちらのサイトで取れる情報は、
- ノートの本体
- ノートの現在ステータス
- ノートの評価
- ノート執筆者情報
になる。
コミュニティノートの評価とはノートをXのポストに表示するには一定の評価がなければ公開されないためそのためのノートに対する評価情報になっている。

今回の調査のデータ集計・分析方法(ここからは有料)

ここからテクニカルな内容なので有料記事とします。データを色々見てみるマガジンhttps://note.com/shioshio38/m/m87dd663d1beb に登録すれば見ることが出来ます。過去記事も読めるのでお得です。

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