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政治家が倒れても国は回る。医者が倒れたら回らない。

片頭痛の薬をもらうためだけに行っている近所の内科の診療所だが、昨日も二か月ぶりに訪れて、思わず
「お疲れっすね……」
といつも私を診てくれる担当医の先生に言いたくなった。診療所なので2~3人の医師が常駐しているのだがこの先生と私は、歳も近く親しい。

初めてコロナの話をしたのは今年の3月ころで、
「今ヘンな風邪が流行り始めたから気を付けてね。うちにもちらほら来るようになったよ」
と聞いていた。まだコロナウィルスの情報も浅く、『人を死に至らしめる怖い病気』のイメージが先行していた私は、
「先生、殉職しないでくださいね」
と伝えたところ、
「殉職ね、まあそれも、この職業を選んだ限りしかたないですよははは!」
とノリかるっ…!と思わせられ、医師という職業選択の覚悟を見た。

それ以後もだいたい2か月に一回片頭痛の薬をもらいにいっているが、5月には先生に疲労の色が見えており、いつもの軽快なしゃべり口調は一気にトーンダウンしている。その先生は、上層部の何か(それが政府なのか、メディアによく出る日本医師会的な組織なのか、縦割り行政のシステム自体になのかはわからなかった…)にものすごくご立腹しており、白でも黒でもなくグレーな患者を預かる現場の最前線にいる先生の苦悩がにじみでていた。ひとつ例を挙げると、医師が近所の総合病院に電話しても「保健所に電話してください」と言われ、保健所に電話したら「近所の総合病院に電話してください」と言われ、もう一度総合病院に電話したらなんとか引き受けてくれた…といった具合に、血痰の出ているような危ういコロナ患者にもこういった対応に辟易しているらしい。
「一番黒いのは上層部だよ」
とぽろっと私にこぼす。

常備薬をもらうだけの私はそれから電話診療になり、4か月ほどして再び対面診療のためこの病院を訪れた。
行った瞬間ガーーーっと先生が今の仕事状況にマシンガントークで愚痴り始めたので、話す間もなかった。
「ええ」「はあ」「そうですかぁ」
と相づちを打ちながらただ私は聞く。最後に先生は「もう知らん!」と「何か」に向かって言っており、これは相当たまってるなぁ、と観察する。これも同世代の常連患者として気を許せるからこそ、言っていることなんだろうなとしゃべり続ける先生をひたすら眺めていた。

しわ寄せという言葉がある。しわ寄せがいくのはどんな仕事でもやはり現場マンなのだ。上層部は現場を知らない。GO TOトラベルにらんらんらんとお花畑が咲いているように「手ごたえあり!」と言う政治家はこうした現場マンの声を聴いている……わけがない。医療従事者が倒れたら誰が私たちを救うのだ?政治家が倒れても国は回るだろうが、医療従事者が倒れたら回らないぞ。

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