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『エイティシックス』ファンにお薦めしたい戦争映画・小説6選

 こんにちは。しおりと申します。
 2022年2月に発売された『エイティシックス』11巻を読み、同じエイティシックス読者のみなさまにお勧めしたい映画や小説がさらに増えたので、この記事を書きました。

 なお、便宜上タイトルに『エイティシックス』とつけましたが、あらすじ以上の作品のネタバレはしていないので、『エイティシックス』の原作小説を読んでいなくても、アニメを視聴されていなくても、単なる戦争映画・小説紹介としてお読みいただけます。

 『エイティシックス』は1巻のあとがきにも述べられているように、第二次世界大戦中のヨーロッパの対立構造を想起させる作品です。具体的には舞台となるサン・マグノリア共和国がナチス政権下のドイツのようにユダヤ人を不当に弾圧し強制収容した人種差別政策(ホロコースト)と南アフリカで行われていた人種隔離政策(アパルトヘイト)を足して割らない感じで86区に有色人種を押し込み強制的に戦わせる構造になっています。

 アパルトヘイトについては不勉強であいにくお勧めできる作品を私が観ていない(調べたところ『遠い夜明け』が気になるので追って観たいと思います)ので、主にホロコーストを取り上げます。

 作品を選ぶ際には、以下のことに気をつけました。
●作中の展開に近いと思われる歴史的事件を元にした作品
・ホロコースト(第二次世界大戦中のドイツによるユダヤ人大量虐殺)
・ベトナム戦争(冷戦期にベトナムで起きた米ソの代理戦争)
●書籍より映画優先
●戦争描写がライトな順で紹介(ライトかどうかは個人的見解です)
●紹介の際に『エイティシックス』の登場人物名は上げるが、作品自体のネタバレは避ける

 また、どの戦争を題材にした作品であるかを説明するため、作品の途中までのあらすじは説明しますが、結末のネタバレにならないように気をつけました。(気をつけたつもりです)

 古い作品が多いのでAmazonプライムなどのサブスクでは観られそうにありませんが、有名な作品ばかりなので大きめの図書館なら書籍やDVDの貸し出しがあると思います。

【1】映画『サウンド・オブ・ミュージック』

 ミュージカル映画の名作で修道女と心を閉ざした家庭教師先の子供たちとの交流、子供達の父親であるトラップ大佐との身分差、歳の差ラブストーリー……と思いきや、ほぼ実話で第二次世界大戦期にオーストリアの元軍人一家が同盟国のドイツナチス政権に批判的だったせいで国外逃亡を余儀なくされる話でもあります。
 誰もが耳にしたことのあるドレミの歌、エーデルワイスなど有名な曲がたくさん出てきますし、世界名作劇場では『トラップ一家物語』というタイトルでアニメ化されたことでも知られています。

【2】映画『グッドモーニング, ベトナム』


 ベトナム戦争中にサイゴンに駐在した実在のアメリカ人DJが主人公のコメディあり、ヒューマンドラマありの戦争映画。
 私の大好きな俳優にしてコメディアン、ロビン・ウィリアムスが主演。
 「グッ〜〜ドモ〜ニング!ベットナ〜ム!!」から始まるハイテンションなマシンガントークのラジオ放送はロビンの真骨頂。一度聞いたら忘れられなくなる作品です。

【超簡単なベトナム戦争の説明】
 第二次世界大戦後の世界はアメリカを中心とした資本主義国家とソ連を中心とした共産主義国家の二極化(冷戦)が進みました。2回の世界大戦の反省を踏まえて、直接大国同士が戦争をしない代わりに、両国から離れた国での内紛に資金・軍事提供を行い、その国で起こった内戦で勢力争いをを行う『代理戦争』が各地で起きました。
 東南アジアのベトナムでは国内で二つの勢力が対立し内戦状態(ベトナム戦争)に発展しました。アメリカは『困っているベトナムの資本主義勢力を救う』という大義名分の元でベトナムにアメリカ軍を派遣しました。


 そんなベトナム戦争に従軍しているアメリカ軍軍人の戦意高揚の一環で当時アメリカで人気ラジオDJをしていた本作の主人公がベトナムに派遣されます。主人公はお上から渡されたニュース記事を面白おかしく改変して喋り倒しつつ、現地のベトナム人との交流を楽しむのですが……といったお話です。
 ベトナム戦争で戦地となったベトナムはアメリカ軍が開発した最新兵器である枯葉剤(人体に有害な強力な除草剤)やナパーム弾(油が入っていて着弾すると周囲を燃やす)、パイナップル爆弾(爆弾の中に大量の鋼球が詰まったパイナップル型の)など化学兵器の試験場としても『活用』されました。
 個人的には『フォレスト・ガンプ/一期一会』と併せて視聴していただくとベトナム戦争前後のアメリカの世論や状況も分かりやすくなると思います。

【3】映画『ライフ・イズ・ビューティフル』

 冒頭は陽気な青年が真面目な女性に恋をして、かわいい息子生まれるラブストーリー。しかし、舞台が戦間期のイタリアだったことで幸せな一家は『父親がユダヤ人である』というだけの理由で引き裂かれていきます。強制収容所に向かう劣悪な環境の中でも、息子を怖がらせない為にお調子者の父親はずっと陽気で明るい『嘘』を命がけでつき続けます。
 語り手である息子グイドは、状況や展開は異なりますが、立場的にはアンジュに近いと思いました。

【4】小説『あのころは、フリードリヒがいた』

 児童書ですが、子供向けだからこそ自分でも何をしているか分からないうちに戦争に巻き込まれ、いつの間にか加害者になっていく過程が恐ろしい、ホロコースト(第二次世界大戦中のユダヤ人虐殺)に関する名著です。

 戦間期(第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の期間)のドイツで暮らす僕には同じアパートに住んでいる友達、フリードリヒがいる。家族ぐるみで親しくしていたけれど、成長するにつれて段々と生活習慣や文化、宗教が違うことがわかってきた。
 僕はドイツ人で、フリードリヒはユダヤ人だったから……

 主人公は『エイティシックス』の立ち位置で見るとアネットが一番近いです。
 第一次世界大戦で敗戦国となり、天文学的な賠償金とハイパーインフレに喘ぐドイツ国民がナチス政権に傾倒していき、ユダヤ人迫害に突き進んでいく過程が子どもの目線で描写されており、ドイツ人の僕から見たユダヤ人家庭、宗教行事なども自然と知ることができます。巻末の淡々と事実だけが時系列で列挙されている年表だけでも読む価値があります。
 中学の課題図書で初めて読んだと記憶していますが、いまだに忘れられない一冊です。

【5】映画・小説『西部戦線異常なし』


 小説一巻でシンが読んでる本の作者(基地で飼っていた黒猫の名前を、その時読んでいる本の作者名で呼ぶので分かる)であるレマルクの代表作です。原作小説も日本語訳されていますが、映画の方がイメージがしやすいと思います。

 第一次世界大戦中のドイツで学生だった主人公は担当教師に勧められ、なんとなく学友と一緒に志願兵となり、西部戦線(当時ドイツはロシアとフランスに挟み撃ちにされ東西二方面に戦線があり、その対フランス側の戦線)の前線に配置されます。一兵卒から見た前線までの道のり、兵站や武器の使い方といったミクロな戦争の様子が淡々と表現されており、だからこそ戦争の悲惨さや残酷さが伝わってくる作品です。
 主人公の名前はレマルクの本名のミドルネームと同じで、レマルク自身も西部戦線に従軍して負傷しており自伝的小説と言えます。この作品が反戦小説として大ベストセラーになった後に第二次世界大戦が始まるのですが、ナチス政権には焚書扱いにされます。レマルク自身もユダヤ人であるなどのデマを流され、身の危険を感じて最終的にアメリカに亡命します。ドイツに残っていた妹は罪を被って処刑されました。

 一巻でレマルクの名前を目にした時、その人がどんな人でどんな内容の作品かが分かっていると思わずニヤリとしてしまいますし、そんな作品を人種差別を受け強制収容所から全滅必至の戦線に立たされている状況のシンに読ませる安里先生……!!と思うのも、『エイティシックス』の楽しみ方の一つです。

【6】書籍『夜と霧ーードイツ強制収容所の体験記録ーー』

 原題は「強制収容所における一心理学者の体験」で、ユダヤ人心理学者がアウシュビッツ強制収容所を生き延びた実体験を元に書いた本です。祖国に差別され身の危険を感じつつ生活し、ついに強制収容所に送られる過程から移動中の様子、収容後の生活だけでなく、収容された人々の心理状態の変化や発言を具体例を挙げながら『心理学者』の目線で冷静に、かつ滲み出る作者の人間的な優しさで綴っています。

 内容自体が重いこと、一文一文が深くて重要で美しい言葉で紡がれている為、私自身も読み切るまで時間がかかりました。

 ですが、エイティシックスのキャラクター達の心理や強制収容所の中の現実を知る上ではやはりこの本の内容を知ってほしい。特に11巻を読んでそう思い、お勧めさせていただきます。

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【終わりに 〜この記事を書いた理由〜】

  『エイティシックス』11巻を読んで、あらすじや試し読みから今まで以上に過酷な戦局、心身共に厳しい作戦になることは覚悟していましたが、想像を軽く超えてきました。
 夢中でページをめくっていてはいても、脳裏をよぎるのは作中の戦闘シーンではなく、それを想像する元となる今まで私が観てきた現代戦争に関連した映画作品たちでした。
「あの兵器はあの作品で使われていたな…」
「このシーンはきっとあの本やそれに近い史料を参考にしたんだろうな…」
 そんなことばかり考えてしまって、中々作品自体に集中できませんでした。待ちに待った最新巻なのにもったいない! ので、この記事を書き終わったらもう一度読み返してきます。

 読み終わってまず最初に考えたことは、
「この作品はライトノベルで、書かれた惨状はフィクション。でも、実際に起こった事実を元にした描写ばかりだ」

ということです。

 きっと私の知らない戦争の話も混ざってる。参考文献が見たいとも思いました。

 これはもう完全に自分のエゴなのですが、11巻まで読み進めてきた読者の方々、アニメを観て気になってこの記事を読みに来てくれた方々には、どうかこの作品の悲惨な戦場を、ただのフィクションだと思わないでほしい……

 そして、『エンタメとして消費して終わり』にして欲しくない。
 そう思って、この記事を書き始めました。
  おりしも冬季オリンピックが開かれる中、ロシアがウクライナに圧力をかけていた頃だったので、よりそう感じたのかもしれません。
 作品をピックアップし終えて各あらすじをまとめ始めた頃、ロシアのウクライナ侵攻が始まり、フィクションとして書かれた作中の出来事と同じような状況が実際に起こり、連日ニュース記事や映像が流れるようになりました。

 こんな記事読まなくても、現実に起こっることだって、分かるじゃないか。

 そう思って書きかけのこの記事を書くのもやめてしまいましたし、一度は下書きを全削除しようと思いました。

 ですが、フィクションであるラノベと今の世界情勢が繋がっていると指摘することも、少しは意味のあることなんじゃないかなと思い直し、気合いを入れ直してまとめました。


 私は大学で西洋史を学びましたが専門は中・近世史で、現代史関係の作品は単に趣味で摂取していただけの、ただの歴史オタク、映画好き、本好きでしかありません。
 もっと詳しい方やご専門の方なら薦める作品も違えば、詳しい解説もできるでしょう。
 ですので、高校の授業で学んだ世界史から、もう少し詳しく知ろうと思った時の入門的な作品群として考えていただければと思います。
 最後までお読みいただきありがとうございました。


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