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ふたりの神様

 神様のもとには、毎日たくさんの願いが運ばれます。
恋が実りますように、お金持ちになりますように、はやく病気が治りますように。

 人間からの願いがどんどん増えて来て、神様はすっかり疲れていました。
「そうだ、特にたくさんある”お金”と”愛”の願いは、子どもたちにまかせよう」
 神様には美しいふたりの子どもがいましたが、ふたりはまだ人間の願いを叶える力を持っていませんでした。

 「お父さまが、わたしたちに力をくださるらしい」
 ふたりは喜びました。はやく人間の願いを叶えてみたかったのです。
「ひとりには、お金の力を授ける。この力は人間にとってもとても強いもの。決して、使う力が多すぎても少なすぎてもいけないよ。
 もうひとりには、愛の力を授ける。この力のまた、迷える人間にとってものすごく強いものだ。よく考えて使いなさい」
 そう言って、神様はふたりに力を与えました。

 早速、ふたりは力を使いました。人間たちはすごく喜んで、神様に感謝したり、食べ物を供えたりしました。だんだん、ふたりは競争するようになりました。
「お金の力は、人間に自信も与える。この力は素晴らしい」
「愛の力は、人間に幸福感を与える。この力こそ素晴らしい」


 そんなとき、まったく時を同じくして、ある貧乏なふたつの国の王様がそれぞれ神様に祈りました。
「どうか、わたしの国を助けてください」
 ふたりはすぐに、自分の力で助けようと考えました。ところが、力は一度にひとつの願いに対してしか使えません。同時には叶えられないのです。
そこで、ふたりはお互いの力でそれぞれの国を助け、その結果で勝負しようと思いました。

「わたしはお金の力を司る神だ。おまえの国を、わたしの力で豊かにしてやろう」
 そう言って、お金の力を与えられた子どもは、必要以上にその力を使いました。その国は瞬く間に豊かになり、誰もお金に困らなくなりました。王様とその国の人々は泣いて神様に感謝しました。

「わたしは愛の力を司る神だ。おまえの国を、わたしの力で素晴らしいものにしてやろう」
 そう言って、愛の力を与えられた子どもは、必要以上にその力を使いました。その国は瞬く間に愛に溢れ、人々はこれまでにない幸福に包まれました。王様とその国の人々は泣いて神様に感謝しました。

 神様のふたりの子どもは、とても得意になっていました。
「見たか、わたしの力を」

 ところが、しばらくしてお金の力で豊かになった国では戦争が始まりました。お金が有り余っているにも関わらず、人間はもっともっとお金を欲しいと思ったのです。そこで、お金の力を得た子どもは、さらにその力を使って国を助けようとしました。しかし、使えば使うほど、人々は争いを拡げていきました。

 一方、愛の力で幸せになった国では、誰も働かなくなりさらに貧しくなっていきました。人々は、誰かを愛したり愛されたりすることに忙しくて、他のことが何もできなくなってしまったのです。国民をいままで以上に深く愛していた王様はとても悲しみました。

 ふたりはそうなって初めて、自分たちが神様の言いつけを破ったことに気づきました。自分たちの力を過信して、使い方を間違えたのです。ふたりは神様のところへ行って心から謝り、ふたつの国を助けてほしいと頼みました。

 「お金の力も、愛の力も、どちらも尊くどちらが素晴らしいということはない。ふたりとも人間にとって等しく必要な神なのだ。そのことがわかれば、自分たちで助けられるはずだ」
 そう神様は言って、ふたりに託しました。

 ふたりは力を併せて、それぞれの国を助けることにしました。

 ふたりは初めて、願った人間が本当に得たいものは何かを考えました。すると、それはお金の力でも愛の力でもなかったのです。神様の力を得なくても、人間たちはすでにその力を持っていて、それに気づいていないだけでした。そこでふたりは、両方の力を使ったふりをしました。

 しばらくして、ふたつの国は春の芽吹きのようにゆっくりと少しずつ豊かになり、人々は愛に包まれ、幸せになりました。

 ふたりはそれを見て気づきました。そもそも、ふたりには力など与えられていなかったことを。そして、その力は人間こそが持っていて、それに気づかせることが自分たちの役割であることを。それはとても難しいことでしたが、ふたりはそれ以来、力をあわせて、人々の願いを聞くようになりました。


2020.6.28   shiori

 

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