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要約 『チャイルド・アートの発達心理学 子どもの絵のへんてこさには意味がある』 著者 鈴木 忠

●ベストフレーズ

無視するにはあまりにもへんてこ

●はじめに

本日の一冊は、教育学者の鈴木忠さんの『チャイルド・アートの発達心理学』です。
 
本書を一言でいうと、どうして子どもの絵はへんてこで魅力的なのかを発達心理学から分析した本です。

幼児が描く頭や足は過剰に、あるいは不足して描かれています。これは大人には失われてしまった、子どもなりの写実性である、と本書は言います。この写実性は、視覚ではなく、幼児が認知した対象の知識を忠実に描画した結果だからです。つまり、子どもの描く絵には、子どもが対象をどう認知しているのかがそのまま表れているのです。

本書を読めば、子どもの一見自由な表現の中にある知的写実性と、発達との関係が分かります。

●本文要約

1.子どもの絵がへんてこで魅力的なのは何故か?

大人がその瞬間の視覚情報で絵を描く視覚的写実性の描画原理を使うのに対して、子どもは時間の経過や複数の視点、自分の知識や他の感覚をも絵に描いています。これを知的写実性といいますが、子どもはこの知的写実性を駆使して描くため、独特でダイナミックな絵になるのです。

6人の幼児の絵に対し、大人が受ける印象について調査した実験では、子どもの年齢が上がるほど、大人の感じる印象からも、個性的でダイナミックな印象が失われていくことがわかりました。また、頭と足の画に、子どもが胴体をつけ足して描く実験では、大人には顔に見える部分に小さく胴体が付け足されました。また、見えないものを描く実験では、子どもは見えないはずのものやパーツを頻繁に描くことが分かりました。これらの描画実験から子どもは大人とは違う描画原理で絵を描いていることが分かります。

また、子どもの絵はキュビスムに似ていると言われています。キュビズムは、視点を移動させ、複数の視点から得られる対象の見え方を統合することで、「目の前の対象はどのようなものであるか」というリアリティ(写実性)を表現しようとしていますが、子どもの絵も知的写実性の原理で描かれるキュビズムに近い「普遍的なアート」だと言います。

2.6人の子どもたちの絵

発達が進んだ後半の絵は、全体にバランスがとれ安心して見ていられる安定感がある一方で、子ども独特の魅力やインパクトが小さくなり、一種の物足りなさが感じられるのではないか。つまり子どもの絵には、じょうずになるというのとは別の軸ーそれも年齢とともに低下する軸ーーがあるのではないか。 33ページより

絵の発達を6名の幼児の実例に沿って、「獲得と喪失」と「個人内多様性」という観点で見ていきます。あきちゃんの4歳から6歳にかけての例では頭足画から胴体のある絵へ上達する一方、力強さ等が喪失しています。また、すすむくんの例では、4歳の時は描いていく内に付け足す描き方だったのが、6歳の時には前もってプランニングしてから描き始めています。ひろしくんの例では3歳8ヶ月から4歳まで絵の様子にわずかな変化があったのみでしたが、5歳7ヶ月では様々なポーズや動きの絵を描くようになっています。ここから幼児期を通じて個人内多様性が見られても4歳と6歳ではその中身が違うこと、同じものを異なる姿勢で描くことに関しては6歳にかけて大きく発達することが分かります。

3.絵がじょうずになった時失うもの

幼児期の絵の発達変化には、じょうずでかわいらしい印象をもつことに代表される「獲得」の側面がある一方で、個性的でダイナミックな側面がだんだんと小さくなる「喪失」の側面があることが明らかになった。 40ページより

6人の絵が、上達する一方で子ども独特の自由奔放さが薄れて大人しい絵になるように感じる現象を客観的に調べるため、それぞれの絵の印象を多数の大人(大学生)に評定してもらいました。その評定を分析すると、

続きは以下リンクからお読みいただけます。(残り5300文字)

4.なぜ子どもは胴体を描かないのか
5.描画技術は環境の影響を受けるのか
6.目が二つある横顔の絵
7.子どもの絵とキュビスム
8.見えているのは「その瞬間」だけじゃない
9.子ども独自の思考プロセス
10.個人内多様性という選択のゆらぎ
11.ナディアが失ったもの

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