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コルセットの話。

こんにちは。シオネです。

今回はヒストリカルコスチュームとコルセットの関係についてのお話です。
日本人でもドレスの下のコルセットに憧れを持たれる方は多いかと思います。キューっと締め上げたウエストにしてみたいという憧れは「ドレスが好き」とおっしゃる方なら一度は抱くのでは?
今回はそんなコルセットとドレスの関係性が変わろうとしている今に迫ります。


ドレスとコルセット。

アトリエSHIONEにいらっしゃるゲストの方からドレスを着る際に「コルセットはしますか?」とお問い合わせ頂くことがあります。ドレス=コルセットを付けて着用するものというイメージが海外で制作する歴史ドラマを配信で見かけやすくなった影響からだいぶ広がったのかな?と思います。

まず最初に申し上げますと

ヒストリカルコスチュームを着用する上で、コルセットやそれに準ずる下着を着用することは本来必然です。

ここでいうところの「本来」というのは、その形が着用された当時コルセットなどの補正下着を着用してボディメイクすることは当たり前のことであり、その補正なくしてドレスを着用するということはあり得なかったからです。


1859年コルセットを付けた婦人

時代ごとに美しい体の形、理想とする形が存在し、それに近づける為に女性たちは様々な努力をしてきました。コルセットはその最も有名でもっとも長く女性を補正してきた下着でしょう。時代ごとにふさわしい形に近づけるという意味では、ドレスとコルセットは切っても切り離せない関係にあります。

議論される俳優たちのコルセット。

先日、こんな記事が話題となりました。

「NetflixやBBCなどは歴史ドラマにおいて俳優のコルセットを廃止する」

元記事はこちら

歴史ドラマなどの撮影時に着用するドレスの下のコルセットが現代を生きる俳優たちの体に深刻な健康被害を起こしかねない為、着用を廃止する方向だとのこと。

この記事に関しては海外のヒストリカルコスチュームの愛好者達や専門家から様々な意見が投げかけられました。その中で私が最も納得したのは

「俳優たちが着用するコルセットは個々の体型に完璧にフィットしたものではなく一定のサイズで制作されたものに身体を合わせて着用しなければならない。
もし俳優たちが自身の体にフィットするものを制作し着用できれば健康被害はさほど出ないはず。ただし、コルセットの制作費用は莫大」

これはイギリスの有名な研究家であるイザベラさんの意見です。
ヴィクトリア朝の時代だけでも様々な形のドレスがあり、それに合わせたコルセット(またはそれに準ずる下着)が着用されました。それをドラマの制作に沿って役者の体型に合わせて制作していくというのは、ドレスの製作費と同じくらいの費用がかかるのではないかと思います。コルセットはたくさんの形が市販化されていますが、正しい形の歴史に沿ったコルセットはなかなか存在せず、それを知識のあるところでオーダーとなると…俳優の数だけ用意するのはほぼ不可能なのではないかと。そしてちゃんと歴史考証を行いながら下着までオーダーメイドでいるプロのショップは世界中でも片手もないと思われます。
そしてなにより、ちゃんと時代考証して俳優にフィットするコルセットであったとしても長時間の撮影での着用は現代の人間に何らかの健康被害をもたらすでしょう。この記事は1830年〜のヴィクトリア朝の時代のドレスについて書かれていますが、ロココにはロココの、バロックにはバロックの形のコルセットがあり、それぞれが作り出すバスト、デコルテ、ウエストのラインは微妙に異なります。それを作り出してこそヒストリカルコスチュームだ!というのは当たり前の大前提ですが、それを職業として着用する俳優に強要することはできないという流れ、私は賛成です。

アトリエSHIONEとコルセット。

ヒストリカルコスチュームを歴史として体験頂くことをコンセプトとして活動しているアトリエSHIONEですが

アトリエSHIONEでは原則イベントでのゲストの皆様へのコルセットの着用は推奨しておりません。

理由としては

慣れないコルセットによる体調不良を防ぐため

これが大きな理由です。以前私が参加させていただいたパレードでコルセットを絞めた状態でドレスを着用して参加された方が体調不良で倒れられました。着用時間が長く慣ればなるほど、体調が悪くなる方は必ず出てきます。
「自分は大丈夫」と思っていても、普段は締め付けない部分を締め付け負荷がかかることは想像以上に負担になります。その日の気温や湿度、ご自身の体調などで不測の事態は起こります。

アトリエSHIONEのイベントは安全を第一に行います

次にこんな理由があります

日本人の骨格に西洋人のコルセットを絞めても必ずしも理想の体型にならない。

骨格の違いはダイエットや努力でどうにかなるものではなく、そもそもの違いです。特にデコルテ、バスト、首、肩などは決定的に作りが違います。
ではどうするか?

アトリエSHIONEではできる限り日本人の骨格を理想とする形に近づけるよう工夫を行っています。

一度当時のままに作った形から、どうやったらその形に日本人の骨格をはめることができるかを計算して、時にギミックを使いながら補正を入れてあります。

逆に言えばただ闇雲にコルセットを付けただけでは当時の欧米人の体型に近い形になれるわけでもありません

これは実際にヒストリカルコスチュームを研究して制作し、自身で着用してヴェルサイユ宮殿やヴェネツィアで着用したことのある汐音ならではの感覚だと思いますが(実際ドレス姿の方々がたくさんいるところに行ってみると欧米人との骨格の違いに愕然とします…)骨格が根本的に異なる者がドレスを着用することの違和感を極力減らすギミックが必要なのです。

コルセットはロマンです。

アトリエSHIONEでも18世紀〜いろいろな形のコルセットを制作し所有しています。市販品のものでそれっぽくコルセットを締め上げることは簡単ですが、それだけでは当時の形に近づけることはなかなか難しいのです。ましてや時代にあったコルセットをちゃんと見定める目がないと、歴史衣装を着る上では意味のない補正を行ってしまいます。

その難しさに挑戦することこそ、研究の意義だとは思うのです

日本人だから、骨格が違うから、欧米のヒストリカルコスチュームを着ることはできないと投げ出すのではなく、どんな骨格・体型の方でも当時の衣服の形を体験できるようにしたい。そこから歴史を直に感じてほしい。それがアトリエSHIONEのねがいです。

今後、アトリエSHIONEではコルセットのある・なしによるボディメイクの移り変わりをご紹介できるイベントを開催して実際に皆様にご覧いただこうと思っています。モデルには体調に無理がないよう細心の注意を払いながら実際のコルセットとその役割について体験いただければと思います。

必要なことだと知った上で、それがなくても成り立つようにする

先程の記事にもありましたが、時代の流れなのかな?と思います。

当時の人にとっての当たり前の形であるコルセットから、私たちは100年以上解き放たれて生きていますから。

必要性と安全
エンタメにおいては難しいけれど両立しなくてはならないことです。

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