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もう焼きとうもろこしなんて食べないなんて言わないよ絶対

高校生のとき、好きな人ができた。

相手は、ひと回り年上。
一目惚れだった。

初めて会った日に、たまたま近くにあった屋台の焼きとうもろこしを食べさせてくれたが、決して物で釣られたわけではない。

人前に立つ仕事をしていた"その人"は、舞台の上でキラキラしていた。
とにかく、キラキラしていたのだ。


私は週末のたびに、その人のところに通い詰めた。

学校との合間を縫ってバイトもしていたが、稼いだお金はほとんど全て、会いに行くための交通費やプレゼント代になった。

その人が大人だから私は化粧を覚えたし、ショートカットが好きだと言ったから髪を切った。

見返りなんてなくても、名前を呼んでくれるだけで、微笑んでくれるだけで充分だった。

当時は嫌で仕方がなかった学校も、バイトも、その人に会う日のことを考えたら頑張れた。

だけど。

ずっと頭では分かっていた。

報われない想いは、いつか終わりにしなきゃいけないのだと。


会いに通い続けて1年が経ったとき、別れは突然にやってきた。奇しくも、私が高校を辞めるのと同じタイミングで。

なんだか「このままじゃダメだ」と言われているような気がした。
目の前の高校生としての限りある時間をどう生きるべきなのか、考えるときなのだ、と。

だから、とても不本意で後味の悪い別れを、私は受け入れた。

その人の名前を聞くと、知らないふりをするようになった。

もうこれ以上誰かを好きになることなんて、できないんじゃないか。そう思っていた。


その後、私は別の学校に転校した。

新しい環境での高校生活は、毎日が充実していた。

人並みの青春を送り、いつしか"あの人"の記憶が上書きされるくらい、他の人を好きになれた。


そうして数年が経ったとき、風のうわさであの人が結婚したことを知った。

相手は私も知っている人だった。
その女性を思い浮かべて、「髪、長いんかい」とひとり突っ込んだ。

そのとき、心の奥底にあったかさぶたが、綺麗に剥がれて消えたような気がした。


これからも、もう二度とあの人に会うことはないだろう。

もしその機会がやってきても、私は知らないふりをする。

でも、

学校もバイトもつらくてどうしようもなかったときに「逃げ場」をくれたこと。

というか勝手にそうしていただけなんだけど、心の拠り所にしようとする私を優しく迎え入れてくれたこと、本当に感謝している。

あんなに誰かを好きになったのは人生で初めてで、悲しんだり落ち込んだりしたのと同じくらい、幸せで楽しくて、濃厚な時間だった。


だから私、もう恋なんてしないなんて言わないよ絶対。

今度、焼きとうもろこしの屋台を見かけたら、久しぶりに食べてみようと思う。

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