私の彼氏

 ごめんなさい。皆さんに今まで隠していたことがあります。実は私、彼氏がいるんです。今日は少しだけ、惚気させてください。誰にも言えずに抱え込んで、少し辛く感じ始めていた頃なんです。なんというか、すごく幸せな悩みですね。

 私の彼氏はわりあい小柄で、普段はかっこいいのに、お腹を出して寝るところとかすごくかわいいんです。包み込むように抱きしめてもらうことはできないけれど、その代わり、猫のような可愛さに毎日癒されています。私は今体調が思わしくなく、不安障害とあいまって少し辛い日々が続いていますが、それでも彼の姿を見るだけで癒されが発生します。

 そんな彼のチャームポイントはなんと言っても足の速さです。ずっと中距離の選手をしていて、全国規模の大きな大会で何度も優勝しています。短距離よりはマシとはいえ、周りは大柄で筋肉質な選手も多い中で奮闘する姿は、愛おしさとともに勇気をもたらしてくれます。春から秋にかけての新人戦で三冠を達成してから伸び悩む時期もあり、側から見ていても苦しそうな時期もありました。でもそういう時って、当事者より応援する側の方が根拠のない不安に悩まされていたりするものらしいです。本人は不調でも諦めずに努力し、結果が出ない時でもその努力によってなんとか自分の精神を保っているように見えました。そして体力づくりと基礎練習を地道に繰り返した結果徐々に調子を取り戻し、学校最後の引退試合ではなんと優勝することができました。私は運よくそれを現地で、間近で見ることができました。嬉しくて涙が出たのを覚えています。

 でもおそらく、私たちの関係はもうすぐ終わりが来ます。なぜなら、私と彼は日本の法制度上結婚できないからです。しかも彼には、実家が決めた許嫁がいます。このご時世そんなことがあるのかと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、彼が社会人以降陸上を続けられないのも、彼の家庭の事情が関わっているらしいです。自由が制限されている中、必死で自分のやりたいことを全うした彼のことを、私は誇りに思っています。そして限りある中ではありましたが、そんな彼のことを最も近くで応援できた私自身の人生も、素晴らしいものだったなと感じずにはいられません。

 私の彼はもうすぐ「元彼」になります。惚気はここで供養して、私も次の相手を見つけるために自分磨きをしなくてはなりませんね。二人の幸せを願って、noteを締めさせていただきます。


  • この話はフィクションです。

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