オフェンスポジショニング 縦関係を作るということ

下記事の続編のような話。
まだ読まれていない方は先に是非。


「ポジショナルプレー」「5レーン理論」などからの影響も大きく、昨今では「相手の各守備ラインに対して攻撃側を何人ずつ配置することで数的優位を作る」という攻撃側ポジショニングの解釈と対応が当たり前になっている。

横関係で捉える視点

この既存の解釈だと忘れがちになってしまうのが”縦”の視点。
数的優位とは、横方向の人数差だけでなく、縦方向の人数差でも発生する。

縦関係で捉える視点(中央は攻撃側が数的不利)


本記事では「縦関係」で優位を作ることの重要性を書いていく。
(下記ツイートが要約みたいなもの。記事は5800字ぐらいあるので、時間がない人は記事を読まずにこれだけでおけ。)



守備側のラインとはその名の通りライン(線)で結ばれる関係になっている。
そのラインは横方向であり、主に横の関係性で連動する。

守備側のライン

そこに横関係の攻撃をぶつけると、横対横の正面衝突となる。

攻撃側の横ライン 対 守備側の横ライン

では横関係の守備に縦関係の攻撃をぶつけるとどうなるか。
局所的に優位ができることになる。

各所に縦関係を作ってみた例

ではその縦関係の攻撃に対して、守備側も横関係のラインを崩して縦に守ることはあるだろうか。
これがサッカーの不思議なところで、守備は縦では守らない。
もちろん一時的または局所的に縦になることはあるが、常にラインを縦にして守ることはない。
進ませたくない方向を通せんぼするとしら体を目一杯横に広げるだろうが、そこで体を縦にする人はいない、ということ。

とおせんぼ

自ゴール方向に進ませたくないDFラインは陣形を横に保ち、他の高さのラインもDFラインに合わせて横方向の関係性になり、オフサイドルールがその現象を助長し、フォーメーション表記が各高さの人数で表されるのもその認知に働きかけている。

守備側のラインを縦にすると、それはゴールへの高速道路を用意することになる。
いわゆる「ギャップが生まれる」。
また、各高さで数的優位を作られて、少しずつ剥がされて進まれることにもなる。

守備ラインの各所を縦にした極端な例
と 高速道路と数的優位

だから守備は基本的に縦では守らない。
そんな横で守っている相手に対して、広く包囲するのではなく、縦で局所突破する。
詳しくは無いけど、戦国時代の陣形とかで定石はありそう。

https://mfnf-s.tumblr.com/post/627247097246285824/夏休みの自由研究発表会②-ーーー-前回夏休みの自由研究発表会①-上田城-ーーー
の画像より

横で守りたい相手に対して縦で攻める。
攻撃側が縦関係で優位を作ることの重要性。

ただそれはピッチの広さとオフサイドルールがあってのものではないか、という疑問も生まれる。
ミニゲームのように狭いピッチで少人数だった場合はどうか。
まずは関係性が生まれる最小の2対2から考えてみる。

2対2(コートサイズは狭いと仮定)
図の説明

この人数だと守備側は横関係で守る意識は希薄になるだろう。
縦横の関係というよりも攻撃側の布陣に合わせていわゆるマンマーク的になるはず。
攻撃側にピッチを広く使われて長い距離を走り込まれて速度差が出てちぎられる、ようなことも起きづらいし、マンマークして守備同士が引き離されることもない距離感のため、マンマークしながらももう片方の守備を助けることができるから。
それでもDFラインのように横関係のゾーン的な守り方でも効果的には守れるが、2人しかいない攻撃側の動きを把握しながらプレーしていれば、やはりマンマーク寄りな意識の守備にはなるだろう。
ではそこで攻撃側が横になる場合と縦になる場合で考えてみる。

攻撃側が横関係でよく見る光景はこうか。

攻撃側が横関係

2対2の練習をやってもこういう配置になることが多いと思う。
ここに数的不均衡はなく、同数対同数で局所的なタイマン対決、といった感じになる。

では縦関係を作った場合はどうか。
思いっきり極端に縦になってみる。

攻撃側が縦関係

これもぱっと見は同数対同数で局所的なタイマン対決だが、切り取り方によっては数的優位ができている。

縦関係による数的優位

縦を下図のように作っても数的優位ができている。

縦関係による数的優位2 ボーラーの後ろにサポート

数的優位とはそれを活かせなければ意味がない。
では上記のような縦関係で作った数的優位には意味があるのだろうか?

縦並びでボールから隠れるような位置にサポート(この記事内ではサポートはボールを持っていない攻撃側選手またはその選手のポジショニングを指す)すると一見パスコースが無さそうに見えるが、実は横並びに比べて縦並びの攻撃の方が攻撃側の選択肢は多くなるのではないかと考えている。

攻撃側が横並びでボーラー(筆者は「ボールを持っている選手」のことをこう言ってる)の横にサポートする味方がいると、ボーラーは味方がいない方向へのドリブルがメインになるし、守備側も視野内にボーラーとサポートを収めやすい。
パスをしてもただ別の1対1になるだけでもある。

横並びの攻撃

それが縦並びになると、ボーラーはドリブルで左右どちらにも行けるし(サポートが合わせられる)、ワンツーなどでボーラーに付いていた守備を置き去りにする手段も得る。
守備側としてもボーラーについている方は後ろの攻撃側選手の動きを把握することが難しくなる。

縦並びの攻撃

守備がボーラーに2人でアタックする方法もあるが、そこからパスを出せたら確実にフリーなので一気にチャンスになる。
その方法は守備側のギャンブルでもあるし、攻撃側ボーラーの能力次第で生死が決まるとも言える。

縦関係における注意点はまさにそのボーラーの能力次第ということであり、相手守備との関係にもよるということでもある。
なんでも縦になっていれば良いってものではなく、例えば守備側がボーラーに密着した状態だと攻撃側は縦方向へのパスが難しくなりドリブルのコースも横方向に限定され、つまり守備側は1人で2人の攻撃側選手を抑えていることになり、攻撃側の優位は消える。

守備側がボーラーに密着している

こうなるとボーラーが守備側を剥がす能力を発揮するか、サポートが縦関係を限りなく保った上でボーラーがパス出来る位置まで近づく手段になる。
でもサポートが近づく手段をとるようであれば守備側ももちろん動くので、縦関係で作れる優位は一瞬だけで消えるかもしれない。

ドリブルで剥がすか、サポートが近づくか

縦関係の優位を活かせるスキルが求められる。
また、近寄るサポートに守備側がついていかず、守備が縦のままになるようなら、攻撃は横関係でも良い。
基本的には「横で守りたい相手に縦で攻めることが有効」という話なので、縦で守ってくるなら横で攻めた方が局所的な優位が作りやすい時は多い。

ちなみに。
「ボーラーは味方がいない方向へのドリブルがメインになる」と上のどこかに書いたし、ドリブルでは味方に近寄らないことは定石ではあるが、縦関係の優位を作れるのであれば話は別。
ドリブルで近寄ってくる味方に対してサポートがずれることでそうなることもできるし、横方向にパスを当てて落とすことでも同様の状態を作れる。

横関係から縦関係を作る例
①ドリブルでサポートの後ろに回り込んで作る
②ドリブルでサポート側に進んでサポートが縦になるように動く
③横のサポートにパスしてボーラーは後ろに回り込むように動く

通常のサッカーであれば、前方向に相手ラインを越えるようにドリブルで進んだ先に味方がいれば、それで縦関係の優位は作れている。
「ドリブルでは味方に近寄らない」という定石は味方のスペースを潰さないためのものであって、スペース以外の優位を作る際にはその定石を守らないことももちろんある。
どんな優位を作るか、が大事。


関係性の最小人数である2対2での状況はわかったので、少し人数を増やして4対4で発生する縦関係を見てみる。

4対4で一番よく見る形はダイヤ型(菱形)になっている状態だろうか。

ダイヤ型での縦関係

図のような縦関係が見られるが、2対2の時ほどこの状態を活かすのは簡単ではない。
なぜなら左右に位置する守備側が縦へのパスや横へのドリブルを妨害するし、縦関係にいるサポートの左右の動きには守備側の影響だけでなく他の攻撃側選手との連動も関係してくるから。

初期配置として、ボックス型(四角形)になることで縦関係を作ったりすることもできると思うし、縦になればいいだけなら極端に全員が縦に並ぶ方法もある。

ボックス型
極端に全員が縦

図で見てプレーを想像してみるとわかる通り、どんな初期配置を取ったとしても、「そこからどうするか」がなければ優位にはならない。
「縦関係における注意点はボーラーの能力次第」と前述したが、ボーラー以外の動きの意図とそのタイミングももちろん優位を活かすためには重要になる。
「縦関係の優位を活かす」とは、「前に進んだ先にプラスワン(数的優位)を作ること」で、それが出来るかどうかがポイントとなる。

では、もっともよく見るであろうダイヤ型からはどのように縦関係の優位を作って利用できるか、の例をいくつか考えてみる。

ダイヤ型からの縦関係の優位を作る例
①左の選手がボーラーの縦に入ることで優位を作り、ボーラーはパスの後に縦に走り抜けることで優位を継続
②左の選手が内側に入る動きと連動するように、ボーラーと前の選手が横にずれて縦関係と守備のズレを作る
③右の選手にパスを出すと同時に前の選手が横に動いて縦関係を作り、最初のパスを出した後ろの選手が縦に走ることで優位を継続
④右の選手がボーラーの背後に回って縦関係のプラスワンを作る

一つの図にまとめるとごちゃごちゃするが、それだけ方法はたくさんあるとも言えるし、それゆえこれをタイミングよく実行するにはお互いの認識が合っている必要はあるとも言える。
とはいえ、部分部分を見れば、前述の2対2の関係を作り出して利用しているとも言えるので、複雑そうに見えるがシンプルな理解で実行はできそう。

4対4でもこのように縦関係による優位は確認できるので、元々の問いかけである、
「横で守りたい相手に対して縦で攻める。
攻撃側が縦関係で優位を作ることの重要性。
ただそれはピッチの広さとオフサイドルールがあってのものではないか、という疑問も生まれる。
ミニゲームのように狭いピッチで少人数だった場合はどうか。」
に対しても
「少人数小スペースオフサイド無しであっても有効」
という答えになる。

また、その”スペース”について話すと、上記「ダイヤ型からの縦関係の優位を作る例」で分かる通り、最初からサイドに人がいると、当たり前だがサイド(または立ち位置の横)にスペースは生まれずらいため、サイドにスペースを作って使おうとするなら入れ替わるような動きなどが必要になる。
それがチーム全体が縦並びになるほど、サイドには最初からスペースが生まれ、そのスペースに守備側を振り切るようにサポートをすれば、ボールを受ける時の向きは悪くなる可能性は高いものの守備側を一瞬遅らせることができる。

極端に縦並びになってみた例
見られない状況のため守備側の挙動は予測しづらいが、サイドにスペースは出来やすいはず

縦の数的優位ができて、なおかつサイド(または立ち位置の横)にスペースが生まれやすい、となれば縦関係を作ることはやはり効果的。


11人制に戻る。
2対2と4対4で見てきた通り、局所的に縦関係の優位を作ることは11人制の中でも十分に可能であり、有効であると言える。
むしろ通常の11人制サッカーでは、広大なスペースと十分な人数がいるため、2人制や4人制のように「タイミングを合わせて動くことで優位を作って活かす」だけでなく、「あらかじめ優位を作っておいて活かす」ことも容易になる。

縦関係の優位をあらかじめ作っておける
(ウイングは縦関係を作っている味方の横のスペースを広げる役としても機能)
ボールがサイドにある時の例

これらの例を見ると、前編(でいいのか?)の内容である「近年では選手の距離感が近づいていく」との繋がりがわかる。前編↓

とはいえ、じゃあ縦関係は最近急に生まれたものか?と言うとそうではない。
例えば以前から有効だと言われていたアクションだと、「ダイアゴナルラン(斜めに走ること)」は縦関係を作ることになるし、「壁パス」は縦関係から生まれることが多いし、「運ぶ(前方にドリブルすること)」は守備ラインを超えた先で縦関係の数的優位を生み出すことが多いし、と既に縦関係を利用してはいた。
ただ、概念として意識して利用していたことはあまり無かったと思う。

この「縦関係」という概念を知ることが、それを利用する一歩になる。
本記事がサッカーの新たな見え方に役立てれば幸い。


ちなみに。
縦関係の捉え方がちょっとバグる状況がある。
それはサイドで守備側陣地深くまで行ったときの状況。
その位置では、攻撃方向がほぼ真横になり、守備側にとっての縦方向=前進されたくない方向が真横なので体の向きが当然そうなる。
でもだからと言って守備側がその向きに対して横ラインを作るかと言ったらそんなことはなく、オフサイドルールやゴール前という状況や、攻撃側が後ろにボールを戻した時の状況も考えて、その向きに対して縦ラインになるような守り方になる。
攻撃側としては、その向きにおける縦関係とは?になる。

サイド深くでの向き

筆者のアイデアとしては、攻撃側は上図の矢印方向を縦として縦関係を作ることで、シンプルに解決できるとは思っている。
ただオフサイドルールがあるので、サポートの動き出しのタイミングや方向、ボーラーのドリブルの方向には、他の場所とは違う制限がかかるが。
もちろんこれはどっちの向きを縦と捉えても、それぞれの良し悪しがあるし、そもそもウインガーの突破力があるならそういうの関係ないし、もっとそもそもで言えば縦関係=最強ではないし。
ただの「縦関係が捉えづらくなる状況」の話。


おまけ。
「縦関係の優位を活かす」とは、「前に進んだ先にプラスワン(数的優位)を作ること」
であり、その作り方の一つのアイデア。
知り合いのコーチに以前リプしたツイート。


以上。
ここまで読んでくれた人はいるのかな。


おわり

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