選手の日常を想像できないコーチたち
自身の経験を元にした「育成年代のコーチはこうなりがちじゃない?」という話。
自戒を込めて。
題名は「ケーキの切れない非行少年たち」の感じ。
コーチは気軽にこういうことを言うんだ。
「前回の練習でこれをやったよね」
「この前の試合はこうだったよね」
などと。
前回の経験を、今回の練習や試合で活かそうとするためにする話だね。
よく分かる。
けど、選手は覚えていないことが多い。
そしてそんな選手のプレーを見てコーチは言う。
「それやったじゃん!」
って。
でも改めて考えてみると「当然そうなるよね」と思う。
大前提として、選手はその競技だけをやって生きているわけではない。
プロだとしても。
ましてや学生なんて、学校行って、他の習い事やって、なんて当たり前で。
そこに家族友人などなどの人間関係がある。
その競技を優先的に考えていられるコーチとは違って、選手は他に考えなければならないことがたくさんあるんだ。
子供達の日常で想像してみてほしい。
例えば、月曜日に練習して、水曜日にも練習があるとする。
月曜日の家庭や学校でなにか引っかかることがあれば、その気持ちのまま、まずは月曜日の練習になる。
そして練習を終えて、そこからは家庭の時間がやってくるだろう。
お母さんに怒られたり、勉強宿題をやったり、兄弟と遊んだり、家族でテレビを見たり、友達とSNSやオンラインゲームで連絡取ったり。まあ家庭でもいろんなことをやっている。
そして寝て起きたら火曜日だ。
朝の登校に間に合うようにいろいろ準備して、学校では人間関係に気を使う。友達とのやりとりだけじゃなく、先生との駆け引き、好きな子への接し方、などなど大忙しだ。
そんな中で朝から5時間6時間の授業を受けて、新しいことをどんどん学んでいく。
学校が終わったときには楽しかったこともあるだろうし、心配なこともあるだろう。そんな感情を持ちながら、家でリフレッシュできる環境もあれば、休む間もなく他の習い事だったり、なんだったら家庭でよりストレスを感じる環境もあったり。
そして水曜日。
同じように学校に行き、いろんな出来事と感情を味わって、そしてその後に練習だ。
そしてそこでコーチに「月曜日の練習でこれやったじゃん?」と言われる。
こう考えると、けっこう無茶なこと言ってると思える。
それこそ週末だけ活動のクラブなんて、子供からしたら1週間前の出来事だから、まあそりゃ覚えてないよね。
だって間にこれだけの日常があるんだもん。
もちろんその競技の環境に身を置くことによって記憶を引き出すことで覚えている子もいる。
けど相当その競技に人生のリソースを割いてないとなかなかそうはならない。
コーチが思ってるほど選手は競技を中心に生きていない。
その競技の駆け引きより好きな子との駆け引きの方が脳内を占めていることだって珍しくもないでしょ。
そんな選手を甘いと思うか?
選手の情熱に甘えているコーチの方が甘いよね。
「覚えてなければ選手が悪い」なんて決めつけてるコーチの方が他責思考で何もやってない。
選手はその競技だけに情熱を注ぎたくても、そうは出来ない。
なぜなら人生あっての競技だから。
その選手の人生の大半を想像もせずに、ほんの一部分しか見ていないその競技に関わっている姿だけで、選手をわかった気になって選手に要求をする。
「選手の日常を想像できないコーチたち」だ。
「来週までにこれを出来るようにしてみて」なんて気軽に言う。
そんなに時間が無いんだよ。今の子は特に。
「もっと努力しないと試合には出れない」と言って罰を与えるように試合に出さない。
その選手が日常の限られた時間で努力していることを想像もしていない。
上手くなってないから努力してないと、目の前のことだけで決めつける。
「大事な試合だから君は出れないかもしれない」とか平気で言っちゃう。
子供のために朝からお弁当を作って笑顔で「いってらっしゃい」と送り出したお母さん、「どんなプレーするんだ?」なんて車の中で会話しながら送迎ついでに試合を見ているお父さん。そういう家庭の姿を想像していない。
大事な試合とは、誰にとって大事なんだ?
「選手の日常」つまり「コーチが実際に見ていない時間の選手の姿」を想像できない、または想像しようともしないと、コーチは悪気もなくここまで残酷なことをすることになる。無自覚に。
これは恥ずべきだ。
最近は「IDP(Individual Development Plan = 個人の育成プラン)」を作ろうという話をあちこちで聞く。
とあるところのIDPを見せてもらったことがあるが、プレーについて細かく設計されたりしていてすごいとは思う。
でも本当にそのプランは現実的なのだろうか?とこの記事を書きながら思った。
IDPを作るなら、学校や他の習い事で「今どんなことをやっているのか」「今後どういうことに取り組むのか」「何に時間をどれぐらい使うことになるのか」などなど、選手のこれからの日常を知らなければ、プランは絵に描いた餅のように感じる。
選手の日常を想像することは大事だ。
この記事をここまで読んでいただいたコーチの方には是非、自分が接している選手達の日常を想像してみてほしい。
きっと想像しきれない部分が出てくると思う。
そこで気付く。
我々コーチは思ったより選手のことを知らない、ということを。
普段から選手の話を聞いて、より詳細に選手の日常を想像できるようになろうじゃないか。
良い指導とは、練習内容がどうとかの前に、まずはそこが始まりなのかもしれない。
終わり
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