タンスの角に足の小指をぶつけても独り

物心がついて小学校に上がるまで、私のひとり遊びの相手には絵本があった。誰からおそわるでもなく、5歳でするすると音読していたというのだから昔は賢いちゃんだったのかもしれない。幼稚園に1年間しか通わなかったことも本好きに拍車をかけた。

ある日、何を思ったか「木の上で読もう」と思い立ち、当時住んでいた社宅の敷地にある木を目指した。(トム・ソーヤにでも憧れたか?)

添木に足をかけ…3手目に伸ばした太い枝が朽ちていて、地面に尾てい骨を強打した。瞬時、子ども心に「赤ちゃんを産めない身体になった」と思ったことを鮮明に覚えている。杞憂であった証拠に、私の足の親指と親指の間から3人もの人間が出てきた。ありがたいことだ。

本棚の前では、「アメリカのおはなし」「イギリスのおはなし」「スペインのおはなし」…15巻ほどあったケース入りの立派な本の背表紙を1巻から順に声に出して読む。詰まらず読めたら本文に移行するというこの謎のルールが「なめらかな音読」を育んだのだろうか。

油断ならなかったのは「チェコスロバキアのおはなし」チェコスロバキアその国名が変貌を遂げるとは思いも寄らない1980年代から1990年初頭のことだった。確か「ソビエトのおはなし」もあったな…。

今でも気になる文章があると繰り返し声に出して読む。めちゃくちゃ気に入った本は音読しながら家の中を歩き回る…。家にひとりでいる時限定だけども。タンスの角に足の小指をぶつけてもひとり…というわけだ。

最近では大好きな人にすすめられて読み返した一冊で音読癖が出た。  『月と六ペンス』/サマセット・モーム  

ネタばれになるから音読した箇所は書かないでおきましょ…。

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