Bad Things/20

【episodeリサ〈3〉テラコッタ】

 コバルトブルーの珊瑚礁から底知れぬ深海の闇へ。

 畏怖の念さえ抱いてしまう青釉のグラデーション。その青は私の手のなかに温もりとともにおさまっている。

 鼻をくすぐるのは『豆蔵』のコーヒーの香りだ。

 ナオに渡されたマグカップを手に、私は「よろしくお願いします」と直人おじさんに笑いかけた。向かいに座った彼の手にも同じ青のマグカップがある。

 手に馴染む丸みも、わずかにのぞく素地の肌感も、何度見ても美しい。

 私の持つカップも、直人おじさんが口をつけているそのカップも、教授の部屋にあるものとは別物。同じように見えて表情はひとつひとつ違う。

 私は、教授への未練を引きずっていたのだろうか。直人おじさんに惹かれていたわけではなかったのだろうか。

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