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鳥について

#短文 #鳥

鳥について

 部屋に鳥がいる。

 巣箱を模して五角形に曲げられたワイヤーの屋根部分には丸い輪があり、そこに紐を通して天井から吊り下げられ、ワイヤーとビーズで作られた鳥が重たげな体でとまっている。

 ビーズは透明な赤、青、緑、黄の四色。ワイヤーをぐるぐる巻きにしたトンボの眼鏡のような直径一センチほどの目が赤い顔につけられていて、左右の目の位置が上下にずれているから正面から見ると酔っ払ったオヤジだ。太い嘴は青く、数が足りなかったのか赤いビーズがひとつだけ使われている。ずんぐりした胴体に比べて頼りない足。お尻に生えた十数本のワイヤーは長い尾羽。

 鳥をもらったのは十年以上前になる。何度か店に来た客で、南アフリカに帰るから記念にと言って渡された。名前は知らない。顔も覚えていないけれど、体つきは鳥に似ていた気がする。

 廃業して自宅に持って帰ってきた鳥の尾羽には、たまに洗濯したマイバッグを掛けて干している。尾羽の端が鳴門の渦潮みたいにぐるぐるに巻かれているが、巻いたのは以前同じ建物で商売していた女性だ。彼女とはもうずいぶん連絡をとっていない。子どもが生まれたことはフェイスブックで知った。今のところ巻いた尾羽を伸ばす気はない。

 天井のライトを点けるとビーズが光って南国にいる原色の鳥のように見えるが、普段は気配なく吊るされ、頭をぶつけて存在に気づく。鳥のことを書く気になったのはパソコンに向かって頬杖をついた先に鳥がいたからだ。

 立ち上がって観察してみると、驚いたことに鳥には翼がなかった。背に五、六センチのワイヤーが段になってついているだけで、羽かもしれないが翼ではない。同じ体つきでもペンギンの方がよほど飛べそうだ。重い体はワイヤー二本で固定され、一本切ったら逆さ吊りになるだろう。巣から解放してやっても歩くには尾羽が長すぎる。

 飛べない、歩けない鳥は巣にとまっている。



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