クルマに生きる、文化財を駆る~Part.3~
拘りのクルマを持つということ
クルマの値段の話ばかりをしてしまうと、自分も値上がり目的の転売屋のような語り口で具合が悪いのが、私はそんなつもりは更々ない
大好きな愛車の価値が増しているというだけの話であり、カネで我が子を売り飛ばす気など更々ない(私の身にこの先何かが起きてしまった場合はその限りではないが…)
もちろんこの場で「値段が高いクルマ=文化財だ!」なんて一遍通りな主張を展開したいわけでもない
大切なのは先に示したホモロゲーションモデルに代表されるようなクルマの「ヒストリー」であり、それを最も分かりやすく指標化するのが金額という話である
皆様にも市場価値は別にして、絶対にお金では手放せない物が一つくらいあるだろう
手に入れるまでの思い入れ、共にしてきた時間、あるいは形見の品
まさにプライスレスの世界だ
うちの子も私にとってまさにその類である
我が家にやってきて今年で6年目
この夏に3度目の車検を迎える
実は日本に5台と言っておきながら、その中のさらに1台は私のクルマ仲間が先代オーナーから譲り受け今も大切に持っている(その先代オーナーもまた私にとってかけがえのないクルマ仲間の方である)
クルマがお好きな方ならちょっとトラブルで困ったり、パーツを買おうと思うならネットでチャチャっと調べれば大体の情報や他のユーザーレビューが出てくることだろう
だがうちの子に限ってそれはどうしても無理である笑
とにかく情報が少ないクルマ、ここで様々な情報共有ができるのは本当に有難い
他の個体もほとんどが既に新車で購入した方とは別のオーナーの手にわたっている
何台かは売り出された際に普通にネットの中古車情報サイトにも掲載され、その度にクルマ好き界隈をザワつかせた
そして残念ながら、日本正規として輸入された6台のうち少なくとも1台は海外へと既に流失してしまっていることが確認されている
私も気になって売りに出された個体を追ったりしているが、把握している限り発売時期とオーナーが手放して売りに出たタイミング的に、このクルマで3度目の車検を迎えた人間は私しかいないのでは?と思っている
気付けば新車購入から3年目で手放した初代オーナーの倍の年数である
今は我が家で大事にお預かりしているが、いつか必ずうちの子もよそに嫁いでいってしまう日は必ずやってくる
クルマやバイクを愛する方々なら、それらを手放す日が訪れることを私と同様に想像したことが一度はあるのではないだろうか
自らの身に何かが起こったとき、これまで心血を注いできたクルマはどうなるのか?
残された家族にとって無用の長物であれば、簡単に自分の葬儀代に変えられてしまうのではないか…?
これまた娘と同じある種の親心からくる心配のようなもので、だからこそ私は愛車たちを「うちの子」と親しみを込めて呼ぶところにも繋がってくる
まだ見ぬその日まで、この子が一人前に誰が見ても文化財と呼ばれ、そしてその価値を真に理解し、また後世に引き継いでくださる人間に出会えるその日まで、今のナンバーは外さずに残しておくつもりだ
そして願わくば、価値を理解して、見たいと願う方に少しでも見ていただける機会があれば私にとってこれほど素敵なことはない
来るべきとき、そうなることを切に願っている
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ありがたいことに、この子が我が家にいてくれたお陰で繋がったご縁も多い
「ベンツの6輪車持っている方」と名刺のように呼んでいただくこともある
著名な方にも幾度となくお乗りいただいた
このクルマがあったからこそのご縁は数知れない
これこそが私にとって金額以上の、このクルマの価値なのだ
ハンドルを握る機会こそ決して多くはが、それはいつも特別な機会であり、乗る者、見る者に感動を与えてくれている
なかなか整備をするにも大変で、お付き合いさせていただいているディーラーさんはいつも最大限のサービスを提供してくださり、常に完璧な状態で整備から戻してくださる
それも行き帰り特大のトレーラーに載せてである
どんなクルマの維持もオーナーの心意気とお財布だけではどうにもならない
その気持ちに応えてくれるメーカーとディーラーの尽力あってこそだ
この場をお借りして改めて御礼申し上げたい
これからも手のかかるうちの子がお世話になります
スーパーカーとして存在するクルマが今日その価値とブランド力を保っているのは、それまでに築き上げたメーカーの不断の開発努力あってこそである
それに対し私は最大限のリスペクトを払うし、そこに関わる方々に「この人に乗ってほしい」と思われるクルマの乗り方を心掛けているつもりだ
特にメルセデスともなると、たかだか何十数年のこちらの人生より遥かに長い、なんなら自動車という概念がこの世に出てきた瞬間からその技術の進歩と発展のために全力を尽くしている企業である
その技術の結晶とブランド力を、こちらはいわば「お借りしている」ようなもの
「金払って乗ってやってるお客様(=神様)」では決してないのだ
1ユーザーとしてその歴史とそれに関わる人々の顔に泥を塗ることはできまい
共にクルマを愛する皆様へ
もしあなたが大のクルマ好きで、拘りの愛車をお持ちだとするならば、たとえそれが毎日の通勤用やお買い物のためのクルマであったとしても、エンジンをかけるその瞬間はいつだって至福の一瞬なはずである
金額の高い安い、台数の多い少ないは関係ない
自分にとって「少しでも運転していたい」と思うクルマを選んで買って乗っているのがクルマ好きという人種である
どこのメーカーの、どのモデルも、その如何なるグレードであってもあなたがハンドルを握るそのクルマは、それまでのクルマの歴史の上に生まれた技術の結晶である
オーナーに愛され、大切に維持されてきたクルマたちは、その時代を彩るまさに文化であり、それを愛する人がこの世に限り、輝きを失うことはないだろう
クルマを愛し、拘りを持って大切に乗り続けている皆様
胸を張って「文化財を駆っている」と、これからも愛車のステアリングを握っていただきたい
それを文化財たらしめているのは、長い自動車の歴史の中であなたがステアリングを握り、アクセルを踏んでいる時間に他ならない
そしてもしよろしければ、クルマと過ごすその一時、クルマ仲間に限らずたくさんの人と同じ時間を共有する機会を作っていただきたい
特にこれからの子供たちに、クルマカルチャーの素晴らしさを、本物を見せることで伝えてあげてほしいのだ
もしかしたら「乗るのはもったいない!」と思う方もいらっしゃるかもしれない
もちろん毎日の通勤に使ったら流石にもったいないと私も思うが、このクルマは残念ながら会社には物理的に置く場所がない笑
近所のコンビニに乗り付けようものなら大ひんしゅく間違いなしで、とても毎日乗り回せるような代物ではない
だが必要とあらば私はエンジンをかけ、雨が降ろうが雪であろうが容赦なく走り出す
先述した通り、東北の大雪の中であってもである
汚れは綺麗に落とせばいい、あれでスノーアタックしたんだぞ!という経験こそが大事なのである(もっとも、あの巨体の洗車は本当に骨が折れるが…)
その背景には、私の最も尊敬するクルマ仲間(仲間とお呼びするにも烏滸がましい)あの白い6x6の先代オーナーである方のこんな言葉がある
「スーパーカーは走っている姿こそ一番カッコいい。そしてその姿は人に夢を与えるものでなくてはならない」
この言葉は私が(スーパーカーに限らず)クルマと向き合うときに最も大切にしている、いわばプリンシプル(原則)である
持ち主に愛され、走りに出、その姿を見た人に夢を与えてこそスーパーカーだと私も確信している
それは様々な種類の文化財が、一人のコレクターの手の中でひっそりと仕舞われているよりも、美術館などで公にされていた方が多くの人に感動を与える方がよっぽど価値があると感じる感覚に近い
うちの子が世にいう「スーパーカー」の定義に当てはまるかは些か審議が必要であろう
なにせ車高はアホみたいに高く、ミッドシップでもなければ2シーターですらない
だが、幼少期から街を走るスーパーカーに目を輝かせ、親に懇願してモーターショーに連れて行ってもらい、いつかは自分もと夢見た少年の成れの果てである私が「一番欲しい!」と思っていたいわば「スーパーレア」なクルマである
車種がわかるほど詳しくはなくとも、街中で出会ったどこか異質な、特別なオーラを纏ったクルマにふと目を奪われ、視線で追いかけてしまった経験は誰にでもおありなのではないだろうか
(私の場合、この歳になってもよくある話だが笑)
運良くその心を忘れず大人になり、そして自身が最も憧れるクルマを手にすることができた
次は自分が夢を与える番だと今は思っている
これから憧れの1台を夢見るあなたへ
私の周りにはまるでかつての自分のような所謂「スーパーカー大好きキッズ」たちがたくさんいる
よく知っている写真が本当に上手な子たちは、カメラ片手に撮影にわざわざ遠方からうちの子を見に来てくれている
彼らは皆、私がこのクルマを求める前から仲良くしてくれた子たちだ
その情熱と行動力たるや素晴らしいものだ
目を輝かせて車を眺める姿がなんとも微笑ましい
私もデジカメとSNSがある時代の子供なら間違いなく同じことをしただろう
もしもうちの子の姿を見て、憧れを抱いてくれる子供たちが世にいるのであれば、私は喜んで彼らの前にうちの子を乗っていきたい
そして必ずこう伝える
「いつか大人になって自分が大好きなクルマを手にしたとき、同じ熱量を持つそのときの子供たちに同じことをしてやりなさい」と
そんなクルマ文化の継承者であったはずの若者世代が、近年は様々な要因でクルマ離れしているというのはこれまた嘆かわしい限りである
(私の周辺に限ればそんな印象は全くないのだが、これ即ち類は友を呼ぶというやつであろう)
ソニー損害保険株式会社が「2024年 20歳のカーライフ意識調査」と題して2023年11月にインターネットで実施した調査によると、新成人の3割は若者の車離れを実感
「車を所有する経済的な余裕がない」は半数超に及ぶという
文化を継ぐ者なき後、文化財は文化財として残らないのは先にも記した通りだ
まして少子化、いすれの分野でもこれは喫緊の課題である
だが私は強く信じている
あなたが誰かにクルマで与えた夢は、いつかきっと誰かの夢にまた変わると
「若者のクルマ離れ」の一番の特効薬は「クルマで夢を与えてくれる大人の存在」なのである
ここまでずっと半ば自慢じみた厚かましい文章となってしまったことをお詫びしたい
今までどこにも記録には残してこれなかったストーリーや思いをネットという匿名の隠れ蓑を借りて残し、なにかの際にふと共感いただける一人の方の目に留まれば本作はそれで十分である
まぁ何処の誰、何人に読まれるか、そもそもここまでお付き合いくださる方が本当にいるのかもわからないが…
おわりに
改めてのお願いで恐縮だが、万が一にもこの記事を目にして、その特徴的すぎるクルマから筆者が私であると特定してしまったあなた
そこは友人として、ひとつご内密にしていただきたい笑
ご存知の通り、私はあのクルマを所有していることをほとんど世に公表していない
知っているのは本当にごく一握りの親しいクルマ好きの友人だけである
(つまりあなたは私にとってのそういう人だ)
付き合いのある人間の9割5分は私がこのクルマの所有者とは夢にも思っていない
広く流布されて「売ってくれ」などと話がこようものなら、私の機嫌を著しく損ねるのでそこはご了承いただきたい(実際それで不愉快な思いをした経験もある)
白い個体を持っている友人も「いくら積まれても絶対売ってやらない!」と豪語している
それだけ6x6は所有欲以上に走って楽しいというクルマ好きの心を満たしてくれるクルマなのだ(斯く言う彼はハマーH1も持っているのだが…笑)
買い替えるという選択肢においても、前回新しい車を買い続ける理由というところに触れたが、この子についていえばもはや「同じタイプの新しいものが出る可能性がない」領域である
クルマにお詳しい方なら、最近ブラバスとマンソリーといういずれも世界的に有名なチューンナップメーカーが新しいゲレンデをベースに6輪車を発表したことをご存知であるかもしれないが、あれはあくまでもカスタムメーカーの手によるもので大手自動車メーカーのオリジナルではない
そもそもこのエコだ電気だ騒がれてる時代にどこのメーカーが6輪のトラックの乗用車(もはやこのワードが自分で言っていて意味不明)なんて作ろうというのか
45度の坂が登れて、1mの水深でも進める車の需要など、軍用と私のような一部の変態用を除き、全くないと言い切っていいだろう笑
コストカットの時代に、おそらく計画されることすらもうなさそうである
放す理由を探せば探すほど、今手放すべきではない理由ばかりが蓄積するのである
本来は一気に書き上げた話だったが、自分で書いてみてあまりの長さに驚き3編に分けて上げさせてただいた
大学生の頃、2,000字のレポートを書けといわれて嫌気がさしたこと数知れないが、やはり人間の「好き」という気持ちはどこまでも強いものだ
いわばこれが私の推し活である
ここまで3編通じて17,000字オーバー
お付き合いくださった皆様に心から感謝申し上げる
このクルマそのものに関する普遍的知識はPart.1で言及した通りWikipediaの中に私の持てる全ての知識を残しておいた
なのでこちらは私の私情まみれの駄文・乱文である
読みにくさには改めて大変失礼をした
三部作の最終編の本記事を上げさせていただいた今日、2024年4月25日はG63 AMG 6x6が日本で発表されてちょうど10年目の日に当たる
私に言わせれば、我が子の10歳の誕生日である
嫁に出すにはまだまだ早い
少しでも物珍しく思い、興味を持っていただけた方がいるなら、ネタには事欠かないクルマであるため、この子についてまたいずれ何か書いてみようかとも思っている(整備はじめ維持費のこと、実際に乗ってみた感覚など、クルマ好きの好奇心に少しは刺さるものではないだろうか?)
今現在、このクルマのこの色は国内では私のこの1台のみであると認識している(艶消し黒の1台も存在するが私のは艶がある塗装だ)
運良く街で見かけることがあれば、それはほぼ間違いなく私である(コメントでどこで見た、などの特定はご容赦を)
安全にお声いただける場所であれば、お見せするのも全く問題ない
顔とナンバーさえ隠していただけるなら、クルマはSNSにどんどんアップしていただいて構わない
それでお喜びいただき、あなたの素敵な思い出に変わるなら私もクルマも極めて本望である
またこのnoteか、ふとした街角でお会いしましょう
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