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思いもよらないこと

忘れられない年に書いたこと

今年は思いもよらないことが次々に起こる。お正月の4日に父が他界してもうすぐ5ヶ月になる。あの頃は冷たい空気につきぬけるような青い空の毎日が続き、そして今日は少し湿った梅雨前の匂いがしている。父がいないことは今でも嘘のようで、そのおかげで今年は基本的に哀しい。

「私は彼と12で知り合い、一緒に大人になって一緒に親になりました。」
死ぬというのはとてつもなく独りきりなことだけれど、父のために集まってくださった方々の前で母はそう言った。母の言葉を聞いたとき、私の知らない若い頃の父と母のときめきやらそこに流れていた空気やらが感じられて切なくてしょうがなくなった。そうやって二人は私と弟の親になってくれて、そして誰よりも私たちを愛してくれたんだ。若いということの輝かしさを思うと、年を経ることの無情さと切なさが痛切に迫ってくる。

「お助けできないかもしれないという言葉を聞いたとき、私は夫を失うと共に60年来の親友を失うのだと痛切に思いました。」
母は病院の椅子に座って我慢しながら泣いていた。「あなたたちは私たちの生活に彩りを与えてくれた。」ずっと前のある日私にそう言った母の言葉を思い出した。

「足の不自由さからは開放されたわけですから、煙となり天に昇り、分子となり、あるときは雨となって、あるときは風となって私の元へ再び訪れてくれることを楽しみに待つことにします。」
母がこう言うので、これからは雨にも触り、風にも吹かれようと、窓を開いて風を入れようと思った。

私が生まれた夏に隣の神社で私を抱いて笑っている父の写真をアルバムからくすねて来た。このときの無心の中でやろうと思っていたことを私はきちんとやっていこう。そう思った。そして12月27日付の数学を解いたわら半紙を一枚もらった。

しんみりなってもいけないので付け加えると、父は前の晩も元気にお正月を満喫していた。お正月に集まった友人たちや私たちと美味しい馬刺をつまみに山梨の名酒「谷桜」を飲み、言いたいことを言い、そして次の朝にいなくなった。父らしいと言えばかなり父らしいのです@^-^@

6/2/2004 記

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