ほんものの星
ほんものの星
きみに憧れたことを許してほしい。
夜の、強すぎる街灯の光に照らされたつまさきを見つめながら、わたしはそう思った。
急に立ち止まってしまったことに、きみは気づかないで進んでいる。足音でわかる。でも、歩みはゆっくりで、たぶん今気づいたのだ。でも戻ってこようとしない。わたしは顔をあげない。
なんだか、どうしてか、顔をあげたら泣いてしまいそうな気がする。
きみに出会ってからいつも、わたしは泣きそうだった。
不安だとかじゃない。そもそもつきあってない。きみの存在自体が好きで好きでたまらないってことだけは本当で、わたしはひたすら、つまらない女としてにこにこ笑っている。きみのつまらない話がとても美しい物語に思えて、寝る前に何度も繰り返えして、微笑んでいる。つまらない女だ。
顔をあげる。きみは、ちらっとわたしを見て、手元のスマートフォンに目を移す。その仕草がきらい。なんで一度見たの、と問い詰めたくなる。なんで。
つまらなくて、しょうもなくて、泣きたくなってしまうのだ。わたしを矮小にしたのはきみだ。おもしろくない人間なのに、つまらなくて、笑いのツボが浅くて、へんなところが子供っぽくて、呆れてしまうほどふつうの人間なのに。どうしてきみの表情にいちいち、泣きそうにならなきゃいけないのだろう。
きみが星かなにかだったらよかったな。映画のキャラクターだったらよかった。きみの人生を遠くで応援していれる存在になりたかった。
きみは現実に存在していて、どうしてかわたしの前にいる。街灯の光で線を引かれたように、わたしときみの間がある。
その間を埋めることすら、わたしには泣きそうな行為なのだ。
「プラネタリウムじゃん、買おうかな」
きみは小さな画面を見て、嬉しそうに声をあげる。
つまらないね。と思う。でも、口に出るのは「いいね」ってこと。
言葉に引っ張られるように、わたしは前に進む。きみは隣に並ぶのを待つ前に歩き出す。
「星っていいよね。ロマンチックで、モテそう」
そういって笑うのだ。きみってつまらない。目尻の曲線が、こんなにも愛しくてつらい。
また泣きそうになる。きみのにおいがする。
「本物がいいんだよ、星は」
「天体観測のほうが、モテるってこと?」
「ちがう」
わかってないからきらい。きみがきらい。大嫌い。
「別に、綺麗だったらいいと思うけどな。偽物でも」
あの星でもさ、ときみが指をさす。
きらい。きらい。きみがきらい。つまらない。ほんとうにきらい。二度と会いたくない。遠くに行ってほしい。そしていつも見えるところにいて。
泣きそうになる。
にせものじゃないの。
偽物じゃあ駄目なの。
この星は、本物だから。
わたしの恋は、ほんとうだから。
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