立体魂がすごいご当地マグネット
観光地の土産物屋などで売っているご当地マグネットの中でも、材質は特にポリレジンマグネットが好みです。その理由は、精巧さ、立体感、そして手塗りの味わいがあるから。
ここでは作り手のディテールへのこだわりーー立体魂ーーが特に強く感じられるマグネットを、いくつかご紹介します。(ポリレジン製マグネットだと、なぜ立体感が表現できるのかについては、また別の機会に。)
京都三年坂マグネット
まずは一つ目。正面から見たたたずまいをご覧ください。
京都の清水寺近辺、三年坂の上から下を見下ろした風景です。上の写真は光が右斜め上から当たって影が出ているので、立体であることはこれでもそこそこ伝わるかと思います。
さらに細部にフォーカスします。
伝わりますでしょうか。正面からは見えない、桜の木の下や裏側などの回り込み部分まで、しっかり立体的に造形&着色されています。ただ凹凸が付けてあるに留まりません。
デザインの参考にしているのはおそらく写真なので、そこに写らない部位はイメージを膨らませて作っているのでしょう。「ここはちゃんと作らなくても発注者に咎められないだろう」という手抜き感は微塵もありません。
次が同じマグネット右側面の写真です。
正面から見えないどころか、複数マグネットを密に並べて飾ると隣りのマグネットと接してしまう、ただの側面。本来は単色ベタ塗りでもよい面です。(実際、側面はベタ塗りのマグネットも多い。)そこに、桜の内部の枝まで描いてあります。
造形はシリコーン型枠で量産できるのですが、着色は手作業。手塗り担当者が、1個1個木の枝を描いているわけです。恐れ入ります。
京都嵯峨野竹林マグネット
次のマグネットも京都発ですが、有名な嵯峨野の竹林です。
こちら。
奥行きのある道の情景という構図は、三年坂のマグネットと同様です。この正面写真だけでも、なんとなく奥行きがあり、竹も手前を太く奥を細くして丁寧に描かれていることは見てとれます。何種類の緑色を使っているのでしょう。右上からの光で傘もちゃんと影を作っているのがわかると思います。
このマグネットを上から見るとこんな感じです。
奥まった中央部と、サイド手前の厚みが3倍ほど違う。原則的には”板状”商品の、その造形限界まで立体感を出そうとしている”立体魂”を感じます。このマグネットは、持った感じが心地よく、しばしば手にとってしまいます。傘は竹林の道の奥の部分に深くめり込ませる処理をしています。奥深い。
そしてこれも、側面がすごい。
発注したご当地ーー土産物店?嵯峨嵐山観光協会?ーーの人はやはり、「べつに側面はベタ塗りでも全然構わないです」と思っていたことでしょうが、塗り職人のプロ意識がそれを許しませんでした。
なんとなく上部を緑、下部を茶色に塗るのではなく、しっかり「立ち並んだ青竹と竹柵」を描いています。竹の節まで描かれています。もはや絵画です。ベタ塗り仕上げにすれば、時短で生産効率が上がるのは間違いないにも関わらずです。
一体誰に、このこだわりが伝わるのでしょうか。
私に伝わりました。
広島原爆ドームマグネット
広島のご当地マグネットとしては定番の、原爆ドームがモチーフなものです。正面写真だと、建物と桜がなんとなく出っ張っているのかなと分かるレベルです。すこし茶色がかった壁と灰色の壁が、よく再現されています。
ドーム部分を横から見ます。
サイドの石積み部分、そこが正面から見えないことは関係なくしっかり造形され、丁寧に塗られています。そしてドーム部。丸みを帯びた出っ張りというレベルではなく、横から見ても上から見ても実物の半球に近いです。骨組みの内側がヌケているのも、どうにか表現しようという努力が見て取れます。
このマグネットもやはり側面に着目です。
桜の枝まで描かれて、まるで絵画のようになっているのは、前述のマグネット同様です。さらにはその中の、空に浮かんだ月(太陽?)に驚愕。今一度、正面から見た構図を確認していただくと、そんな天体はどこにもありません。「見えない側面」に「見えない天体」を描くその心意気は、立体魂以外のなにものでもありません。このご当地マグネットを売店で手に取り、素敵だなと思って購入した人ですら、はたして何割がそこに気づいているでしょうか。
もはや美術品の域といえるかもしれません。
福井東尋坊マグネット
「東尋坊」でgoogle検索すると、この構図の写真が出てくるので、デフォルメして追加された観光遊覧船以外はリアル情景です。東尋坊は、入り江を取り囲む断崖絶壁で有名な福井県の景勝地ですが、岩のゴツゴツした作りや、ところどころこびりつくように生える植物の再現性が、まずはすごい。
そして、手前の断崖で死角になっている崖下はどうなっているでしょうか。
期待通り、造形と着色が施されており、岸壁は完璧です。
浅くなった水際に露出した岩、そこに打ち寄せた海水が立てるわずかな白波もあります。水深や波を表現するために水の色を何種類も駆使して丹念に塗られています。もはや絶景ポイントから撮影した写真をはるかに凌ぐ、絶景マグネットです。
これも、右側面を見てみます。
「見ない。側面は誰も見ないよ。」と言われようが関係ないと言わんばかりに、本来真っ白なはずのポリレジンに岩場のリアルなゴツゴツ感が表現されています。量産の流れ作業で次から次へと色付けできる仕事ぶりではありません。多くのご当地マグネット同様、これも海外に発注して制作されているはずですが、どういう方が着色しているのでしょう。現地美大生の武者修行かなにかなのでしょうか。
以上4つ、作り手の立体魂がすごいご当地マグネットを紹介してきました。観光地写真よりもリアルにその場の迫力や美しさが表現され、でもミニチュア模型のように飾る場所を取らない。比較的丈夫。それでいて1個500円~700円で購入できる。ポリレジンマグネットは最高のご当地土産だと思っています。
売店でそれを発見し、いくつも並んだ中からわずかな造形や塗りの違いを確認しつつベストなものを選ぶ。至福の時です。
本記事では、立体感へのこだわりを切り口としてご当地マグネットを紹介しましたが、また別の切り口で、他のマグネットコレクションも紹介していきたいと思います。
ありがとうございました。