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「共通言語のある顧客コミュニティ」のつくり方──楽天大学立ち上げの経緯

仲山(仲山考材代表/楽天大学学長)です。こんにちは!

おかげさまで、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を2000年1月に立ち上げて21周年になりました。

ここ数年、「楽天大学みたいなもの(共通言語のある顧客コミュニティ)をつくりたいので話を聞かせてほしい」という相談をいただくことが多くなってきました(プラットフォーム型のサービスを展開している企業さんが多いです)。

「楽天大学立ち上げ」の経緯については、2011年に当時やっていたメルマガに書いたことがあります(これ↓がアーカイブ)。

これ↑だと何回もクリックしないといけないのが面倒だなと思って、ひとつに整理してみることにしました。

(前提の確認)

・楽天大学の立ち上げは2000年
・以下の文章は2011年に楽天出店者さん向けのメルマガとして書いたもの(読みやすいよう一部修正)

です。

もしご興味あれば、ご笑覧ください〜。

——————————————————————————————
仲山(感謝)です。こんにちは!

おかげさまで、本日2011年1月20日、楽天大学が11周年を迎えることができました! ありがとうございます!

思い返せば11年前の2000年1月2日、親戚の家でお正月を過ごしていたぼくのケータイが鳴りました。

「本城慎之介」と表示されています。

三木谷さんと2人で楽天を創業した、当時の副社長です。

仲:「はい仲山です。あけましておめでとうございます!」
本:「おめでとう! でさ、仲山くん、楽天大学やんない?」
仲:「は?!」
本:「楽天大学。やんない?」
仲:「・・・・・・や、やります」
本:「オーケー! じゃ、詳しい話は休み明けに」

楽天大学というのは、1999年の11月くらいに三木谷さんが「楽天大学をつくろう!」と言い出して、担当者が準備を進めていたプロジェクト。でも、その担当者が年末に退職しちゃったのです。

そのお鉢が、当時ECコンサルタントだったぼく(といっても入社半年)に回ってきたようなのでした。

そして休み明けの1月4日。

本:「講座は1月20日から始まるから」
仲:「なるほど。で、カリキュラムは?」
本:「6講座やります。1講座15,000円で。」
仲:「いいですねぇ。で、講座内容はどこまでできてるんですか?」
本:「ん、まだ1コもできてない」
仲:「え?」
本:「がんばって作ってね! よろしく!」
仲:「ぅえぇぇぇえぇぇっ!!?」
本:「6講座ね♪」
仲:「??!!!」

こうして、「楽天大学担当 兼 ECコンサルタントの仲山」が誕生。

日中は、ふつうにECコンサルタントとして、楽天市場の出店者さんをサポートして、仕事が片付いた夜9時くらいから楽天大学の講座づくりを毎日数時間。

そのうち、三木谷さんに呼ばれました。

「講座なんだけどさ、細かいテクニックとかよりも、フレームワークをつくってほしいんだよな。MBAって、フレームワーク(考え方の枠組み)を身につけて自分で考えられるようになる、というところがポイントだから。楽天大学も、店舗さんが自分で考えられるようになるフレームワークにして。よろしく」

みたいな感じのお達しがありました(うろ覚えかもしれない)。


ぼく(26歳)は、「入社半年の若造に、こんな新規事業の立ち上げをやらせて、この会社大丈夫なんですか?」と聞きたかったけど言えず、

「はいっ! わかりました!」

と元気に返事をしていたのでした。


ちょっと話が戻りますが、楽天大学スタート時の背景を知っておいていただこうかと。

ぼくが縁あって楽天に入社したのが1999年6月21日。楽天市場の出店数は600店舗ほどで、「ECコンサルタント(以下ECC)」という職種は、まだありませんでした。

店舗さんのサポートは、

正忠さん(小林正忠・現常務)
津田くん(津田全泰・のちにフォートラベル創業など)

の2人でやっていました(今考えると異常)。

もう一つ、「営業部」というのがあって、新規出店営業と、オープンまでの作り込みをサポートしていました。

といっても、店舗さんからかかってくる電話の数がハンパじゃなので、スタッフ全員で取って、いわゆるコールセンター的なサポートもしていました。

というわけで、入社したぼくは「営業部」としてスタートしたのですが、まだ右も左もわからないその10日後・・・7月1日づけで、「ECC」という職種ができることになり、その9人のうちの1人になりました(ちなみに9人は、正忠、大越、安藤、一見、富田、笹木、片岡、片田、仲山)。

ECCのお仕事というのは、

 ・新規出店営業(前衛)
 ・オープンまでの作り込みサポート(中衛)
 ・オープン後の店舗運営サポート(後衛)

を一気通貫で担当すること。

自分で新規出店の案内をした店舗さんは、自分が担当ECCになる仕組みです。担当店舗さんが、1人あたり70~80店舗、振り分けられてのスタートでした。

そして、出店ペースの加速もあって、毎月だいたい20店舗ずつ担当店舗さんが増えていきました。つまり、半年後の1999年末には、一人あたり200店舗くらいになっていました。

一応、自分ではがんばっているつもりでも、満足にサポートできず、店舗さんに対して申し訳ない気持ちが大きくなっていきました。

当時は、ネット回線もダイヤルアップが主流で、NTTさんが「23時以降は定額」になる「テレホーダイ」というサービスをやっていたので、23時からページ編集をがんばる店舗さんも多くいらっしゃって、23時に電話が一斉に鳴る、なんていうこともあり、ぼくはだいたい深夜2時半が「定時」みたいな感じでした。

あるとき、「1ヵ月のうちで、どのくらいの担当店舗さんとコンタクトできているか調べよう」ということになって、みんなで電話・メール・対面でのコンタクト記録を取ってみたことがあります。

いつもより意識的に電話をかけたりしたつもりなのに、60~100くらいの店舗さんとしかコンタクトできていないような状況。

ECCの仕事自体は楽しくてしかたがない反面、「店舗さんに申し訳ないなぁ・・・」というフラストレーションが溜まってきていたのが、1999年末のぼくだったのでした。

そんなところに、「楽天大学をつくる」という話が出てくるわけです。

ぼくがECCとして最初に思ったのは、「おぉー! これでテープレコーダーをやらなくて済むかもしれない!」でした。

どういうことかといいますと、毎月、新たに担当店舗さんが20ずつ増えるので、「まずプレゼントやって、メルマガ出して・・・」という話を、毎月20回、テープレコーダーのように電話口で繰り返す、という作業が必要だったのです。

(みんな忙しすぎるのと、RMS(楽天のシステム)が毎日改善されるのとでマニュアルが作れなかった。)

楽天大学ができるということは、店舗さんに丸一日とか長い時間をかけて、インプットしてもらえるわけです。そうすると、テープレコーダー業務がなくなる。その分、別の店舗さんと、もっと付加価値の高い話ができることになります。

だから、「楽天大学をつくる」と聞いたときは、ECC全員が、「これは朗報!」「画期的!!」と喜んだのでした。

なので、もともとの担当者が退職して、本城さんから「楽天大学やんない?」と言われたときに、「店舗さんのハッピーとECCのハッピーのために楽天大学は絶対大切!」と思って、「はい」と言ったのでした。

※註(その1)
本人としては事実を書いているつもりですが、過去の思い出が脳内で過分に美化されている可能性があります。斜に構えてお読みください。

※註(その2)
本文を読むと、仲山がイケてるECCのように読めてしまう可能性もありますが、実際は、相当なダメダメECCだったことをお知らせしておきます。今回は話の流れ上、そこは重要でないため、割愛させていただいております。


というような背景のもと、1月20日のスタートまで、あと16日。

本来であれば、「楽天大学のコンセプト」とかしっかり整理してから講座をつくらなければいけないのでしょうが、いかんせん時間がない。そこは6講座をつくりながら、考えることにしました。

まずは、「6講座って、何が必要だろ?」というところから。

 ◆トップページ
 ◆商品ページ
 ◆メルマガ(R-Mail)
 ◆オークション(※共同購入はまだなかった)

うん、この4つはあってもよさそうだ。

「ページ」で1講座にするより、トップページの講座に「ポジショニングを考えて、強みをトップページに書こう」という話を入れたいから、2講座に分ける方向で。

あとは、

 ◆Eコマースの市場とかネットショップ運営を概観できるような、
  総論チックなやつ?

「まずはプレゼントで、メルマガ出して・・・」という話は、ここに入れられそうだな。

あとは・・・

なんだろ?
むー。悩む。

本城さんにブレスト相手になってもらおう。

(本城さんとブレスト)

本:「この5講座に入らなそうなことで、仲山くんが店舗さんに伝えたいことって何?」

仲:「やっぱり、ネットショップは自動販売機じゃなくて、究極の対面販売だっていうこと! “Shopping is Entertainment!講座”というか」

本:「それはいいね。事例とか、ありそう?」
※註:本城さんは当時、開発担当だったので、店舗さんの事例には詳しくないのです。

仲:「ぼくの担当店舗さんだけでも、いくつもあります。『卵の庄』の畠中さんの“卵の黄身vs.爪楊枝”とか」

本:「あぁ、あれ面白いよね。でもさ、ウチが言いたいEntertainmentって、ただ面白おかしいことっていうのとはちょっと違うから、誤解されないようにしたいよね」

仲:「というと?」

本:「三木谷さんが講演で話してる、魅力の公式あるでしょ」

仲:「あぁ、あの “魅力=コミュニケーション量の2乗” というやつ」

本:「そうそう。その魅力の一つの形が、面白おかしいことだと思うんだよね」

仲:「たしかに。・・・ということは、お客さんとのコミュニケーション量を増やす、っていうのがテーマの講座はどうでしょう?」

本:「講座名をつけるとしたら?」

仲:「総論的な講座を “インターネットショップ成功の秘訣” にしているので、“コミュニケーション量増大の秘訣” とか?!」

本:「・・・いいね。アリだね。うん、それでいこう!」

仲:「やったー、決まった! ある意味、その講座が一番思い入れのあるやつになるかもしれない予感!」


えーと、書いてて思ったんですけど、会話形式にするにはあまりにもうろ覚えなことに気づいたのですが、ここまで書いちゃったので、このままいきます。ニュアンスは、こんな感じだったということです、はい。

なお、ホントは、もっとすごい数のボツ案が出ていた記憶がありますが、思い出せないので割愛します。

そんなこんなで、

 ◆インターネットショップ成功の秘訣
 ◆コミュニケーション量増大の秘訣
 ◆効果的なTOPページの考え方
 ◆商品のよさを引き出す商品ページの考え方
 ◆R-Mailの活用方法
 ◆オークションの活用方法

の6講座が決定。

でも、内容はまだまだこれからなのでした・・・

「楽天大学とは何なのか」も考えを整理しないと・・・

というわけで、講座をつくりながら、「楽天大学って何だろう?」ということを考えています。

一つ、ものっすごく不安なことがあって、「講座の内容って、結局、いつも電話で店舗さんにお話ししている内容と同じになっちゃうんだけど、それでお金もらっていいのだろうか!?」ということ。

たとえば、自分の担当店舗さんが楽天大学にきてくれたとして、「なんや、いつもの話と同じやん。損した!」と思われたらヤバいです。

しかも、最初に来てくれるであろう店舗さんたちは、入社半年のぼくより、楽天歴の長い人たちのはず。

ということは、「情報」を売ってはいけないのだな。

「私たちはこの情報を持っています。教えてほしければ、お金ください」という価値の提供のしかたではダメだ。

じゃあ、店舗さんがわざわざお金と時間を使って楽天大学に来る意味って・・・

横のつながりだな。やっぱ。
店長業は孤独な闘いだから。

ということは、講座でもグループディスカッションを多くして、つながるきっかけを増やせばいいのか。

ちょうど講座の内容自体が「フレームワーク」だから、そのフレームワークについて、お互いの経験談を共有できたら、盛り上がりそう!

で、横のつながりができて、店舗さん同士で楽天の店舗運営話をしてくれるようになれば、「ECCがマンパワー不足でコンタクトできていない」という申し訳ない状況も、少しはカバーできるかも。

店舗運営についての「コミュニケーション量」が増えれば、「店舗運営の魅力」が2乗で増すことになるわけだもんね。

・・・と、そんな感じでパズルのピースが次々とハマっていくような感覚があって、

--------------------------------------------
楽天大学の価値は、

 ◆フレームワーク
 ◆横のつながり

が【半々】のイメージでいく!
--------------------------------------------

というコンセプトができたのでした。

※註
以上、なかなか熱血な若者のストーリーのように書かれていますが、もちろん、

「グループワークが多ければ、講座つくるのもちょっとは楽そうじゃないか!」

「グループワークが多ければ、ベテラン店長さんがいい話をしてくれたのを拾って『それいいですね!』と言うだけでも講座が成り立つのではないか?!」

という、極めて「こちら側の都合」的な、淡い期待も背中を押していたことは否めません(なんせ入社半年の追い込まれた若造)。


さて、

店舗さんに提供する価値が決まったところで、次は、「ECCと楽天大学の役割分担はどうあるべきか」というのを考えておくことが大事な気がしてきました。

とは言っても、そんな難しいものではなく、

もともと、楽天大学の講師は、ECCが持ち回りで登板することになっているので、「ECCと楽天大学」というのは「同じ人」です(あいにく今は分離しちゃってますが)。

そもそも楽天が小さい会社なので、一人何役もやるしかない、という事情もありますが、見方を変えると、「実例豊富な現役ECCが講師をやる」というウリにもなり得ます。そんな前提が、まずあります。

で、ECCのサポートの形を考えてみると、店舗さんから聞かれたことに答えるのが精一杯で、どうしても「スポット的」にならざるを得ない。

そこで、楽天大学が「体系的」なフレームワークを提供することで、補完ができます。

逆に、楽天大学では、店舗さんに対して「では○○さんのお店はこうしてみては?」のような、個別の落とし込みまではできない。そこはECCの守備範囲。

だから、楽天大学としては「フレームワークを共通言語にする」ことをゴールにする。

たとえば、オープンしたばかりの店舗さんが、楽天大学で半日かけて「プレゼント企画をやる意味」を理解したら、ECCは翌日に電話して、

「じゃあ、プレゼントの景品、何にしましょうか? 集客の視点と、転換しやすさのバランスを考えて『これ!』と思いつくモノってありますか?」

なんてところから話を始めることができるわけです。まぁ、ステキ。

楽天大学がないと、ここまでいくのに電話で1時間くらいかかったります。しかも、「うーん、やっぱやめとくわ」みたいなことにもよくなります。

それに比べて!

楽天大学で隣に座って仲良くなった店長さんから、

「えぇっ?! プレゼントやったことないの? アホちゃう?! やったほうがええって!」

なんて一言いわれたら、ほとんどの店長さんは、

「今日帰ってすぐやる!!!」

と決意して帰っていかれたりすると思うのです。

店長さん同士の交流用掲示板(RON会議室)を見ていても、そういうパターンがよくあったので。

なので、ECCがマンツーマンでやると難しいことも、楽天大学で横のつながりができると超カンタンになる。そんな機能分担もイメージできちゃいます。要は、ECCと楽天大学は、相互補完すると店舗さんも含めてみんなハッピーになれるのです。

ここまでのところをいったん整理してみます。

絵に描いてみると、こんな感じ↓です。

画像1

なんで講座スタートまで時間がないのに、のんきにこんなことを考えてるのかと思われるかもしれません。でも、ここが決まらないと、講座コンテンツをつくるときの「取捨選択基準」がないことになるので、困っちゃうんです。

たとえば、「店舗さんとの共通言語をつくる」という基準があれば、フレームワークを表現するときの言葉も、「共通言語化しやすいもの」にすればよいことになります。

ふだん、店舗さんと、

「この商品を買ってくれるお客さんって、どんな人なんですかー」
「お店の強みってなんですかー」
「セールやっても、長い目で見て元が取れればやる意味ありますよねー」
「お客さんに、またこの店で買おうって思ってもらうにはどうしましょうかー」

なんてしゃべっているのに、講座でいきなり、

「ターゲット顧客の属性をデモグラフィカルに分析すると・・・」
「市場においてストレングスベースドなポジショニングを取れているのか・・・」
「プロモーションのCPOはLTVを算出してシミュレーションする必要が・・・」
「顧客の企業に対するブランドロイヤルティを向上させるためには・・・」

みたいな言葉を使うと、共通言語になりにくいのが明らかなわけです。

「情報を売る」というスタンスなら、なるべく聞いたことのないような、小難しい言葉を並べたほうが、ありがたい感じがするし、お勉強した気にもなれます。

また、最新の理論なんかを次々に取り入れて、「次はこれを知らないとヤバいですよ!」と煽ったほうが、講座の集客もやりやすいです。

でも、ただでさえ時間が足りないECCが講師を持ち回りでやるのに、講座内容がどんどん新しいものに変わっていくのでは、追いつかないし、がんばって覚えたとしても、薄っぺらくなります。

なので、「採用するフレームワークは普遍的でなければいけない」という方向性が、自ずと決まってくるのでした。

でも・・・
そんなフレームワーク、一体どうやって探そうか・・・

というわけで、店舗さんとECCの「共通言語」としての講座内容を考え始めた仲山。

ここから、思考プロセスをつらつらと書いてみます。

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さてさて、

共通言語になるような「普遍的なフレームワーク」ってなんだろう?

もし、普遍的でないと、講座アンケートとかに

「ウチの商材にはあてはまらない」
「ウチの業態にはあてはまらない」
「その考え方は古い」

なんて書かれてしまうのは、想像に難くないな~。

ということは、

 ◆商材が違っても変わらない
 ◆業態(製造・卸・小売)が違っても変わらない
 ◆時間が経っても変わらない

この3つは必須かな。

楽天の店舗さんは、商材も業態も多様だし、ネットはドッグイヤーだし(←当時よく使われてた言葉)。

あと、いつもECCのみんなで店舗さんに、「ネットの商売もリアルの商売も基本は一緒です。リアルの経験をうまくネットに置き換えられればうまくいきます」っていう話をしているから、

 ◆リアルにもネットにもあてはまる

という視点も加えよう。これ、楽天っぽい。

でもなぁ、どうせなら、もっと普遍性が高いほうがいいな。

(いろいろ考え中。)

そうだ!

 ◆商売にもサッカーにもあてはまる

これどう?

自分の20年間のサッカー経験にもあてはまることなら、商材や業態が違うくらいで、「ウチにはあてはまらないんだよね」なんてことにはなりにくいはず。

たとえば。

ちょうど少し前に、三木谷さんが主催した社内勉強会で教えてくれた、「よいサービスとは、お客さんの期待値を超えるサービス」というフレームワーク。それってサッカーにあてはまるか?

(考え中。)

あ、「フェイント」って似てるかも。

フェイントって、右に行くと見せかけて(相手の期待値を右に設定しておいて)、左に行く(期待を超える)わけだから。

フェイントの要領で、相手の期待(読み)がどこにあるのかを汲み取って、期待以上のことをできれば、商売でも役立ちそう。

うん、この作業、なんか楽しいぞー。

こんなふうに「検算」が成り立つフレームワークを優先的に採用していってみよう。
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(思考プロセスおしまい)

というわけで、フレームワークの取捨選択基準がなんとなく見えてきました。

 ◆商材が違っても変わらない
 ◆業態(製造・卸・小売)が違っても変わらない
 ◆時間が経っても変わらない
 ◆リアルにもネットにもあてはまる
 ◆商売にもサッカーにもあてはまる

なお、講座のコンテンツになりそうな「素材」としては、

 ◆三木谷さんが講演や雑誌インタビューで話していること
 ◆ECCがふだん店舗さんに話したり、メールしていること
 ◆『MBAマーケティング』のようなMBA系の書籍
 ◆昔買った、中小企業診断士のテキスト
 ◆実店舗向けのハウツー本(店舗運営系やDM系など)
 ◆自分の担当店舗さんの事例
 ◆他のECCから聞いた事例

あたりが中心でした。

逆に言うと、ネット系の書籍などはほとんど参考にしませんでした。普遍性が低くなっちゃう可能性があるから。

これらの素材を、「取捨選択基準」でザザーッと見ていく作業をしていて気づくのは、「三木谷さんの言ってることは、普遍性の高いことが多いなぁ」ということでした。

具体的に、どういうことかといいますと・・・当時、三木谷さんはマスコミ露出が増え出して、全国各地からの講演依頼も増えていました。

ぼくが、かばん持ちでついていったときの講演メモがたしかどこかに残っているはずなのですが、ビッシリとメモしたなかに、

 ◆インターネットショップは自動販売機ではない。
  究極の対面販売。

 ◆Shopping is Entertainment!

 ◆商店街の魚屋さんのように、「今日は何がいいの?」
  「今日はサンマだな」というコミュニケーションを
  ネットでできれば、成功するという仮説。

 ◆だから、パソコンが得意な人が商売を学ぶより、
  商売が得意な人がネットの使い方を学ぶほうが
  うまくいくと考えた。

 ◆魅力=コミュニケーション量の2乗

 ◆ネットショップでの買い物は不安と思われているが、
  店長が顔写真を載せたり、日記を書いたりすることで
  安心してもらうことができる。

 ◆オークションが盛り上がるのは、ほかの人が何十人も
  入札しているとわかって「ひとけ」が感じられるから。

みたいなことが書いてありました(そのメモを見ながらではないので、うろ覚えですけど)。

基本的に、「ネットはすごいよ」とか「こうやれば売れるよ」というスタンスではなくて、「そもそも人がモノを買うってどういうことだろう」とか「お客さんから見たときに、どう見えるか」ということが主題になっているんです。だから普遍的。

なので、講演を聞きにきている「ネットのことはさっぱりわからない」という方々も、「商売の基本は一緒なんだなぁ」と共感できたりして、「自分でもできるかもしれない!」とやる気が湧いてくる流れになっていたように思います。


というわけで、ぼくとしては、「三木谷さんのいう『フレームワークをつくれ』というのは、たぶん、買い物をするお客さんの視点をメインに据えれば、期待を大きくはハズさなかろう」と考えたのでもありました。


ちょっと余談になりますが・・・楽天大学悲話(悲しい話)。

「ひとけ」という言葉は、上述のように「お客さんがいてにぎわっている感じ」の意味で使われていた、三木谷さん用語。

でも、フレームワークをつくるときに、「お店側のひとけ」も一緒にして、

 --------------------------------------------------------
 お客さんの不安を解消するキーワードに「ひとけ」がある。
 「ひとけ」には2種類ある。
  ・お店の人がいる感じ(例:顔写真、日記)
  ・お客さんがいる感じ(例:何個完売、入札○件)
 --------------------------------------------------------

のようにしたところ、いつの間にか、

「ひとけ=店長の写真を載せること」

というハウツーとして広がっていってしまいました(涙)。

おそらく想像するに、オープンしたての店長Aさんが、駆け出しECC(または先輩店長)のBさんとこんなやりとりをするわけです。

A:売上が上がらないんですが、ページを見てアドバイスを!
B:あ~、ひとけがないですね。店長の写真を載せたほうが。
A:ひとけですね! 載せます!

そして半年後、先輩店長となったAさんに、新米店長Cさんが同じ質問をします。

C:売上が上がらないんですが、ページを見てアドバイスを!
A:店長の写真を載せましょう。楽天がいう、ひとけです。
C:ひとけですね! 載せます!

みたいな流れ・・・。

そして数年後、Eコマース伸び盛りの時代に入ると、こう↓なります。

「楽天大学って、いまだに講座で『ひとけ』とか言ってるけど古過ぎるよね。店長の写真なんて載せたって意味ないって。月商3000万円超えてるお店で、写真載せてるほうが少ないよ」

「今のトレンドは、ページの上部にランキング連続入賞のキャプチャー画像をでっかくつけて、とにかく売れてる感をアピールする構成だよね」


これ↑って「ひとけ」なんですけどね・・・。

そもそも、「普遍的なフレームワーク」は、「お客さんの不安を解消できれば、買ってもらえる」というところ。

その事例(手法)の一つとして「店長の写真を載せる」があったのに、いつの間にか、手法自体がフレームワーク化されて、「店長の写真を載せることを『ひとけ』という」みたいになっちゃったわけです。

そういえば、余談といいながら思い出したのですが、この「事例」の扱いが、楽天大学立ち上げ当初のぼくを悩ませた問題の一つでもあったのでした。

というのも・・・

事例。これが曲者なのです。
特に「成功事例」というやつ。

講座づくりでテンパっているぼくを見て(見るに見かねて?)、「ECCみんなで協力して担当店舗さんの成功事例を挙げよう」ということになりました(嬉)。

胸躍らせて、集まってきた成功事例を見る仲山。しかし・・・

「これは・・・ あんまり使えなさそう・・・」

いつの時代も「成功事例」というやつは、「セールやったらボカンと売れた事例」ばっかりになっちゃうものなんですね。

よく考えてみると、そもそも講座のコンテンツに必要な事例とは、「共通言語としてのフレームワークを理解するための事例」なのでした。

たとえば、「ひとけ」の話をするときに、

「ほら、この店舗さんは、ページに○個完売と書いてます」
「こっちの店舗さんは、お客さんの声を数十件掲載しています」

というのを一緒に見てもらいながら、「これが『お客さんのひとけ』ということです」と言うためのもの。いわば、「サンプル事例」なのです。

だから、集まってきた「ドカンと売れた成功事例」は、あんまり使い物にならなかったのです。

そして、みんなから事例が集まってきたことでもう一つわかったのが、「他人の担当店舗さんの事例は、熱く語れない」ということ。

たとえば、自分の担当店舗さんが実施したイベントの事例なら、

 ・そのイベントがどんなもので、
 ・どんな反響だったか

だけでなくて、その店長さん(またはお店)が

 ・どんなキャラクターで、
 ・どんな価値観で、
 ・どんな強みの持ち主だったから、そういうイベントになったのか

まで語ることができます。

 ・ふだんからお客さんとどんな関係の作り方をしてきているのかとか
 ・その店長さんのおもしろエピソードとか
 ・ネットショップをやって、何がよかったと思っているのかとか

そういうバックグラウンドを含めて「事例」として語ることができるわけです。「体温のある事例」とでもいいますか。言ってみれば、クチコミなんですね。「私の担当店舗さんには、こんなにステキな店長さんがいらっしゃるんですよ!」っていう。

そういうのって、話している側の熱が、聞いている側にも伝わりやすいと思うんです。

それが逆に、「人から聞いた事例」だと、薄っぺらくてつまんなくなりやすい。

なので!

楽天大学の講座づくりとしては、フレームワークだけテキストに書いておいて、そのフレームワーク(骨組み)を肉付けする事例は、基本的に、講師をやる各ECCが自分の持ちネタで勝負する、というスタイルにしました。

※註:
講座づくりの手を抜こうとしたわけではありません。いや、本当に。


ここでまた少し余談になりますが・・・成功事例悲話。

そんなわけで、楽天大学で紹介される事例は、「成功事例」というよりは「サンプル事例」なのですが、

やはり、世の中によくあるセミナーなどで紹介されるのは「成功事例」であるのが一般的ということで、楽天大学で紹介された事例も「成功事例」として受け取られる方がいらっしゃいます。

なので、一番困るのが「事例が古い」と言われること。

「10年前の事例ってどういうこと? ほかにもっと最近の事例があるでしょう」とあきれる方もいると思います。

でも、たとえば、「お客さんの不安を取り除くためのアイデア」なんかは、10年前の「EC=うさん臭い」という状況下で工夫された事例のほうが、よりクオリティが高かったりするのです。

ECが普及してからネットショップを始めて、勢いに乗って売上を大きく伸ばした、いわゆる「成功店舗」と呼ばれている目立つ店舗さんがありますが、そのページなんかを拝見していると、

「うーん、なんか雑だなぁ」
「パンチ力はあるけど、接客設計図がなさそうだなぁ」
「○○できません、の注意書きオンパレードで凹むなぁ」

などと思うことがあるのです。

さて、そんなふうに地道に講座づくりが進むのと並行して、初回講座の告知がECCから店舗さんへ。

「楽天大学、開校します」

そのお知らせを聞いて、続々とエントリーしてくださる店舗さんの顔ぶれを見て、青ざめる仲山──。

「ベ、ベテラン揃いすぎませんかっ!?」
「そ、そうだね・・・」

という会話が社内で行なわれ、その結果(?)、「最初の講座は、創業メンバーで担当しよう」ということになりました。(ホッ!)

創業メンバーというのは、

 本城さん(当時の副社長)
 正忠さん(現・常務)
 杉原さん(現・常務)  ←註:2021年時点では、ぐるなび社長

の3人です。

そんなこんなで時は過ぎ、いよいよ開校前日。

よしっ!準備完了!

と思ったのが、前日というか、もう当日の深夜3時くらい。

そのとき、ふと、「あっ!ネームプレートとか名簿がいる!」と気づきました。

「横のつながり」をつくってもらいやすくするには必須アイテム! 名簿には、話題のきっかけになるように、楽天歴がわかる店舗オープン日とか、都道府県とかを入れておこう!

なんてことを考えながら、朝4時くらいまでかかって作っていた記憶があります(うろ覚え)。

教室の場所は、「代官山オフィス」にありました(ヒルサイドテラスという建物)。

講座は、1コマ3時間半。
週2日で、1日2コマ(週4コマ)開催。

初日は、R-Mailとオークションの講座でした。
11名の店長さんが参加してくださいました。

翌2日目は、トップページと商品ページの講座。
14名のご参加。

もう疲労と緊張で記憶もぼんやりなのですが、店長さん同士が、自分の店舗運営エピソードを惜しげもなく披露し合っていた印象があります。

うれしかったのは、ベテラン店長さんから講座アンケートに、

「今まで自分がやってきたいろいろな経験が、頭の中で整理できたのがよかった。ノウハウを言語化できると、次に考えたりスタッフに伝えたりするときに役立ちますね。」

「私は2年間かけて試行錯誤しながらノウハウを得てきたのに、講座の形でこんなふうにまとまっているなんて、ずるい! これから出店する人がうらやましい!」

というコメントをいただけたこと。

「よかったぁぁぁ~」と胸を撫で下ろした覚えがあります。


でもって、「フレームワークってすげえ」と改めて実感するとともに、「楽天市場のコンテンツ力=店長さんたちの魅力」だな、とつくづく思い知ったのでした。


(楽天大学が立ち上がったので、ここで一先ずおしまい。)


もうこのあとは、無我夢中すぎて、あんまり細かいことを覚えてません。

逆に、質問をいただけると、思い出すこともあるかもしれませんが・・・

読んでいただいていて、ありがとうございます!


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