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書評:ミルトン『失楽園』

イギリスにおける代表的なキリスト教文学

今回ご紹介するのは、ミルトン『失楽園』だ。

まずは概要から。

神との戦いに敗れたルシファー(ルシーファ)が地獄でサタンと化しながらも、不撓の精神で復讐に挑む物語が前半部分(上巻)、サタンの姦計によりアダムとイブが神との契りを犯し楽園を追われるに至る物語が後半部分(下巻)、と、大きく2つの物語から構成された作品である。

2つのパートそれぞれに読み応え、魅力がある。

前半のサタンの物語は悪魔サタンが主人公であり、完全にサタンを応援したくなる展開だ。復讐劇ということもあって、個人的には『モンテ・クリスト伯』のエドモン・ダンテスを彷彿させられたが、サタンにはダンテスにない魅力が伺えた。それは「リーダーシップ」の要素だ。「反骨のリーダーシップ」とでも表現できるかもしれない。

一般に、共通の敵のもとに結束するという一致団結のスタイルがある(そしてそれは、共通の敵がいなくなったりブレたりした時に瓦解しやすいものでもあるとも指摘されるもの)。

確かに上記の括弧内の但し書きは忘れてはならない要素ではあるが、共通の敵の設定は強い結束を生み出すための強力な手法であることは間違いない。それは「明確な目的を共有する」ことに等しいからだろう。

本作では、神を共通の敵と捉えた時のサタンのリーダーシップが見応えの1つになっている。復讐劇は、個人的な怒りや恨みをもとに個人的に取り組まれる物語が一般的な中、本作は珍しい要素を備えた作品だと評価できよう。


後半のアダムとイブの物語では、禁断の果実を食し「理性」を手に入れてしまった人間の醜悪性が見事に浮き彫りにされる。

アダムとイブの責任の擦り付け合いの描写はあまりに醜悪で、思わず目を背けたくなるほど。前半部分のサタンの高潔さと比して見ることで更に、人間の醜悪性が引き立つ描写になっている。ミルトンが描きたかった物語は後半にあったのではないかと思わずにはいられなかった。悪魔より人間の方が醜悪なのだから・・。

所謂「アンチ・ヒーロー」であるとか、「尊貴の裏側」であるとか、「二面性」という性質などを、遺憾なく活用し表現した名作です。

読了難易度:★★★☆☆(←やや中編)
キリスト教文学だけど取っ付きやすい度:★★★★☆
サタンカッコいい度:★★★★☆
トータルオススメ度:★★★★☆

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