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書評:宮下志朗『本を読むデモクラシー』

19世紀フランスの識字率を求めてみたら

今回ご紹介するのは、宮下志朗『本を読むデモクラシー』という著作。

フランス文学を集中的に読んでいた当時(十数年前だろうか)、ふと、19世紀フランスの識字率はどの程度だったのだろうかと気になったことがあった。検索エンジンで「19世紀 フランス 識字率」と調べたところ、本著と出会った。

因みにネタ話だが、私は著者の宮下氏のことは全く存じ上げなかったのだが、本著を読んだ数年後に、フランス文学の修辞学(レトリック)を専門とするある女性研究者さんとお知り合いになったことがあった(チョメチョメ的なお関係にも発展し得た割と親密な仲であった)。

※↑因みに独身時代の話である。

その方曰く、宮下先生はその界隈ではかなり著名な方で、一介の趣味読書人でしかないサラリーマンの私が先生の著作を読んだことがあることに大変驚かれ、目をミラーボール化してくれた。
(ミラーボールはその後結局彼女の目から剥がれ落ち、木っ端微塵に砕け散った)

さて本著であるが、19世紀のフランスにおいてどのような本がどのような人にどのようにして読まれたのかを論じた著作である。

残念ながら著者も認めているように、19世紀のフランスの識字率をダイレクトに示す資料というものは存在しないそうだ。

著者は、婚姻時のサインなどの間接的資料から識字率の遷移の推察を試みていたのであるが、有力な説ではあるものの推論の域を出ないとのことであった。
(とは言え私にとってはこの研究アプローチ自体がとても興味深く、目がミラーボール化してしまった(←まだ見ぬ宮下先生(男)にときめくKING王の図)。

しかし本著の主題は識字率ではなく、あくまで19世紀のフランスにおける読書の広がり方を俯瞰することであり、この点については新しい事実を沢山知ることができた。

ざっくりキーワードを並べると、

・貸本屋
・新聞小説
・海賊版

といったところだろうか。

貸本屋や新聞小説はよく19世紀のフランスの作品に登場するが、私にとって特に新鮮だったのは海賊版についての事実であった。

19世紀の初頭から中葉にかけては、著作権の法整備はもちろん、その概念すらもまだ形成されていなかった。対して、書物は一般に高価であったため貸本屋が流行したわけであるが、それとは別に、海外で安価に生産された海賊版が旅行ブルジョワジーによってフランスに持ち込まれた(≒逆輸入された)という流れがあったのだそうだ。

そしてこの海賊版ビジネスの中心地は、ベルギーだったとのこと。

19世紀のベルギーは戦争の中心となることがなかったためそれほど注目されることがなく、あまり知られていないことではないかと思われるが、実はベルギーはイギリスについで産業革命を成功させた19世紀の経済大国という顔を持つ。

そんなベルギーが読書文化の流布という面においても一役買っていたというのは、私にとって大変な驚きであった(目がルミナリエ級に電飾化された)。

こうして歴史をいつもとは違う切り口で紐解いてみると、また違った発見があ流ものだ。歴史を知る面白さの1つは、この多面性にあるのではないかと思う。

読了難易度:★★☆☆☆(←平易ですが読者の興味関心に依存)
眼球発光度:★☆☆☆☆(←普通しない)
読んでドヤ度:★★★☆☆(←高いけどどこでドヤるかが難しい)
トータルオススメ度:★★★☆☆

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