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書評:バーナード・クリック『現代政治学入門』

政治学初学者に向けた英政治学者による政治学入門

今回ご紹介するのは、バーナード・クリック『現代政治学入門』という著作。

本著は、イギリスを代表する現代政治学者であった故・バーナード・クリックが、これから政治学を学ぼうとする学生に向けて著した、政治学の入門書である。

原題は『What Is Politics?』。

政治とは何か。
政治的なものとは何か。

本著は、学問としての政治学の入門であるのみならず、政治そのものを理解するための指針や尺度、政治そのものに迫るための橋頭堡としても読むことができる。

イギリスを始め多くの国で読み親しまれる、大変優れた著作である。

ところで、およそ人間は社会的な動物であると言うことができる。

他の社会科学や自然科学と比した時、政治学の最大の特徴となるのは、この「人間の社会性」そのものを学問対象とする点にあるとされてきた。アリストテレスはこの点に鑑み、政治学を「諸学の王」と称したとされている。

「人間の社会性」そのものを対象にするとは、人間を「合理的な生き物」と前提する従来の経済学のような社会科学とは異なり、人間の多様性を認めることを含意する。

クリックについて目を見張るべき点は、人間の多様性を受け入れるこの学問領域においてなお、政治学を「より良き社会」実現のための技術を追求するという学問として位置付けようとした確固たる意志にあったと言えるだろう。

人間の多様性を容認しつつ「良さ」を追求するというのは、実は生易しい挑戦ではない。

「良さ」とは何なのか。
「良さ」をどのように定義するのか。

人間の多様性を認める以上、「良さ」とは元来、相対的な価値判断である。価値判断の世界において、教条的にならずに「良さ」を追求するというのは、茨の道だろう。

※余談ですが、「美しさ」を学問的に追求するのはさらに難しいというのが私の持論だ。

人間の社会性とは、大雑把に言えば、価値判断や利害があるいは衝突し、あるいは調整される様子と言えるのではないだろうか。

この「あるいは」が非常に重要である。

一個人においてですら、価値判断や利害は時と場合により変容する。ましてや社会においておや、だ。

多様な人間により多様な「良さ」が考えられる中で、あるものを「皆にとって良いもの」として選択し、コンセンサスを形成し、その実現に向けて社会を牽引していく。

社会性そのものを対象とするとは、この「ケース・バイ・ケース」性を考究するということであり、これは即ち多種多様な価値判断・利害がより公正に調整される「アリーナ」のあり方を考究することに他ならない。

そしてそれは、観念論であってはならず、常に現実に立脚したものでなければならないだろう。

本著は、政治学が多様な価値の世界で常に現実に立脚しながら「良さ」を追求してゆくという茨の学問領域であることを、これから政治学を学ぶ学生達へ伝えようとする著作であると言うことができるだろう。

読了難易度:★★☆☆☆
政治学の基本的スタンスの理解促進度:★★★★☆
政治学固有の難しさ伝達度:★★★★☆
トータルオススメ度:★★★★☆

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