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書評:グレゴリー・J・チャイティン『セクシーな数学-ゲーデルから芸術・科学まで-』

数学における数のランダムな振る舞いと不完全定理の進化

私は数学の話も好きでこうした類の本も時折読むのであるが、大学では文系だったため高校数学までしか修めておらず、最先端の数学については無知(と言うか無力)である。なので、以下勘違いしまくりかもしれないが、ご海容の程お願い申し上げたい。

20世紀、ゲーデルにより「数学は無矛盾で完全な公理的理論を得ることはできない」ことが証明された(所謂「不完全性定理」)のはあまりにも有名な話。

以降、数学という分野において、何が研究されているのか。その一つとして本作の著者チャイティンの「ランダム性」があげられる。本著は、チャイティンに対するインタビューや彼の公演を文書化したものである。残念ながら、彼の数学理論そのものに触れるところまではいかないが、現代数学において何が起こっているかの一端を垣間見ることができる。

数学で起ころうとしていること、少なくともチャイティンが推し進めようとしていること、それは物理学的手法の数学への応用である。例としてわかりやすいのは以下のような事態だろう。物理学においては、実験的・経験的・観測的に是と充分に予測し得る程度の統計的根拠を有する現象に対して、その論理的証明を待たずに定理化することがままある。数学においても同様に擬似経験的な実験的数学が開始されているという。

また、ゲーデルの不完全性定理の深化が進められている。チャイティンの「ランダム性」はその代表である。証明不可能ながらも、言わば数はどのように振舞うのか、数学における現象(数の振舞い)の研究が進められているとのこと。ここで面白いのは、先ほどの物理学との手法的接近に止まらず、物理学との現象的接近も起ころうとしているという点である。「ランダム性」は、物理学における不確定性原理(ハイゼンベルク)がまさに数学の世界においても起こり得ることを言ったものである。

以上のようなところが本著の趣旨であるが(内容は正直ほとんど理解できず)、それ以外にもチャイティン一流の数学観・知観というものがある。それは「芸術・美との親近性」である。

数学や、知、学問を、「役に立つかどうか」だけで判断するタイプの人、それが当たり前だろと思っているような人には、是非本著を通読することをお勧めしたい(いや、読む価値があるほどの本でもないか・・)。

数学・知・学問を美で捉えることのできる人、または美しさは感じずとも少なくとも美しさを感じるという事態に特に違和感のない人であれば、はっきり言って本作の1章~8章は特に読む必要はないだろう。最後の9章のみで十分である。

話は逸れるが、本著ではゲーデルの証明そのものが結局は古代ギリシアから存在する「自己言及のパラドクス」と深い関わりがあることが明確に指摘されている。ゲーデルを知らない人にはわかりやすいと思う。

ゲーデル理解は私の夢(非現実的目標?)の一つである。
ゲーデルの論証がもたらした哲学的インパクトなどを語る著作は枚挙に暇がないが、ゲーデルの論理そのものを理解すること自体は私には非常に難しい。その片鱗にだけでも触れることができたなら、私はどれほどの恍惚を味わうことができるだろう。そんな知的欲求に駆られ、ゲーデルの名を冠する本にはついつい引き寄せられてしまうのである。未だ影すら拝めないままであるが。

読了難易度:★★★☆☆
近年の数学界のトピック知れる度:★★★☆☆
セクシーとか言われるとついつい買っちゃう度:★★★★★
トータルオススメ度:★★★☆☆

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