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書評:岩井克人『会社はこれからどうなるのか』

21世紀の会社の目指すべき方向性と課題

今回ご紹介するのは、私の若い頃から啓発を受けてきた経済学者岩井克人先生による『会社はこれからどうなるのか』という著作。

今となってはやや古い本となってしまうが、岩井先生による会社論研究が軽妙なタッチでまとめられた著作である。

その核心は、会社という観念が持つ二面性、すなわち「ヒトとしての会社」と「モノとしての会社」という二面性を指摘し、その二面性から生じるさまざまな矛盾や不合理性を暴くことにある。

しかし、本書の魅力は「会社論」に留まらず、岩井先生が一貫して主張してきた「資本主義の正体」に迫る論説にもある。

また、一介のサラリーマンが今後会社という存在、資本主義という潮流に如何にして挑むべきかについて学術的な立場から様々な示唆を与えてくれる点も本書の読みどころと言えるだろう。

さて、前置きはこのくらいにしてその内容について。

岩井氏は、あくまで価値判断を抜きにして、会社という存在の一般論から、世界における日本企業の特殊性に迫る。

従来の日本企業は、終身雇用と年功序列という「慣習」によって、組織特殊的なスキルの獲得を従業員にしいてきた。また、相互持ち株方式を巧みに運用することで「ヒトとしての会社」という側面を強化することで外部からの干渉を極力排し、その内部的統制力をより強固にしてきた。そしてそれにより、目を見張るほどの大発展を遂げてきたのである。

しかし、この成功物語は氏が一貫して主張するところの「産業資本主義」時代に功を奏する戦略であると言える。

逆に言えば、IT革命、グローバリゼーション、金融革命を内包した「ポスト産業資本主義」時代においては、上記の特徴は会社という組織に硬化をもたらし、成長を妨げる因子にすらなる。

ここへきて日本企業とは対照的に、「モノとしての会社」という側面を強化する「株主主権型」の米国企業のハイパフォーマンスに自然と目が移ることになる。

しかし岩井氏は、「株主主権型」の会社運営にも限界があると突き付ける。

エンロン事件が全世界に驚愕を与えたように、株主の利益追求行動は必ずしも会社にとっての最適を齎すものではないのである。

これは、各人の利益追求が神の見えざる手により全体として予定調和的な社会を現出するというアダム・スミス的な経済原論への批判と軌を一にするものと言えよう。

会社という存在は、利益追求、殊に株主利益の追求のみに走ると、破綻する。
会社は元来利益追求を至上命題としながらも、高度な倫理性を要求されるという相反する要請に答えなければならないという、理論的にも非常に困難な存在なのだ。

「ポスト産業資本主義」時代においては、差異そのものが利潤を生み出す源泉となる。差異性を不断に再生産し続けることが21世紀の会社には要求される。しかもそのチャレンジは、グローバリゼーションというある意味では均質化・同一化の潮流と常に抗いながらのものとなる。

岩井氏の著作には毎度ながら脱帽である。

読了難易度:★★☆☆☆
会社の存在論的本質指摘度:★★★★☆
ITとグローバリゼーション時代の会社の使命指摘度:★★★★☆
トータルオススメ度:★★★★☆

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