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第103話. 四輪マーク

1982年

「やいやい、最近の車みんな同じに見える。ウチのかよそのか見分けがつかん」と本田さんが。80年代に入って、出すものだすもの成功していた頃である。「よそがウチににじり寄ってくるんです」と半ば得意げに。「いけない」と思ったがあとの祭、ますます恐い顔で「人のせいにするな」と一喝。
結局、「ホンダの4輪マークをつくれ」ということになり、私が中心になって検討を始める。ホンダの羽根マークや英字ロゴができて30年余り。4輪の「H」マークも使い始めて20年近い。いずれも創業者方の思い入れが強いもの。合意を得るのが大変だと覚悟した。
まず、今あるマークや英字ロゴが出来てきた経緯、それらの世間での認知度や評判を調査。同時に新しい4輪マークをつくるために、内部デザイナーによるもの、従業員からの公募、それに世界の著名なデザイナーへの委託と三つの方法で進めることに。
期待以上の数が集まった。面白いことに、羽根マーク派、ロゴ派、Hマーク派、それに新作派とそれぞれ同じくらいの数に。当初定めた選定要件の、ホンダらしいこと(先進感、品格)、識別しやすいこと(10メートル離れても分かる)に照らし100点位に絞った。が、そこから先が進まない。
そこで、マークのもつ「意味」を明確にする、という項目を選定要件に加えた。応募や委託の作品の中にはデザイン的に優れたものが多くあったが、「意味」や「使い方」という点では内部デザイナーの方に分があった。要件に合うものの中から最後の一つを選ぶ段になって、やっぱり本田さんに、となった。
「おまえが行って来い」とのことで、上司に連れられご自宅に。予め選んだ100点を並べ、何の説明もせず「よろしくお願いします」と。勿論その中には、選んでもらいたい「一つ」もある。神に祈った。数分経って「これかな」と。それがなんと、その「一つ」、天にも昇る気持ちだった。帰りがけ、「そうだ、F1復帰第一戦からこれを使えや」と。凄いアイデアだと思った。
用意していた説明とは、「マークの縁は三味線の箱の輪郭で、四角を基調に丸みのある張りを付けました。断面は三角です。以前教わった「○△□」の考え方に添っています」「ベンツは丸、うちは四角、そしてベンツはスリーポイント、ウチはフォーポイントです」だった。
以後、F1の連勝でマークの認知度が高まった頃を見計らい、ホンダの車には順次、新しいHマークが付くようになった。


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