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第102話. デザイナーは魔術師

1981年

本田さんから、「一貫目なんぼ(いくら)の仕事をするんじゃない。それでもデザイナーか!」と恐い目で。3代目「ホンダシビック」の企画にとりかかった頃のこと。「デザインとは何か」と常々考えてはいた。が、真剣に考えるようになったのは、恥ずかしいながらこの時からである。
日本では、大戦前からデザインという考え方はあった。が、現在のように工業生産と深く結びつき一般化したのはやはり大戦後のこと、アメリカから入ってきたものである。
その後このデザイン、日本製品の質の向上にどれほど役立ったかは今さら言うまでもない。最近は、誰もがデザインという言葉を使う。その良し悪しや好き嫌いは、「物」を買う時の「物差し」になっていると言っていい。
「デザイン」を辞書で引くと、「企画」「計画」「設計」などとある。一文字ずつに分解すると「企てる」「画する」「計る」となり、あまり芳しくない印象がある。取りようによっては、良からぬことをするのがデザインとなってしまう。 
デザインには、一般的に「明るくて、今的で、格好いい」とのイメージがあるはずと、そんな思いでさらに見ていくと、突然、「陰謀する、謀る」というのに出くわす。とすれば、デザイナーとは「陰謀家」で、人を騙す悪い奴と言うことか。
じゃ、デザイナーはどんな「謀りごと」をするのだろうか。例えば200円の材料を加工し、何かの商品に仕立てて1000円で売ったとする。200円のものを1000円で売る訳だから「騙している」と言われても仕方がない。
が、それを買った人に喜んでもらえるなら、決して騙したとは言われまい。むしろ感謝されることであろう。200円と1000円の差額が「付加価値」になる。デザイナーは「一貫目なんぼ」でなく「付加価値」をつくる人。こう考えれば、世のため人のために大変良いことをする人だということになり、幾分かは気分も楽になる。
それにしても人様を騙すのだから、それなりの覚悟と腕が必要。魔術師が最後までお客さんを騙し続け、喜ばせ、それでいて決してタネがばれないのには驚かされる。それに帰りがけには、もう一度見てみたいと思わせるのだから大したものだ。
デザイナーも魔術師のように「騙しの技」を磨かねばならない。世阿弥の「秘すれば花」と言うところか。こんなことを考えながら開発した3代目シビックシリーズには、知恵を絞りに絞った「マジック」が一杯詰まっている。

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