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世界一周物語16話"番外編" 世界一周へ向けて、働く、働く、働く、貯金、貯金、貯金。の日々。

イソマツの店長、タスクさん

タスクさんは、今まで田舎でぬくぬくと生きてきた自分が出会ったことのないタイプの人で、すごくカッコよかったのを覚えている。前髪にちょろっと金髪が入っていて、大分強面の印象。

そのタスクさんに、面接をしてもらい、無事合格し、五十松で働く事に。ここのお店はすごく接客に厳しく、色々な事を教育してもらった。
最初の1ヶ月はずーと洗い物の日々。ホールに入ることも許されない。キッチンに入る事も許されない状況だった。
少年は最初はみんなこんな感じなのだろうと呑気に仕事をしていた。
しかし、あとで話を聞くと、アイツをホールに出すと、とんでもない迷惑をかけるから、洗い場から出さないでおこうとなっていたらしい。

そんな話もつゆ知らず、少年は呑気に洗い物の傍ら、洗い場に運ばれてくる食べ残しを隠れて食べていた。
洗い場から出られない自分は別に何とも思うことなく、洗い物を楽しくやっていた。何より、お客さんが残した料理が洗い場には運ばれてくる。
その料理を食べながらの洗い物はお金ももらえるし、お金ももらえるしで一石二鳥だった。

少年がお店に入って1ヶ月が過ぎた頃だろうか、事件は起きた。
少年はいつも通り、洗い物をしならがら、余った料理を食べていた。
ボーと洗い物をしながら、つまみ食いばかりする僕を見かねたのだろう。
スタッフのリョウタさんが、それを見かけた自分の頭の叩き、僕に対して『お前何しとんねん』と怒る。
そして、それにカチンと来た自分は反発。そこからフテブテしい態度とって、その日の営業を過ごす。
良太さんにお店の裏に連れて行かれ、お前ほんまにやる気あるんか?と懇々と説教される。
しかし、少年は当時、調子に乗っていた。全く、話は入って来なかった。
なんで、俺が怒れなあかんねんと思いながら、説教を聞いていた。
良太さんはそんな自分を見兼ねたのか、店長のタスクさんに今回の件を報告した。

そうしたら、店長のタスクさんが少年に対してブチギレ。
今まで、一回も怒られる事なく、優しく接していてくれたタスクさんに怒られた。
強面のタスクさんは自分を含め、他のスタッフに対しても、冗談は言っても、怒っている姿を見たことはなかった。
そんなタスクさんは、仕事が終わって、更衣室に向かう僕を引き止めて、『お前どう言うことや』と声を荒げて怒鳴る。
お前このまま、ず〜と洗い場いるつもりか? お店やりたいと思って入ってきたのとちゃうんか?と。
お店へ働き始めて1ヶ月が過ぎようとしていた少年を見て、堪忍袋が切れたのだろう。

なぜタスクさんがそこまで怒ったのかを後で聞くと、1ヶ月も洗い物だけするアルバイトは前代未聞らしく、副店長のケイさんがアイツをどうするん?
みたいなことを言われたそう。
だけど、店長のタスクさんは自分を頑張って、ホールに出せるようにまで教育しようと思ってたらしい。

つまりは、自分の為に色々と動いてくれたらしい。
そんな仕事もできない、給料泥棒の少年が訳もわからい行動を取って、怒りが爆発したらしい。
あとでこの一件をタスクさんに聞くと、少年は来なくなると思っていたらしい。


タスクさんの読みは甘かった。


少年は野球部出身。怒られのは慣れている。
野球部時代は、歩くだけで怒られているんじゃないかと言うぐらい常に怒られていた。
罵倒は浴びせられるし、バットは飛んでくるし。お母さんに入れてもらったお茶の入った水筒は先輩に全部飲まれるし。
そんな理不尽の塊の野球部時代を経験した、少年は怒られるのは何とも思わない。

それとは裏腹にスイッチの入った小崎。
このままではいけないと思うようになる。一生懸命に取り組むようになる。
以後、少年は仕事はできないけど、他のスタッフの誰よりも早く出勤した。
そして、やる気でけはあったので、お客さんの迎え入れも、挨拶も大きな声で言ってた。

そして、やっとホールに出させてもらうようになる。
それでだんだんとこのお店で働くことが楽しいくなる。
お店に入って、全く口を聞いてくれていなかった副店長のけいさんがだんだんと口を聞いてくれるようになる。
そして、だんだんといそまつのスタッフの人が可愛がってくれるようになった。
ホールに出られるようになったし、キッチンの揚場も任せてもらえるようになった。
任せてもらえる仕事が増えていく度に、少しだけ時給も上がっていく。
今まで経験した事のない働く楽しさがあった。

スタッフの人と営業終わりにご飯へ連れて行ってもらった。
深夜2時の焼肉。
店長のタスクさん、社員のそうへいさんと僕。
営業終わりで、みんな疲れている。
その中の焼肉。タスクさんはお酒が入って、だんだん眠たそうな表情。
もちろんそうへいさんも眠たそな表情。
眠たそうな表情から、寝るに変わる。
大体、ご飯へ行くと、誰かは寝ていた。笑
少年は寝た2人を差し置いて、1人で焼肉を焼いている光景も今までも覚えている。

働く楽しさを教えてくれたイソマツ

世界一周へ向けて働く日々は、世界一周をしたこと以上に楽しい日々だったように感じる。
そこで経験した働く楽しさ。自分が尊敬する人達と時間を過ごす楽しさ。
目標に向かう充実感。そういったものがあったように感じる。
もし、世界一周へ行くと言う目標がなかったら、怒られた時に多分やめていただろう。そして、あそこまで一生懸命に働けていなかっただろう。
目標があるから、あそこまで自分を追い込めたのだろう。
目標を達成することに意味があるかどうか分からない。
そして、目標を達成できるかどうかは運やタイミングがあることかもしれない。

しかし、目標を掲げて、周りの人に宣言して、自分を逃げられないようにして、その目標に向かって歩んでいく、その過程にこそ楽しさや充実感ややりがいみたいなものがあるのでは? 

少年は思った。

目標は何でもいいのかもしれない。
独りよがりのものでもいいのかもしれない。
他人に理解されてなくてもいいかもしれない。
将来の何の役に立たなくてもいいのかもしれない。

まずは目標を立てて、そこに向かう過程で、
目標が入れ替わることもあるかもしれない。

夢や目標がなくても、生きていける。
ただ、夢や目標があると、毎日が生き生きとし出すのかもしれない。


少年は当時のイソマツの日々を振り返って思った。

次回に続く。

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