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仏像にはUXの秘密が詰まっている

先日、京都の東寺に行って、初めて「立体曼荼羅」を見て、仏像にハマってしまいました。空海が曼荼羅の世界を「立体=仏像」で作り上げたものですが、その圧倒的な迫力に、まさに仏教アベンジャーズばりの凄さがありました。「世界よ、これが仏像だ」です。

そんな仏像に興味をもって、いろんな本を読み始めたなかで、仏像づくりの秘密がすごすぎるので、ここで紹介したいと思います。仏像にはたくさんのUX(ユーザーエクスペリエンス)が詰まっていました。

参考文献はこちら。『仏像とお寺の解剖図鑑』です。
有名な解剖図鑑シリーズで、軽い内容かと思いきや、仏像の秘密がたくさん書かれています。

1.まずは、「足」をみるべし

まず、仏像を見るときに大事なのは、「」。
仏像には立像と坐像がありますが、その足の向きや形に意味があります。特に立像の片足。よーく見ると少し前に出ています。これは「積極的に行動しようとする仏の気持ち」が表れているそうです。この細かな作り込みが、仏像のUXを支えています。

2.次は「目」を見るべし

続いて、「目」。
仏像は大きく4階層に分かれます。如来/菩薩/明王/天部
如来は悟りをひらいたあとの姿、菩薩は悟りをひらかずに、あえて人々のための救済に向かう修行の仏、明王は怒りの形相で導く仏。そして、天部は仏界を守護する神々です。

このうち、如来・菩薩・明王の違いが「目」に表れます。
如来はすでに悟っており、壮大な宇宙を見つめています。なので、瞳が若干外側にあり、どこを見ているでもないような目つきです。宇宙の彼方、三千世界をみているのかもしれません。なので、如来を前にしてお参りしても、目線は合いません。

一方で菩薩は、人々の救済のための仏様です。参拝者の目を優しい眼差しで見てくれます。なので、瞳は中心にしっかりと添えられています。悩みを聞いてくれそうな表情が際立ちます。

最後の明王は見た目も少しイカツイ、筋骨隆々系の仏様です。人間の心の闇や邪悪なものを見つめているようです。なので、瞳は寄り目気味で、こちらをグッと睨んでいるような目つきです。

目を見るだけで、仏像と参拝者の関係性まで立ち上がってきます。

3.前のめりは神々しさのため?

横から見ると、不自然なほど前のめりな仏様がいます。これは釈迦の白毫(眉間にある光を放つという毛)が光り輝くための仕掛けです。上の図のように、台座の銅鏡から反射した光がちょうど白毫に当たるように演出されています。ここに神聖さの秘密が隠されています。

浄土寺はもう少し大きなスケールで光を操っています。寺内の池を反射板にして、西日が差込、仏像を照らすように設計されています。神々しさの裏には照明技術のテクニックが隠されています。

4.池はこの世とあの世のはざま

お寺内の本堂や仏塔の位置はとても大事です。これを「伽藍配置(がらんはいち)」と呼びます。配置の仕方に歴史や意味がたくさんありますが、上の図は浄瑠璃寺のマップです。池を境にして、三重塔と本堂が対局に位置しています。これは、此岸と彼岸の境を意味しており、此岸側の三重塔のふもとからお参りすることで現世祈願を意味しています。お寺にいったら、池の場所に注目してみましょう。

この平等院も同じです。十円玉で有名な鳳凰堂も池の向こう側から見ることで、この世からの参拝となります。昔は池の上に仮屋があったそうで、あの世の近くで参拝することも認められていたそうです。どこから見るかによって、仏様の表情も変わる。参拝者の動きでUXも変化するということです。彼岸と此岸のUXは仏像にとって、とても重要だったようです。

5.光のコントラストに注目!

福島県にある「白水阿弥陀堂」はとてもユニークです。阿弥陀如来のまわりを回るというUXになっています。如来の両脇には観音菩薩と勢至菩薩がいます。観音菩薩は「0時や冬至」を指す「子」を、勢至菩薩は「正午や夏至」を指す「午」を象徴しています。

つまり、観音菩薩から勢至菩薩へは冬から夏へ、もしくは、夜から昼へを表し、勢至菩薩から観音菩薩は夏から冬へ、もしくは、昼から夜へを表しているのです。この円環を感じるために、観音菩薩から勢至菩薩ルートは明るく、勢至菩薩から観音菩薩ルートは暗い照明になっています。

1年の移り変わり、生と死の繰り返しなど、うつろう生や輪廻転生を体験することができます。その中心に悟りをひらいた如来がいらっしゃいます。こんなことを知ってしまうと、仏像を単なる木像とは思えなくなってきます。

6.まるで動いて見える仏像

これはとてもおもしろいUXです。
そもそも仏様はロボットのように動いたりはしません。しかし、参拝者が動くことで、仏様も動き出します。ここでは、「投地礼拝」による仏像の秘密が紹介されています。仏教で最も丁寧な礼拝の方法です。

投地礼拝は、普通は参拝者の信仰心の厚さを表現していると考えられていますが、この仏像の前では別の意味を持ちます。伏せた位置から次第に顔をあげることによって、台座の蓮台からまるで仏様が表れてくるような体験をすることができるからです。最後に身を起こすことで、仏様の顔を拝むことができます。

これこそ、究極の仏像UXと呼べるかもしれません。

7.炎と仏の融合UX

最後に紹介したいのは初詣で有名な「成田山新勝寺の不動明王」です。右上の画像だけ見ると、異様な青い肌真っ赤な光背が目立っています。これだけで凄みは伝わってきますが、実はこの配色は「護摩祈祷」とセットでこそ、真価を発揮します。

護摩祈祷とは、護摩壇で護摩木を燃やし、火中に供物を投じて祈願するものです。あらゆる障害をこの炎が燃やしてくれます。この護摩祈祷の炎越しに不動明王を見てみると、青と赤の配色の意味がわかってきます。

まず、赤い炎と光背が融合し、炎がより大きく見えます。さらに炎の煙が青肌に重なり、異様な存在感を表します。赤、黒、青が混ざり合い、行者は不動明王の中に入り込んだような感覚すら覚えます。

寄り目で人間の煩悩や邪念をにらみつける明王の威光は、この炎によってより行者の心の中に入り込み、邪気を払ってくれます。ここまでの仏像UXは他にないかもしれません。

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いかがだったでしょうか? 
今回は『仏像とお寺の解剖図鑑』の一部をご紹介しましたが、仏像・お寺のUXの凄さは伝わったでしょうか。やはり伝統は侮れません。運慶快慶のような仏師や重源のような寺社プロデューサーたちは考え尽くして、仏の教えを立体や空間に変換してきました。仏教の神聖さ、信仰心、世界観を伝えるには、まだまだUXの秘密がありそうです。


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