【読書感想文】僕の人生には事件が起きない(岩井勇気著/新潮社)

うちはTBSラジオ「ハライチのターン!」のリスナーでハライチファンなので、躊躇することなく購入。お笑いコンビ、ハライチ岩井勇気氏のエッセイ集。僕はハライチをお笑い界のニューエイジだと思っている。

地味な方だとしばらく思っていたが、派手なばかりが面白いわけではないことを気付かされた。大声でツッコミをしなくても、すごい特徴がなくても、裸になって股間を隠さなくても、芸は達成できる。僕、こういう視点をもてる才能がほしかった。

岩井さんは今のポジションを、相方の澤部さんの影響だと言っている。求められることを100点で返すことができるジェネラリストの澤部を見て、そこにはないオリジナリティやユニークさで勝負しようとしてきたらしい。(その反面、相方のことを”中身は無”だと言っている様がまたむちゃくちゃに面白い)。

誰もが見過ごしてしまう日々のちょっとした思いつきや思考回路が垣間見えるのがクスッとするポイントなのだろう。ひとつ、ちょっと長いけど特に好きだった一節をご紹介。

風呂上がりの水気を全部吸い取った後、珪藻土に乗り続けていたらどうなるのか。もしかしたら体についた水気を吸い取り切った珪藻土は、水分を求め、僕の足の裏から体内の水分を吸い取り始めるかもしれない。いつも珪藻土が水気をスーッと吸収する時のあの感じからすると、それもあり得るような気がしてくる。
足の裏からいつの間にか水分を吸い取られた僕は、みるみる痩せ細り、気付けば珪藻土から降りることもままならないほどガリガリになってしまい、ついには骨と皮だけとなった遺体として数日後に自宅で発見されるのである。珪藻土とは恐ろしい素材だ。僕は怖くなって、すぐさま珪藻土から降りた。(p.82〜83)

一朝一夕では習得できない想像力。デザイナーが日々デザインを観察するように、音楽家がいろんな音に耳をそばだてるように、お笑い芸人もいざというとき面白く喋れるように日々を観察しているのだと思う。

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