【読書感想文】静寂とは(アーリング・カッゲ 著/辰巳出版)

タイムラインで目に留まり、「静寂」というキーワードはタイプなのでそのままAmazonで購入。

著者は、世界ではじめて三極点(北極点・南極点・エベレスト山頂)に到達したノルウェーの冒険家アーリング・カッゲ氏。「静けさとは何か。それはどこにあるのか。それがなぜいま重要なのか」をテーマに、自身が静寂について考えた随筆が並んでいる。

「静かな場所」に憧れる。なんで憧れるんだろう。誰にも注意を払わなくてもいいし、自分と一対一になれるからだろうか。たしかに自分だけのペースというのは気が楽だ。でも、静かなことにはもっと意味や効能がある気がする。この本では「静けさは贅沢」と表現している。

誰にも邪魔されず、ひとりで何かに没頭できるという以上に贅沢なことがあるだろうか。(p25-26)
静けさそのものは豊かで、贅沢なものであり、新しい思考法の扉をあけるための鍵になる。(中略)それはより豊かな生活を送るためのカンフル剤となる。つまり、テレビをつけて世界を知るより、人生をより深く味わうことができるということだ。(p.33)

没頭することがよいということは前に本で読んだことがあるし、実体験としても心地がいいことを感じている。「音」というものは形がない分、知らずのうちに耳の中に入り込んで、心を雑音だらけにしてしまう。なんだかもやもやするときは、知らないうちに雑音にまみれてしまっているかもしれない。

しかし「静寂」には別の側面もある。

沈黙には大海原や大雪原のような峻厳さがある。それに好奇の念を抱かない者は、そこに恐怖を感じる。多くの者が沈黙を恐れている。いたるところに音楽があるのはそのせいだ。(p.13)

静かなことは贅沢であると同時に恐怖の対象でもある。たしかに無音の状態では、10分もいられない気がする。

以前読んだ「デジタル・ミニマリスト」に書かれていたような内容も記述されていた。

大事なのは考えすぎるより経験すること。それぞれの時間を充実させること。ほかのヒトやモノを通して生きないこと。走ったり、料理をしたり、セックスをしたり、勉強をしたり、おしゃべりをしたり、仕事をしたり、読書をしたり、ダンスをしたりしているときに、外の世界を締め出し、自分ひとりの静けさをつくりだすこと。(p.47)

もしかしたら「静寂」というのは聴覚だけではなく、視覚や味覚などにも影響されるのではないか。誰もがモニターを持ち歩く時代、目に入る言葉が多いことも雑音であるだろうし、舌に残る苦い珈琲の残り香も気付かないうちにノイズになっているような気もした(ガムを噛んだり歯磨きをすればすっきりする)。心配事が頭に残っていても静寂とは言えない。

そんな静寂を表現しているかのようなハイデガーの一文。

世界のなかに入ったとき、世界は消える。/マルティン・ハイデガー(p.17)

著者はこの感覚を船上でクジラと対峙したときに感じたという。全身が世界のなかに入り世界と一体化している状態。そういう気分に入り込む時間が多ければ多いほど、人生は豊かになっていくのだろう。

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