【読書感想文】シンプルだから、贅沢(ドミニック・ローホー 著/講談社)

スマホが登場してSNSが社会に普及し情報に触れる時間が増えた今、人間というもの、人間という営みを再考するタイミングなのか。「シンプル」は思想として拡散し始め、ある種のイデオロギーになりつつある。果たしてシンプルとは何か。僕は静・ミニマリズムなどにあたるキーワードを好んでいるので、シンプルには憧れる。

本書の目次に目を通すだけでも、この本の趣旨はほのかに伝わってくる。

・選択肢が多いほど幸福度は下がる
・私は今、高価なものが宝物ではなくなった
・過剰なものや情報が上質な生活の邪魔をする
・品のよさとは「多く」よりも「少なく」
・上質なものと暮らすと、よりシンプルになれる
・「これだけでいい」と思えるものしかいらない
 (本書目次より抜粋)

物や情報が多くアテンションエコノミーに支配される社会の中でシンプルを実現することは難しい。たしかに人間の営みはもっとシンプルであるだろうし、今の社会は複雑すぎる。キャンプが流行ることもそうだけど、人間性を取り戻す動きが少しずつあるのだと思う。

この本で印象に残ったのは、高価なものを贅沢なものとして扱っていないことだった。目次内で「私は今、高価なものが宝物ではなくなった」とあるように、少し力の抜けた素直な気持ちが吐露されている。

「ものは少なく」は今までどおりですが、高価な品を所有するのが嫌になったのです。これは私の富に関する新しい考え方です。高価な品を保存し、手入れをし、その責任を負うことを負担に感じるようになってきたからです。(p.33)

今は安価で上質なものがたくさんある。つまり「シンプルで贅沢」を達成するにはとてもいい環境かもしれない。無印良品が重宝されるのもそういう気持ちが足元に広がっているからだと思う。

30代になってから、20代のときに買ったものを見直したいと思いはじめた。見ている世界も経済的にも選択肢も今ほど多くなかったときに選んだ物、もちろん愛着があるものは手元に残しつつ、そうでないものは手放す勇気をもつ。最初からシンプルであれたらいいなと思うけど、やはりそうもいかないようで。

最高のものを知り、所有するものは最小限にとどめる。「少なく贅沢に」暮らすためには、その段階にいたるまでの失敗を恐れないで。(p.139)

日々にもっと愛着を持って過ごしていくために、数十年かけて少しずつシンプルの道を歩んでいきたいと思う。

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