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23年1月豪雪、滋賀県民としてあのとき感じたこと

滋賀県民にとってのJRの存在、あの日起こったこと

2023年1月24日、前例のない寒波が日本列島を襲い、各地で雪害をもたらしました。特に京都府や滋賀県では短時間で積雪量が急増し、JR琵琶湖線や京都線を中心に駅間にて列車が立ち往生したことは、皆さんご存知の通りかと思います。

私にとって今回の立ち往生は決して他人事ではありませんでした。というのも、滋賀県民にとってJRは生活になくてはならない存在であるためです。私自身、滋賀県に住みながら、仕事で京都府や大阪府へ出向く際は必ずJRを利用しています。何より、滋賀県には大津や草津、守山のような、京都・大阪といった都市圏のベッドタウンとして発展している市町村が多く、こうしたベッドタウンへの人口流入により、滋賀県は少子高齢化が進む今日の日本でも珍しく人口増加の傾向にある自治体の一つでもあります。

JR西日本にとっても、滋賀県内の路線、特にJR琵琶湖線は直接的な競合相手こそいないものの、その利用者数は都心部の路線とも引けを取らないものです。2021年度の米原〜京都間の平均通過人員は1日90,470人ですが、ほぼ同等の平均通過人員である区間としては、東西線(京橋〜尼崎 100,094人/日)や阪和線(天王寺〜日根野 118,050人/日)といった(ほぼ)大阪府内の路線が挙げられます(注1)。滋賀県と大阪府とではそもそもの人口に大きな差があることを考えると、これだけでも滋賀県がいかにJR線に依存しているかがお分かりいただけるかと思います。そんな滋賀県のベッドタウンとしての発展、利便性向上のために必要不可欠なJR線で起こったトラブルは、一滋賀県民、そして一鉄道ファンである私に大きなショックを与えました。

(注1)…『データで見るJR西日本2022』pp.56-59
https://www.westjr.co.jp/company/info/issue/data/

通勤やレジャーなどあらゆる移動のためにJR線を重宝する滋賀県民にとって、列車の運休は生活に多大な影響を及ぼします。今回の豪雪においても、事前に列車の運休を知らせる計画運休が予告されていました。1月23日 18:43にJR西日本列車運行情報サイトが更新され、翌1月24日にJR琵琶湖線、JR湖西線を含む関西圏各路線において運転取りやめの可能性がある旨が発信されています。このうち、JR湖西線は沿線の地形に起因する強風により何度も輸送障害に悩まされてきた路線であり、1月24日0:00発信の情報にて早速近江舞子駅以北の運転が昼過ぎに終了される旨が伝えられ、15時過ぎには同区間での列車の運行は全て終了しました。湖西線はかねてより強風による列車の運転見合わせが多い上、計画運休時には真っ先に運行が終了されるのが常であるため、沿線民、特に高島市民は今回も湖西線の運休に泣かされる結果となりましたが、後々の状況を考えれば、この早期の運転取りやめの決断は正しいものであったと思います。実際、15時過ぎの運行終了直前には一時的に強い風を観測し、30分程度運転見合わせが発生していましたから、他路線に比べ運転終了が早すぎるとは言え結果的にはこのあたりが妥当だったのかもしれません。

そして湖西線と入れ替わるようにして、15時ごろから関西圏では強風による輸送障害、特に架線への飛来物付着に伴う運転見合わせが頻発します。大阪環状線や学研都市線に続くように琵琶湖線でも架線への飛来物付着により15:05に運転見合わせが発表されます。この飛来物の除去が完了し、運転を再開したのは16:26でしたが、この時点で、琵琶湖線のみならず京都線、神戸線へも列車の遅れは拡大していました。ちなみにこの時私は大阪府の北摂地域に滞在していましたが、大阪では青空が広がっており、この後の豪雪が想像もつかないほどの快晴でした。今思えばあの快晴が我々に豪雪に対する少しの油断を与えたのかもしれません。

そしてこの後、様々な輸送障害がJR線を襲います。JR西日本の列車運行情報サイトには履歴が残っていませんが、17:30ごろにはJR京都線の高槻駅周辺で吹雪による視界不良のため、高槻駅〜京都駅間が一時運転見合わせとなり、私自身もその影響を受けました。京都方面の新快速が茨木駅の通過線に抑止されているのを目撃しています。

この日の運行情報

その後も雪が止むことはなく、むしろ悪化の一途を辿りました。JR西日本が発表したプレスリリースによれば、19時ごろ向日町駅構内にて発生した分岐器転換不良のため20時ごろから列車の運転を順次見合わせることとなります。続けて京都駅、山科駅でも分岐器の転換不良が相次いで発生し、列車の進路が塞がれたことで多くの列車が足止めを食らうこととなったのです。急変する天候に振り回されるうちに列車のダイヤも壊滅的なほど乱れ、分岐器の転換不良がとどめを刺す格好となりました。

最終的に、分岐器の転換不良に起因する駅間停車列車の数は高槻〜山科間の上下線であわせて15本にものぼりました。JRプレスリリースによれば、立ち往生した列車の中には、京都発堅田方面行きの1820M、大阪方面から湖西線に向かう快速3804Mもありました。特に3804Mは夕ラッシュ時間帯に大阪から湖西線方面へ直通する唯一の列車で、大阪方面から湖西線へ帰宅する沿線民は大阪駅で30分前から列に並ぶほど重宝する存在と聞いたことがありますから、ひょっとするとこの日も多くの沿線民が乗っていたかもしれません。そして何よりも、1820MはTwitterを見る限り立ち往生した列車の中でも極めて高い混雑率の列車であり、また多くの体調不良客を出した列車でもあるようです。平時より湖西線は琵琶湖線より運行本数が少ない上、ダイヤが大幅に乱れている状況の中では、たとえどんなに混雑していようと今いる列車を逃さまいとする乗客の判断は自然なものでしょう。そして何より、利用客の多い琵琶湖線の新快速列車に乗っていた滋賀県民も決して少なくないはずです。京都や大阪など、ただでさえ遠距離を移動する多くの滋賀県民が、このような立ち往生に巻き込まれてしまったことによる疲労は、同じ滋賀県民として想像するに余りあるものです。

湖西線の運行情報 近江舞子以北の運転は早々に取り止められた。

あくまで私自身の考えですが、今回のトラブルは雪が降り始めた段階ですでに防ぎようがなかったように感じます。今回は夕方からの降雪にもかかわらず、京都府では1日で15センチの降雪を観測するほど記録的かつ短時間の降雪でしたし、昼過ぎまでは晴れ間も見えているほどでした。こうした自然災害については現代の技術をもってしても予測できることはほんのわずかですし、自然災害を前にした我々は無力なものです。そして先にも述べましたが、私自身、報道で知っていたにもかかわらず、昼過ぎまでのあの快晴の空を見て、直後の急激な天気の変化を想像できなかったのです。ただ唯一できることがあるとするならば、現代の技術をもって予測できるわずかなことをもとに、常に最悪の事態を考えて行動することではないでしょうか。つまり、私の言うことではありませんが、JR西日本もまた最悪の事態の想定が甘かったのではないか、ということです。詳細な対応経過はここでは言及しませんが、計画運休の時間帯から、ポイント復旧までの格闘、そして乗客を降車させる判断に至るまで、全てJR西日本の当初の想定では対応しきれないほど、実際の状況は過酷なものでした。

並行する私鉄と比較して、雪に対する準備不足や立ち往生後の対応の遅れに対する議論は盛んになされていますが、ここでは触れません。いずれにせよ、現実というものは我々の想定をたやすく上回ることが常であり、それに備えて日々行動することが重要です。ただ、そのことを理解はしていても、なかなか実行に移せないのが人間の性です。JRを利用し長距離の移動を日常的に行う私にとって、JR西日本という存在は当たり前のものでしたし、それだけに自分が頻繁に利用している路線でこのような事態が起こったことに大きくショックを受けました。そしてこうしたトラブルが発生したとしても、滋賀県に住む限り、私自身はこれからも生活の移動手段としてJR西日本を利用し続けるでしょう。それだけに、今回の出来事でJR西日本の対応の不手際を責めるというよりもむしろ、今後悪天候が予想される日の移動について、今一度慎重にならなければならないという自戒の念を感じました。利用者としてJR西日本による原因究明や安全対策にも注目していきたいところですが、まずは利用者である私自身でも、天候の悪化が予想される日においては情報収集を欠かさず行い、普段何気なく行っている移動に細心の注意を払おうと改めて肝に銘じたのでした。

22時過ぎの京都駅ではすでに当日中の復旧が断念されていたようである

最後に、今回立ち往生の列車に乗り合わせた方々へお見舞い申し上げます。そして、ご体調を崩された方の一日も早いご回復をお祈りいたします。

そして、JR西日本を日常的に利用する一滋賀県民として、JR西日本の日頃からの列車運行に改めて感謝するとともに、同社による今回の教訓を活かした安全策の改善・運用を願ってやみません。


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