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The Beatles / Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band

数日過ぎてしまいましたが、6月1日は、ロック史において特別な意味をもつ日です。

1967年のこの日、ビートルズは8枚目のアルバム『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』(以下、『ペパーズ』と略)をリリース。カラフルな色合いのジャケットに包まれたこの作品は、その後のポピュラーミュージックの方向性を左右する「問題作」となりました。

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「ビートルズ扮する架空のバンドのショー」というコンセプトのもと、延べ700時間をかけて製作されたアルバムからは、1枚のシングルもカットされることはなく、『コンセプト・アルバム』の先駆けとなります。

何もかもが規格外だったこのアルバムは、結果的に「20世紀最高のアルバム」という評価を確立するに至ります。


ただ、このアルバム、1曲1曲を取り上げてみると、何がそんなに特別なんだろう?と思うことも多いです。

正直、曲の強さという点では、『ラバー・ソウル』『リヴォルヴァー』の方が上という気もしますし、全体のまとまりという点では『アビー・ロード』の方が上だと思います。

実際、知り合いのビートルズ好きに「一番好きなアルバムは?」と聞いた時、『ペパーズ』と答える人はかなりレアです。

そういったことを思いながら、全曲通しで聴かなければ意味がないトータル・アルバムを、あえて1曲ずつ聴いていきたいと思います


1曲目は、タイトル曲の「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」

ショーのオープニングは、バンドの自己紹介です。

ずっと当たり前のように聴いているので何も感じませんが、ビートルズのアルバムのオープニングが、オーケストラ開演前の調律音聴衆のざわつきって、冷静に考えてみればすごいことだと思います。

以前書いたように、アルバムリリースの直後に、ジミ・ヘンドリックスがライヴでこの曲を演奏しています。こういったエピソードが、このアルバムを神格化させている要因であることは間違いないでしょう。

2曲目は「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」

1曲目のラストで紹介された「ビリー・シアーズ」に扮した、リンゴがリードヴォーカルをとります。

僕が調子っぱずれに歌ったらどう思う?」って、リンゴに歌わせるのもすごい話です。まあ、リンゴの場合、調子っぱずれというよりは、ほのぼのしててロックっぽくないという感じですけど。

ジョンとポールのコーラスが「コール&レスポンス」を繰り広げる部分が何とも味わい深い曲です。

ジョー・コッカーがこの曲をカヴァーして、UKナンバー1ヒットとなっています。

3曲目は「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」

タイトルの頭文字をつなげるとLSDになる、という点が取りあげられますが、3拍子と4拍子を行き来する、ロウリー・オルガンのサウンドがドリーミーな曲です。

こちらは、エルトン・ジョンがカヴァーしたヴァージョン(ジョン・レノンも変名で参加)が、USナンバー1(UK10位)になっています。

6曲目は「シーズ・リーヴィング・ホーム」

数少ない「歌以外の楽器演奏ビートルズメンバーが1人も参加していない曲」ですが、ストリングスのアレンジをジョージ・マーティン以外の人物に依頼したという、アンハッピーなエピソードを生んだ曲でもあります。

ハープを含んだサウンドが美しい曲ですが、ジョージ・マーティンだったらどんなアレンジにしていたのかは、永遠の謎です。

7曲目は「ビーイング・フォー・ザ・ベネフィット・オブ・ミスター・カイト」

歌詞は、ジョンが骨董屋で見つけた古いサーカス団のポスターから引用しています。

間奏の効果音は、パイプオルガンを録音したテープを適当な長さに切り適当につなぎ合わせて再生することで創り出しています。雲の上を漂うような独特の浮遊感のあるサウンドとなっています。

9曲目は「ホエン・アイム・シックスティ・フォー」

クラリネット2本とバス・クラリネットが生み出すサウンドが、何ともノスタルジックな曲です。

この曲、幼稚園時代に見ていた「ひらけ!ポンキッキ」の中でガンガン流れていました。当時はビートルズの曲ということを知らずに聴いていたので、『ペパーズ』を初めて聴いた時、「この曲だったんだ!」と、かなり驚いた記憶があります。

12曲目は「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド (リプライズ)」

オープニングナンバーのリプリーズ・ヴァージョンですが、この曲を聴いていると、このバンドのサウンドの要は、間違いなくリンゴのドラムスだったと確信します。

この曲で、架空のショーは本編が終わり、拍手喝采の後、アンコールとなります。

13曲目は、「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」

この曲については以前も書きましたが、まあ、何から何まで常識外れな曲です。

間違いなく言えることは、この曲が無ければ、『ペパーズ』が神格化されることはなかったでしょう。


こうして改めて聴いてみて、「やっぱりすごいな~!」と思うのは、既にロックバンドの頂点に君臨していたビートルズが、そこまでやらなくていいのに、と思うようなことを、いちいち「実験」して、そしてことごとく「結果」を出している点です。

そして、フラワー・ムーヴメントの頂点「サマー・オブ・ラブ」の1967年6月に、一目見たら忘れることのない極彩色のジャケットに包まれてリリースされたことで、この時代の「象徴」となり、永久不可侵な作品として扱われることになったのだろうと思います。

まあ、当の本人たちは、わずか1年後には、「そんなこと、あったっけ?」と言わんばかりに、コンセプトなど微塵もない30曲を、真っ白なジャケットに包んでリリースするわけですが。(それはそれで、また、すごい話ではあります。)


そんな『ペパーズ』評に、2020年大きな衝撃が走りました

ローリング・ストーン誌が選ぶ「Greatest Albums of All Time」の2003年版と2012年版では「指定席」の1位に君臨していた『ペパーズ』が、2020年版では24位と大幅に順位を落としたのです。

これを知った時、最初は驚いたのですが、同時に、ある程度納得も出来ました。

そもそも、今の時代、「アルバムって何?」というところから問い直す必要があります。

サブスクリプションにより曲単位で聴くことが主流となった今、50年以上前にビートルズが提示した「スタイル」が時代遅れになるのは当たり前。むしろ、半世紀の長きにわたって頂点に君臨し続けたことを、空前絶後の偉業と呼ぶべきでしょう。

実際、2020年にリリースされた作品で、2070年にも聴き継がれている作品が果たしてあるか、それすらあやしいですから。


時代により評価は変わっても、史上最強のバンドが、とんでもないアルバムを創った、その事実は永遠に残ります。






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