七尾・湯川温泉竜王閣 氷見・神代(こうじろ)温泉 秘湯巡り

2024/6/30

6月の終わり、梅雨のしっとりとした空気の中、ついに石川県白山市にある吉田酒造を訪ねることができました。以前から憧れていた「手取川」を醸す蔵元。吟醸酒の澄んだ飲み口と白山の自然が凝縮された豊かな風味に魅了され、近くの酒屋 酒の勝鬨で出会って以来、愛飲しています。
吉田酒造に近づくと、豊かな田園風景に囲まれた美しいロケーションに、歴史と伝統が息づく重厚な雰囲気を感じます。この蔵は地元の農家と密接に連携し、地域の自然を守りながら、良質な酒米を用いた持続可能な酒造りを実現しています。ご主人の丁寧な説明を受け、「手取川」がいかにして作られているのか、その背後にある長年の努力や情熱を知ることで、より一層その味わいが深く心に響きました。試飲こそできませんでしたが、霊峰白山から100年かけて流れ出る仕込み水を口に含み、その透明感と清涼感に感動。お土産には石川県内限定の手取川山廃吟醸酒を選び、宿でゆっくりと味わいました。
吉田酒造ウェブサイト:吉田酒造 手取川

お昼ご飯は「蕎麦ごゝろ 唐変木」へ。店内は木の温もりが感じられるログハウス風のインテリアで、吹き抜けの天井が開放感を演出しています。極粗挽きの「馬方十割そば」はインパクトがあります。蕎麦でこんなにパワフルな腰の強さは初めて。これは好みが分かれるかもしれません。噛むたびに蕎麦本来の風味が広がり、その存在感に驚かされます。特上そばは、一口目から力強い香りと甘味が広がり、細目でも太めの麺が特徴です。エッジが立ち、素朴かつリズム感のある食感です。濃厚な味わいの蕎麦湯もまたおいしい。とろける蕎麦粉を最後まで楽しんで、おなかいっぱいになりました。


蕎麦ごゝろ 唐変木(食べログ): 蕎麦ごゝろ 唐変木.

少し激しくってきた雨の中、能登半島を横断し、約半年前の大きな震災の爪痕がまだ残る地域を通り、一日も早い復興を願いながら、今夜の宿にたどり着きました。
能登七尾の名湯・湯川温泉の一軒宿「竜王閣」です。
温泉と地元の新鮮な魚介をふんだんに使った料理、ご主人と奥様の温かいもてなしが、この宿の魅力です。奥様の笑顔と心遣いは、まるで温泉の温もりと同じくらい旅人を心から癒してくれます。
ここの温泉は、北陸では珍しい天然ラドンを含むナトリウム・カルシウム塩化物泉で、加温加水は一切なし。掛け流しを存分に楽しめます。天然100%の湯に褐色の湯の花が舞い、一人体を鎮める、ゔぁーっ、と声が出て、そして、体の芯から温まる。湯につかりながらしばらく、ボーっとしていました。湯煙がなんともいい。


この温泉の歴史は興味深い。鎌倉時代の古文書に「湯河」としてその名が記され、平家の落武者がこの地で湯治をしていたとの言い伝えも残っています。元々は宿から150メートル離れた川べりに冷泉が湧いており、戦後は公営の湯治場として利用されていましたが、1967年に一度焼失しました。5年後、製材業を営んでいたご主人が旅館と冷泉を買い取り、40年間冷泉を温めて営業していました。平成に入ってから冷泉の湧出量が減少したため、宿のすぐ下を掘削したところ、51度を超す2号泉が湧き出ました。この2号泉は、石川県内270の温泉のうち、50度以上の湯が自噴している3か所のひとつで、その成分の豊富さと湧出量の多さが特徴だと。
湯船につかりボーっとして、どのくらい時間がったのか、気が付くと、鏡に向かって一心に?髭をそる人影が。年のころは30台後半か40台の濃い顔のいい男です。話してみると、時々日帰りで温泉につかりに来ると、なかなかの温泉通です。ここもとっても良いけど、地元の秘湯・氷見の神代温泉(こうじろおんせん)もいいですよと教えてくれました。
夜が更け、温泉と料理で心身ともに癒された私は、ふかふかの布団に身を委ねました。耳を澄ますと、外からは風に揺れる木々の音が心地よく響き、まるで自然が奏でる子守唄のようでした。

竜王閣の詳細(DISCOVER NOTO): 竜王閣の温泉

翌朝、朝食をいただいて竜王閣を出発。鵜浦漁港と観音島に立ち寄りました。そこかしこに、壊れた建物、ヒビの入ったアスファルトなど、震災の被害の大きさが目に入ります。その後、海岸線を富山に向かって走り氷見漁港にやってきました。少し早めのお昼ご飯は地元の新鮮な魚介を使った料理、海産物をお土産に買いこみます。
そして、小雨が降る中、神代温泉にやってきました。地元の人々の間でも知る人ぞ知る秘湯です。行ってみると、なるほど、わかる、確かに訪れる人を選ぶような特別な感じがします。髭面のイケメンが教えてくれなければ、絶対に通り過ぎていました。まず目に入るのは、古めかしい入り口の建物(今は宿泊客は取らず日帰りのみ)と、温泉特有の硫黄の香り。この香りが、これから始まる温泉体験への期待感を一層高めてくれます。受付の女主人がにこやかに迎えてくれ、その親切な対応にほっと一息。昔ながらの温泉宿の雰囲気を感じさせる佇まいと、温かいおもてなしが、特別な場所にしているのだなあと感じます。


神代温泉の魅力は、なんと言ってもその泉質です。湯口までは空気に触れず無色透明なお湯が、浴槽にくると鉄分が酸化されて赤茶色に。温度は42℃くらいで、鉄錆臭と強い塩気が特徴です。湯船の周りにも赤オレンジ色の鉄を含んだ成分が結晶化して沈着していて、鉄分豊富な温泉の証拠です。ざぶんと湯船に浸かる、その濃厚なお湯が体を包み込み、まるで大地の力が直接伝わってくるかのような感覚で、すぐに体がぽかぽかと温まります。じわじわと血行が促進されてきます。神代温泉の湯は肌に優しく、美肌効果も期待でき、女性にも人気があるとかないとか。温泉を出た後も、その効果が長く続くのが特徴で、発汗効果が凄い。湯上がりには、肌がしっとりと潤い、体全体が軽く感じられる、まさに良質な温泉ならではの体験でした。
残念ながら、現在は宿泊施設がなくなってしまったため、日帰り入浴のみとなっていますが、それでもわざわざ訪れる価値のある温泉です。アクセスは少し不便ですが、その分、静かな環境でゆったりと温泉を楽しむことができるのが、温泉好きにはたまらない魅力です。国道から少し奥まった場所にあるため、車でのアクセスが便利です。途中、氷見市の美しい自然、のどかな田園風景を楽しむことができ、ドライブがてら訪れるのもおすすめです。
神代温泉(じゃらんnet): 神代温泉

この旅を通して、北陸の温泉地とその地域が誇るお酒と食文化、そして温かい人々のおもてなしのおかげで、豊かな気持ちになりました。自然に抱かれながら体も心も癒されるひとときでした。湯川温泉、神代温泉は、温泉通が唸る素晴らしい温泉です。大切に残したい、末長く残って欲しい温泉です。
そして、地震の被災地の一日も早い復興を心より祈念いたします。

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